街の奥が霞んで見えるくらい大きな王都だね。
巫女の話と、魔族の国について。
王都へと向かう道すがら、俺達はクルスから巫女について説明を受けた。
「巫女って?」
「巫女はー神様との連絡係―。」
「俺も知ってるぞ。世界で一人だけ選ばれる、神様に一番近い人間だろ。」
「私がおばあちゃんに聞いたのは、神の言葉を王達に伝えるって。」
ウラガやグラスの知識も、だいたい同じようなものだ。王は神様に選ばれる。だが神から指示が来るわけではなく、王の采配で国が運営される。
巫女は神様の一番近くにいると言われる者であり、神との連絡係。それが一般的に知られている巫女だそうだ。
「巫女はー天変地異とかー災害をー神から聞くのー。」
「ふむふむ。」
「それをー各国に伝えるのー。」
「それだけじゃないよね?」
クルスはじっと俺の方を見ながら話してくる。これまでのクルスから、俺達はクルスが何か秘密を持っているのが分かる。ダンジョンで、それぐらいは分かる様になったのだ。
「あなたの事も教えてくれるならー。」
「あー。やっぱりそうなる?」
クルスの正体も、神様と繋がっている事も、そしてダンジョンでの経験からも、俺はクルスの事を信用する決意をした。
「実は、俺は転生者なんだ。~~」
俺は自分が死んでから神様に転生された事。奴隷を経てウラガと出会い、“神の涙”をクリアして、グラスと出会い、“神の手”をクリアして魔族の国に来た事を話した。
グラスにも話した事なので、要点を掻い摘んで話す事ができた。
「へー。面白いねー。」
「面白い?初めて言われたよw」
クルスから可笑しな評価を与えられた。面白い?確かに珍しいとは思うけど。
「納得してくれたみたいだけど、それで巫女って?」
「神様からー魔獣の盗伐とか依頼されるー。そのかわり、力と貰うのー。」
クルスの説明によれば、ただのメッセンジャーではないようだ。神様から各地の魔獣の動向を聞き、危険がありそうな場合駆けつけて処理する仕事が巫女なのだそうだ。
そして戦うための力を授かっているらしい。クルスが一般人以上に魔法を使いこなせるのは、神様の力によるところが大きいそうだ。
ちなみに力は選べるそうで、もともと魔力の多い魔族であるクルスは、迷わず魔法関係を選んだらしい。
「他の種族ならどうなってたんだ?」
「先代の巫女はー、エルフだったってー。彼女はー速度と遠距離攻撃を選んだってー。」
エルフは元々、体力や筋力が低い。なので接近戦は不利なのだそうだ。なので、遠距離攻撃を主体にして、万が一接近されてもその速度を活かして逃げ切るらしい。
「直接神様と会った事は?」
「ないー。だいたいが白昼夢の中でー声だけ聞くのー。」
本当に人前に出てこない自称神様だな。よくそれで民から信頼されるよな。
それからは、クルスがこれまでに退治した魔獣の話を聞きながら、魔族の王都へと移動した。
時期は9月くらいだろう。南半球なので冬だったのだが、そのも終わりを迎えようとしていた。獣人国で苦労した雪も、すでに溶けている。道が赤道近くになっていくので、雪も元々少なかったのかもしれない。
そして旅をしていると、魔族の国は本当に魔力が不均一な土地だと思い知らされる。魔力が枯れて植物が育たなくなった荒れ地や、さらに悪化して砂漠化している土地もあれば、花が咲き乱れた草原や森、綺麗な湖に鳥や動物たちが憩う土地もある。土地の状態すらも魔力次第なのだ。
もちろん魔獣も出てきた。と言っても、俺達の敵ではない。
頭が二つある犬のオルトロスや、ダンジョンでも見かけたハーピー。背中に羽が生えたヘビに、翼を広げると3mはありそうな巨大な蝙蝠が俺達へと襲い来る。
普通の人間にとっては、脅威だろう。並の冒険者でも、空を飛ぶハーピーなんかは苦戦するはずだ。だが俺達にとっては、雑魚同然だ。
俺の魔法のナイフや、グラスやクルスの魔法によって、近づく前に全て倒してしまうからだ。
そして今回からは、魔物を回収する事にした。“魔法の袋”にも余裕があるし、何よりメンバーが増えたので、お金が必要になるだろうと思ったからだ。だが“魔法の袋”の中は時間が経過するので、長時間生ものを入れておけない。なのでユキにお願いして、全て凍らして貰ってから、袋へ入れる。ちょっと面倒だ。
旅の途中、小さな町や村を通り過ぎた。魔族の家は、木材と土で作られた比較的がっしりした作りの物が多いようだ。
魔力が移動する魔族の国において、村を作る場所は比較的魔力の移動が少なく、植物や水が育つところだ。だがそれでも20年もすれば魔力は移動する。魔力が移動してしまえば、後は廃れるだけなので、人も一緒に移動するらしい。
なので比較的作りやすく、それでいて耐久性も持たせた様な作りになるそうだ。しかも魔力の多い魔族は、魔法を使える人間も多く、土木関連は特に問題なくできるらしい。
人族のレンガや土で作った家や、獣人族の高床式もしくは地面の下に掘った家とは、また違った趣が魔族の家だった。
魔族について驚いた事がある。それは服装がお洒落な人が多い事だ。魔族は羽があったり、角があったりと個人で姿が違ってくるが、獣人達ほど劇的に変化する事は無い。
しかも魔族は大昔、他国から恐れられていたらしい。魔力が高い事や過酷な土地で生きる姿から、勝手なイメージがついたのだそうだ。それを払拭しようと、大昔の王様が、服装くらしは紳士になろうというお達しがあり、それ以来服装の発展が進んだのだそうだ。
そして今の服装はと言うと、昔のイギリスを思わせるような、現代だと執事さんが来ているような燕尾服の様な服装が、今年のトレンドだそうだ。女性は動きやすそうな服装に、所々レースをあしらった、ワンポイントレース?が流行りだそうだ。その服装で、畑仕事や牧畜の仕事をしているので、もの凄く違和感を感じる。
そして街で買った食料に関しても、特に変な事は無かった。ただちょっとサイズが大きいくらいだ。これも魔力の偏りによって、植物の成長が促されて、食べ物が巨大化するのが原因だそうだ。
例えば馬子にあげる人参は、大根ほどの大きさがある。キャベツや白菜も、他の国より二回りほど大きい。
途中の街の冒険者ギルドで、道すがら討伐した魔獣の素材を引き取ってもらった。だが特に装備を買う必要も無いので、食料の買い物等をして一晩泊まると早々に旅立ったので、じっくり観光はしていない。
王都への道のりはかなり遠かった。“神の舌”から精霊の森へ15日程。そこからさらに1カ月ほど馬車で移動して、ようやく王都へと辿り着いた。
クルスの話によると、王都は魔力が定着している数少ない土地らしい。かれこれ1000年は魔力が安定して存在しているそうだ。
「うわー!街の奥が霞んで見えるくらい大きな王都だね。」
丘を越えた先に見えた王都は、これまでの王都で最大規模だった。少し小高い場所から王都を見下ろしているのだが、王都の奥の方まで正確に見る事ができない。それほどまでに広い王都に俺達はしばらくの間、驚き、感動するのだった。
王都へ行くまでの間に、クルスから色々聞いたようです。
そしてクルスは戦う巫女さんでした。納得の実力?
テル君は王都の広さに驚いているようです。前世で広大な都会を知っているはずなのに。それほど王都は広いという事です。
次回は、王都の話の予定。