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ユキがいいなら行くか。

精霊の森のお話。


「キュー♪」


ユキは俺の頭の上から離れて、仲間の元へと飛び立っていく。その姿が、今生の別れの様に感じて、俺の目から涙がこぼれそうになる。


俺達は、“神の舌”から魔族の王都へと旅をしている最中に、ユキの願いを聞いて精霊が集まる場所へとやってきた。場所は“生活の天使様”から聞いていた通り、川沿いの森の中だ。


見た目は普通の森なのだが、一歩入ってみると不思議な場所だった。


全身をネトッとしたもので包まれた様な。サウナに服を着たまま入ったような、まとわりつくような感じがした。


俺達は、これが魔力なのだろうと直感的に理解する。普段、自分の中にある物だけに、気持ち悪いが気味悪くはない。


馬子も通れるように、道を整地しながら入っていく。幸い、木はまばらにしか生えておらず草木も少ない。ギリギリ通って行ける。


中央に進む程、さらに魔力が濃くなるようだ。もう水につかっている様な感覚だ。ちょっと息苦しい程に魔力が濃い。


そんな森の中央近く、急に開けた場所が現れた。そしてそこには色とりどりの精霊がフヨフヨしていた。


水が中で渦を巻いている水の精霊。蝋燭ろうそくの火の様にユラユラと燃える火の精霊。水同様に、緑色の風が渦巻いていたり、竜巻の様な状態になる風の精霊。岩やブロックを積み重ねた様な土の精霊。


大体がこの4種類だ。


そしてポツポツと見られるのが、上位精霊と言われる複合魔法を使える精霊だ。つたこけで覆われた植物系の精霊や、黒い雲を中心にしてバチバチと放電している雷の精霊。そして、ユキの親戚に?にあたる、霧の精霊の姿もあった。


上位精霊はこの三体だけのようだ。あとは、4属性で占められていおり、だいたい20体くらいがフヨフヨしている。


そんな精霊たちの中へとユキがキュー♪と言いながら飛んでいく。


ユキと繋がっている俺には、ユキの心の断片が伝わってくる。初めての同族。そして多種多様な能力に、驚きと興味、そして仲間意識を感じられる。


ユキは精霊達に受け入れられて、グルグル回りながら戯れている。まるでダンスでもしているかのようだ。


しかもユキは氷の上位精霊だ。やはり上位精霊はモテる様で、すぐにユキへとアプローチ合戦が繰り広げられている。と思う。性別とか顔が無いので、正直良く分からないが、それもユキから流れてくる感情をから分かる。


ましてや、ユキは自然発生組の人と契約した存在だ。精霊の中でも珍しい部類に入るだろう。しかも俺の魔力を受けているので、普通の生物より格段に魔力は多い。精霊同士だと魔力の多い少ないは分からないが、それでも少ないという事は無いだろう。


そんなユキの幸せそうな姿を見ていると、俺はこのままユキと離れ離れになるのではないかと、不安になってくる。ユキの幸せを考えれば~とか色々考えてしまうのだ。


そんな俺の不安を感じたのか、ユキは俺の方へと振り向いてフヨフヨと近づいてきた。


俺はドキドキしながら、ユキへと問いかける。


「どうするんだユキ?」

「キュッキュー。」

「俺について来るのか?本当にそれでいいのか?」

「キュ♡」


ユキは俺から離れるつもりはないらしい。俺との旅が気に入っているし、何より俺が好きなのだと。言葉は少ないが、繋がった心で理解する。


気が付くと俺は、人目もはばからずに涙を流していた。俺にとって初めての友達で、この世界に来てからずっと一緒にいる存在。もうユキがいない人生なんて想像もつかなくなっていた。


そしてユキの方も俺の事を大切に思ってくれている。その事実を確認できただけで、俺の胸はいっぱいになってしまった。


その後は、各自で時間を潰す。


ウラガとグラスはこの魔力の多さに気持ち悪くなったようで、二人で森の外へと避難した。だが珍しい事に、聖獣であるスライムのシズクとモノリスのダイチは、ここに残った。精霊達と仲良く遊んでいる。


ちなみに、馬子はウラガ達が連れて行った。馬子も辛そうだったからだ。


クルスはさすが魔族と言えるのか、魔力の濃い場所は慣れているようで、精霊さん達をスカウトしようとしている。俺のユキの様に契約をしたいらしい。得意な【風魔法】の精霊へと次々アタックするが、見事に振られている。他の精霊もクルスの誘いには乗らなかった。


俺はというと、ずっとユキ達を見ていた。こんなに大量の精霊に出会う機会も少ないし、ユキの楽しそうな姿を見るのは俺も嬉しい。


当のユキはと言うと、本当にモテているようだ。色々な精霊とダンスのように、クルクルと回転している。


そして、ユキは相手を見つけた様だ。相手は水の精霊のようだ。ダンスを終えた後、ユキはキュッキュ♪と楽しそうに鳴いていた。何が決め手かは、人間の俺には正直分からない。


ユキはその水の精霊と、広場の中央へと移動する。他の精霊たちは、ユキ達を取り巻くように円を描くように回りを囲んだ。


俺も何が始まるのか興味があるので、クルスを連れて良く見える位置まで移動する。


ユキと水の精霊は、互いに向き合う。そして、身体から魔法光を発する。


ユキの白い魔法光と、水の精霊の青い魔法光が、二人の中央で混ざり合う。


二人とも、かなりの魔力を注いでいるようで、混ざり合っている場所は強く光り輝いている。


「キュー。キュー。」

「え。水の魔法結晶?ちょっと待って!」


ユキが突然水の魔法結晶をくれというので、俺は“魔法の袋”から水の魔法結晶を取り出して、ユキへと放り投げる。


ユキは投げられた魔法結晶を、自分の周りに氷を発生させる事で弾き飛ばし、水の精霊との間に注がれる魔力の塊へと魔法結晶をぶつける。


魔法結晶は、その魔法の塊へとぶつかると、パリンという音と共に砕け散る。すると直後に魔法光がさらに一際輝いた後、徐々に明るさを落としていく。


光が止んだ後には、小さな水の精霊が産まれていた。


今のは、新しい精霊の誕生の儀式だったようだ。そして無事新しい精霊が誕生した。


周りを囲んでいた精霊たちは大いに喜んでいるようだ。各自が魔法を発動させて、その喜びを表して、新しい仲間へと祝福を送っている。


当事者であるユキと、親の水の精霊は、魔力を大量に消費した様でヘトヘトだ。地面へと降りている。


おそらく、生誕には強い魔力と魔法結晶が必要なのだろう。水の魔法結晶を求めたのは、単純に相手の魔力が尽きそうだったからで、魔法結晶自体は、身体を形成する原料の一部の様だ。だから粉々に砕けたのだろう。


そして新しく産まれた水の精霊は、上手くフヨフヨ出来ないようで、あっちへふらふら。こっちへふらふらしている。


ユキがすぐさま、ユキの頭の上に子供の水の精霊を乗せる。まるでフヨフヨの仕方を教えているようだ。


「へー。こうやって産まれるんだー。」

「もの凄い貴重な場面を見れたようだね。」


巫女であるクルスも知らなかった、精霊が生まれる瞬間を俺達は目撃した。


その後はまるで祭りの様に、祝福が続いた。色々な魔法が飛び交い、見た目はカオスだが精霊たちの喜ぶ姿は見ていてとてもうれしくなってくる。


そして1時間もすれば、子供の水の精霊もフヨフヨ出来るようになった。


それを確認すると、ユキは俺の元へと戻ってきた。


「キュ。」

「もういいのか?一日位、いても良いんだぞ?」

「キュッキュ。」

「そっか。ユキがいいなら行くか。」


俺達の会話を聞いて、精霊たちは俺達の方へ向きなおしている。そして、御礼か出発を祝うように、一斉に色々な魔法を発動する。


精霊たちから見送られた俺達は、盛大な魔法の乱舞を背にしながら、ウラガ達がいる森の外へと歩いて行くのだった。


ユキが一番早く子供を作りましたね。

自然発生のユキは、魔法結晶に長時間、集中的に魔力が集まる事で産まれました。その話もいずれ書ければいいなぁ。

テル君は、ユキの思いに触れて泣いていましたね。既に自分の分身のような大切な存在なのです。

次回は王都への移動の話の予定。

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