もうすぐ仲間に会えるな。
ダンジョン攻略後、精霊の森への移動の話。
短めです。
「本当にダンジョンが消滅するなんてなぁ。」
馬子の元へと帰ってきた俺達に“森の剣”のリーダーが声をかけてきた。
話を聞く限りでは、ダンジョン攻略中、いきなり足元に穴ができたそうだ。何かミスしたか?と思ったそうだが、出てきた先がダンジョンの外だったので、俺達が言っていた事を思い出したようだ。
「何はともあれダンジョン攻略おめでとう。見る限りでは、かなりの敵だったようだな。」
俺達の姿と言えば、全身の防具が傷んでいたり、土埃で汚れていたり、魔力不足でへたり込んでいる。難敵といえばそうだろう。
「俺達は先に行かしてもらうな。ギルと王へ報告に行かなきゃならんのだ。」
「色々教えて頂いて有難うございました。」
「いやいや。俺達の方こそ世話になった。借りは必ず返すからよ。」
そう言うと“森の剣”の方達は、青色の生物の方へ歩いて行った。馬の骨格に、魚の鱗と鰭が生えている。水陸両用なのだろうか?変わった生き物だなぁ。
俺達の馬子とは言うと、元気にしていた。食べ物も少ないが残っている。ダンジョンに入って二週間は優に経っている。よくもった方だろう。馬子もかなり賢く生きていたようだ。
俺達の存在を見てからは、寝ていた体勢から起き上がって嬉しそうにブヒヒンと鳴いている。
俺達はさっそく馬車に乗り込む。かなり体力を消費したグラスや、魔力が無いクルスは馬車で休む。俺は御者台へ、ウラガは残りの魔力で【光魔法】を使っている。
馬子は久しぶりの運動とばかりに、軽快に歩き始める。
「キュッキュー。」
「え。あ、言ってたお願いの事か?」
「キュー。キュー。」
「精霊の集落へ行きたいんだな?途中で寄れるみたいだし、もちろん良いよ。」
「キュー♡」
「ところで、精霊って故郷とかあるのか?」
「キュ?キュー。」
「へー。故郷って言える場所は無いんだぁ。産まれた瞬間から移動生活なんだな。」
精霊と言うのは、自然発生する個体もいるそうだ。他にも精霊同士の間で、子供ができるそうだ。謎の繁殖方法だ。
そして精霊は魔力の多い土地を求めて移動する。そして魔力の多い魔族の国では、精霊にとっては住みやすい環境であり、出会いの数も増えるそうだ。
ちなみに、ユキには産まれた時から一人だったらしい。自然発生組だ。なので、単純に自分以外の精霊に会いたいそうだ。
“神の舌”のダンジョンである屋敷から伸びる道は、一本道だった。まっすぐに続いている。天使様が言っていた通り、“神の舌”のエリアから脱出させてくれるらしい。
天使様の気遣いか、道の途中にあるエリアはどれも過ごしやすいものだった。花畑や野菜畑、小川に沿ったり気持ちの良い草原などだ。
俺達は野菜畑で、大量の野菜をゲットした。ダンジョン内ではないので、野菜が消えることも無い。正真正銘の食材だ。
その日の夕食は久しぶりに野菜がメインだ。ポトフにしたり、丸々焼いたり、サラダにしたりと、久しぶりの新鮮野菜を堪能した。
もちろん馬子にも渡す。我慢する必要が無いので、馬子もたくさん食べていた。やはりダンジョンの外では、小食に勤めていたようで、食べ終わった後は満足そうな顔をしていた。
そして、ダンジョンを抜けて20日程でようやく“神の舌”を越えた様だ。今まで草原等で過ごしやすかった環境から、いきなり荒れ地へと出たのだ。
魔族の国は魔力が多い。そして魔力の偏りも大きい。1~2年かけて、ゆっくりと魔力が移動するらしい。魔力の多いところは生物や植物が繁栄し、魔力が少ない場所は土地が痩せて荒れるそうだ。
なので、魔族の国には森が少ない。せいぜいが林、もしくは背の高い植物ってところだ。木が成長する前に魔力が移動するので、大きくなるまで育たない。例外として、魔力だまりという、魔力がずっと高いまま集まってくる土地は、森になったり人が住むらしい。
そういう魔族の一般常識を、魔族であるクルスから教えてもらう。
そして馬車をさらに走らせる事5日。天使様が言っていた通り、川が現れて、その近くに大きな森が現れ始めた。
「キュー!キュー!」
「もうすぐ仲間に会えるな。」
ユキは、アレ!きっとアレだよ!と嬉しそうに鳴いている。俺は、テンションの高くなったユキを膝の上に置いて、ヨシヨシしながら宥める。
森へと近づいた俺達は、道から外れて一路、精霊がいるであろう森へと進むのであった。
移動で終わりになりました。切りが良かったので。
テル君は、ユキがいなくなるとか思わないんでしょうか?いや。確実に不安には思っているはず。しかもそう言う感情は、繋がっているユキへも伝わっているでしょう。それでもユキは行く。どうなる二人!?
次回は、精霊の森の話の予定。