明日ボスに挑むので、このダンジョンも消滅します。
第51,52,53,54,55,56室の話。
かなり省略しました。
ボスの扉にある表示を確認する。
50/56
「あちゃー。増えてんな。」
ウラガが残念そうに言う。ダンジョンは時間が経過するほど、ダンジョンもボスも強くなる。
50階までは2日で一階のハイペースで増える。その後は、ゆっくりと成長する。確か、神様の手紙にそんな事が書かれていたはずだ。
「もうすぐだな。ちゃちゃっと行くぞ。」
51室からは掃除シリーズだ。51室の課題は皿洗い。
大量の汚れた食器や包丁などのキッチングッズがある。それを部屋の壁からチョロチョロと流れている水で洗うのだ。
そしてここでの環境変化は、寒さだ。水をつけた手が凍えてしまい、長時間の皿洗いは凍傷になりかねない。
絶対氷点下なのに、水は凍っていないのだ。流れる水は凍りにくいらしいが、それでも異常な冷たさだ。
だが俺達にとってはそんな事は問題にならない。なぜなら俺以外の三人が【生活魔法】を使って、皿を洗ってくれるからだ。魔法様様である。
俺は一人で部屋の中にいた魔獣を蹴散らしていく。それが終わったら、俺は見ているしかできない。
「テルでも包丁くらいならイケるんじゃね?」
「あーそうだね。」
チッ。気付かれたか。俺は【オール・フォー・ソード】のせいで、魔法といえども剣が関わらないと使えない。なら包丁も剣の一種だと認識すれば、イケるはずなのだ。というかイケるだろう。
俺は大量にある洗いものの中から、包丁だけを選んでいく。
そして一か所に集めた包丁に対して、【生活魔法】のウォッシュとドライをかける。俺の手から溢れた水色の魔法光で包丁の汚れが落とされ、赤色の魔法光で一気に乾燥させる。
数が少ないので、あっという間に終わった。洗い終わった食器は、所定のボックスへと入れた。
他の食器類についても、三人がかりで【生活魔法】をかけているので、あっという間に終わる。
結局2時間もかからず終了だ。楽勝である。
お茶を飲んで、冷えた身体を温めた俺達は、次の52室へと挑む。
52室は30kmにも渡る溝掃除と床掃除。この部屋だけ特殊で細長いのだ。道も、土の道から石畳、木材に芝生と様々だ。
俺達は用意されたブラシや箒を持って、掃除を開始する。落ちているゴミを拾ったり、良く分からない汚れをゴシゴシととる。しつこそうな汚れは【生活魔法】で終わらせる。
もちろんこの部屋でも環境が変化していた。暑い。蒸し暑いのだ。先程の部屋との気温の変化が大きすぎて、身体に不調をきたしてしまう。
「むー。ふらふら―。」
クルスが一番最初に気持ち悪くなった。最年少のグラスはまだ大丈夫なようだ。クルスは環境の変化に弱いのかもしれない。そもそも体力少なそうだしなぁ。
「ちょっと勿体ないけどー。しょうがないー。」
と、クルスは生活魔法の魔法結晶を取りだした。このダンジョン内で大量に習得したものだ。俺とウラガの“魔法の袋”にはまだ大量に入っている。その魔法結晶に魔力を流して、【生活魔法】を発動して自分の周りを冷やした。
「そうだな。今無理するのは良くないよな。じゃんじゃん使おう。」
俺達はウラガの【大盾】に守られるように小さな部屋を擬似的に作り出す。そこを【生活魔法】の魔法結晶で冷やす。魔法結晶は、小さなものばかりなので、あっという間に空っぽになるが、それでもじゃんじゃん使った。
ついでに掃除も魔法結晶の【生活魔法】で済ませた。歩くだけで道も溝も綺麗になる。さすがにゴミは拾わないといけないが。
20個近い魔法結晶を使い切り、52室を俺達は余裕でクリアした。今回は4時間もかかっていない。ちょっと早歩きで歩いた位だ。本当ならこれの数倍かかるだろう。
もうすぐ夜になるという時間だったので、俺達は18室へと戻る。今度は俺達が“森の剣”さん達に料理を振る舞った。
サラダから始まり、串焼きや唐揚げ。魚を焼いた物等、居酒屋メニューで色々作った。そして一番人気だったのが、フライドポテトだ。塩をふったり、即席ケチャップを添えてある。
「「「旨ぁ!!」」」
さらにポテトチップスも作っておいた。“森の剣”さん達だけでなく、ウラガ達も食が止まらないようで、どんどん追加で作った。
料理に目覚めた“森の剣”のリーダーさんに、くわしい作り方を聞かれたので、実践して見せた。ケチャップもだ。隠す程でもないし、もし街へと広がったら、俺が作らなくても買えば済むようになるだろう。楽ができる。
利権は相当なものになるだろうが、俺は金には困っていないので“森の剣”さんに譲った。
ウラガが恨めしそうな顔をする。将来、お店を持つのが夢の彼にとっては、俺の料理は金になると思っている節がある。なので、将来ウラガが店を持ったら原価で取引する確約だけは取り付けた。まぁ将来どうなるか分からないので、ウラガにはそれで我慢してもらった。
翌日は53室である。53室は大量の汚れた衣類の洗濯。
これもまた【生活魔法】であっという間に済ませた。特に何もなく終わったので、呆気ない。
休憩後は54室である。煌びやかな装飾品や、壊れやすそうな木彫りの、掃除と油塗りである。
この部屋は、ちょっとめんどくさかった。部屋には灰が降り注いでいたのだ。掃除した瞬間から、また汚れてしまう。
俺達は、ユキへと協力を依頼する。フヨフヨと俺の頭の上を浮かんでいたユキは、俺の前まで移動する。
「キュッキュ。」
「え?ユキがお願い?いいよ。俺に出来る事なら何でもやるよ。」
珍しい事もあるもんだと思った。今まで俺へとお願いした事は無かったからだ。いつも楽しそうにフヨフヨしていたので、気にした事もなったが、何か不満があったのかもしれない。
「キュー。」
「後で?うん分かったよ。」
なんで今のタイミング何だろう?よくわからない。
とりあえず、クルスの【火魔法】で温度を下げて、俺の【水魔法】とユキの【氷魔法】で雪を降らせた。長時間降らせた事で、天井から新たな灰が降る事も無くなり、床には灰で汚れた雪が積もっていた。あとはユキが【氷魔法】で気温が下がらない様に維持するだけだ。
その間に俺達は【生活魔法】を使い、繊細な細工の彫刻も壊す事無くきれいに仕上げた。
あとは俺の【土魔法】とユキの【水魔法】で油を操作して、薄く塗れば終わりだ。
さすがに魔力を大量に使ったので、俺もユキも気持ちが悪くなった。昼食の干し肉を齧りながら魔力の回復に努めた。
55室はトイレや台所の水回りの掃除だ。これも俺以外の三人が、【生活魔法】を使いまくる事であっという間に終わった。
ボス前の最後の部屋である56室は、書類仕事だ。そして環境変化は、爆音だ。
初めての爆音だが、これが厄介だった。爆発音のような大きな音が鳴ったり、モスキート音の様にピーという音が鳴ったり、リズムを刻む音楽が鳴ったりと、とにかく俺達の集中を掻き乱す。
書類仕事というか、計算問題は依然と内容は変わらなかった。普通の文章問題だ。
微分とか積分とか、行列とか証明とかはない。中学生レベルの文章問題が並んでいる。
俺は文章を読んだ後、最初の式を記入していく。あとはウラガとクルスが解いてくれる。二人とも、書かれた計算は慣れたようで、ゆっくりとだが確実に解けるようになっている。まだ文章から式を導くのは難しいようだ。
そしてグラスはと言うと、最初から諦めているようで魔獣退治を担当してくれた。ミノタウロスやケンタウロスが出てきたが、グラスはあっという間に倒してしまう。おそらくウラガに【生活魔法】で身体強化してもらているのだろう。
爆音という変わった環境変化に苦労したが、なんとか夕方には終了できた。
また18階へと戻り夕食を食べながら、“森の剣”さん達へと明日ボスに挑む事を告げる。
「明日ボスに挑むので、このダンジョンも消滅します。」
俺の言葉に“森の剣”の方達は?マークを浮かべて不思議そうな顔を俺達へと向けてくる。俺としてはどうしてそんな顔をするのか分からず、双方で?マークが飛び交う事となる。
とうとう部屋を全部クリアです。一応、最速で駆け抜けましたが、なんとも描きにくいダンジョンだった。
テルは律儀に森の剣さんへ報告しています。ですが何やら理解の相違があるようですね。
次回はボス部屋以降の話の予定。