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水を入れるから、沸かしてくれるか?

第49,50室の話。


雷の鳴る49室へと入る俺達。


もうすぐ日が落ちるので、今日は下準備だけだ。


ゴロゴロ。キュドーン。


500m×1kmしかない部屋だ。雷が空気を切り裂く音と、空気を分解してできるオゾン特有の臭いが鼻にくる。


「ちょっと下がってて―」


毎度のことながら、クルスに【風魔法】で落ち葉を強制的に落としてもらう。


クルスの身体から緑色の魔法光が出て、それが空気に溶けると風が巻き起こる。


最初はそよ風から始まって、徐々に風力が増していく。その絶妙な力加減によって、どんどん花や葉っぱが落ちてくる。


「危ない!」

キュドーン!


グラスの【危険予知】によって、雷を予感した俺達は、直ぐに真後ろにある扉から逃げる。


俺達が逃げるのと同時で、近くにある木に雷が落ちた。目の前の木から、プスプスと煙が上がっている。もしグラスの【危険予知】が無かったら、誰かが感電していたな。


「皆無事だよな?」


俺はとりあえず皆の様子を確認する。ウラガもグラスも大丈夫そうだ。だがクルスだけが不満顔だ。


「どうしたクルス?怪我したか?」

「魔法、途中で切ったからー。ちょっとしんどいー。」


クルスによると、繊細な魔力コントロールをしていたのに、魔法を強制的に止めたので魔力が酔いのようなものになったそうだ。


そんなものがあるんだな―。と俺は感心していた。【風魔法】の様に連続して魔法を行使する事があまりない俺は、途中で止めることもほとんどない。止めるとしても自分のタイミングだったので、魔力に酔った事は無い。


雷による強制終了もあったが、とりあえず大部分の葉っぱを落とす事には成功している。今日の所ところはこれくらいにして、俺達は食事を取りに、18室へと移動する。


18室には、すでに魔族の冒険者パーティーである“森の剣”が料理していた。そう。料理をしていたのである。昨日の話を聞く限り、料理はほとんどしたことが無い彼らだ。気になってしまう。


「どうしたんですか?急に料理だなんて。」

「ふふふ。よく聞いてくれた。これを見てくれ。」


リーダーが、自分が付けているエプロンを指差す。俺は【解析】を使って、詳細を探る。


■主婦のエプロン:付与・料理技術上昇


また珍しい付与が付いた物を持っている。


「料理技術上昇ですか。だから料理を?」

「そうなんだ!凄いぞこれは。レシピを見ると、腕が勝手に動き始めるんだ!」


なにそれ。呪われてそう。


料理の技術が上昇するだけなので、新しいレシピを考えたちは出来ない。だがそれでも、料理初心者が、主婦レベルの技術力で料理ができるようになる。


そもそも【生活魔法】っぽい付与自体が珍しいのだ。売ればかなりの値段になるだろう。


「ダンジョンの宝箱ですか?」

「そうだよ。やっと見つけたんだ。」

「良いのが手に入りましたね。」

「ふふふ。羨ましかろう。そしてこれも見てくれ!」


■計算の鉢巻き:付与・計算能力向上


鉢巻きというかバンダナに近いものを、斥候の男が付けていた。


「へぇ。計算能力ですか。苦労されてましたものね。当たりじゃないですか。」

「だろう。これで今後の買い物や金勘定も、楽になる。」


俺にとっては特に欲しいと思える付与ではないが、“森の剣”の人たちにとっては、かなり良い物を当てたようで、嬉しそうだ。


そんな上機嫌な彼らのご厚意で、俺達は食事を振る舞われた。と言っても、食材は18室にあるものなので、材料費はかかっていない。


壁に掲げられたレシピ通りの普通の料理だ。だが、なんだか懐かしい味が・・・しないな。この世界の料理は、ちょっと日本とは違うので。


久しぶりに俺が料理をしなくても良い日だ。片づけだけは担当するが、それでも楽だ。いつもは俺が倒れたり気絶したりしない限り、辛くても俺の担当だ。いいもんだ。


食事中の話は、俺があげた九九の表や、ちょっとした計算式が、どれだけ便利かの話や、俺達が見つけた料理が上手になる包丁の話だ。


“並列のイヤリング”や“命中の指輪”の事は秘密にした。嫉妬されそうだ。もしかしたら奪われるかもしれない。用心に越した事は無い。


そして翌日。俺達は49室へと向かった。相変わらず雷が鳴っている。


今日は最初からウラガに【生活魔法】をかけてもらい、体力等を強化してもらっている。この部屋は短時間で終わらせる。


俺は部屋に入るなり、【ステップ】を連続で使用し、部屋の中を高速で移動する。そして魔獣をバッサバッサと切り倒す。ちなみに、出てきた魔獣は全身を土で覆った、ミノタウロスだ。亜種と言うやつだろうか?と思ったが、ただ【土魔法】で全身を覆って、雷の影響を防いでいるようだ。


落ち葉を片づけている仲間の元へ戻った俺は、魔獣の事を話して、【土魔法】で全身を包み込もうとする。だがそう上手くは行かない。動いた瞬間から、土がボロボロと落ちてしまう。おそらく、【土魔法】を常時使用しないとダメなのだろう。


俺達は、急いで落ち葉を片づけた。途中何度か雷に打たれそうになるが、グラスの【危険予知】と【土魔法】で作った盾のおかげで、なんとか防ぐ。


とここで、意外な事が分かった。クルスは【土魔法】が使えないらしいのだ。


「人にはー得手不得手があるのー。属性?」


クルスが言うには、クルスには【土魔法】の適性がかなり低いらしい。それなら、他の魔法を成長させて、使えない【土魔法】をカバーできるようになろうとしたそうだ。


自称“魔法のことなら任せて”の意外な事実。今さらと言えば、今さらだ。


なので、今回はウラガに守ってもらう事になった。ウラガが【大盾】に【土魔法】で土属性を付与出来るので、それで雷から守ってもらう。


それでも2時間かかって、ようやく落ち葉の片づけを終了する。俺達は逃げるようにして49室を後にした。


俺達は休憩のお茶を飲みながら、先ほどの適性の話をする。


「俺にも不得手な属性ってあるのかな?」

「ほとんどの人にあるー。無い人は、ほぼいない―。」

「俺は既に水と土と生活、空間、光、の魔法が使えるから、もしかしたら、火か風がダメなのかもな。」

「俺もそうだな。テルと一緒だもんな。」

「私はどうなんでしょう?水と風かなぁ。」

「でも、俺達は何でも出来そうだよな。」


ウラガがそんな事を言って、俺の方を見つめる。おそらく俺達の固有能力、【オール・フォー・ソード】や【ハイガード】、【竜力】の事を言っているのだろう。


だが俺はウラガの言葉に同意せず、だんまりを決め込む。そして視線はクルスへと向けた。ウラガも俺の視線が意味するところを理解して、急に慌てる。


「あ。その。なんだ。実は俺って、こう見えて貴族なんだよ。だから俺基準で喋っちまったなぁ。ハハハ。」


貴族は一般的に固有能力を持つ者が多い。大昔、その固有能力を活かして貴族へとのし上がった経緯があるからだ。その末裔である貴族も、固有魔法を受け継いでいる。


なんとかウラガが話を逸らそうとするが、もう手遅れだ。クルスの視線は、何か言いたげに俺へと注がれる。


だが意外な事に、クルスは何も聞いてこなかった。彼女がなぜ聞かないのかは分からないが、俺はそろそろ話しても良いかな?と思い始めている。もしかしたら、自分から話すのを待っているのかもしれない。


俺達は微妙な空気のまま、50室へと向かう。片づけの最後は、このダンジョンでは一番嫌なゴミの仕分だ。


いつものように、生ゴミから腐った木材。カビた皮製品に、動物の死骸まで。ありとあらゆるゴミが、悪臭を放っている。


しかも最悪な事に、今回の環境変化は“毒霧”だ。硫黄の臭いがする紫色の煙が、部屋の床に溜まっている。直接触れても溶けたりはしないが、吸い続けると気分が悪くなる。おそらくだが、紫の煙が腐敗を進行させているのかもしれない。


俺達は口に布を巻いて、なんとか臭いを減らそうとする。だがそれでも強烈な臭いで、鼻がもげそうだ。グラスに至っては、部屋に入るなり気絶してしまった。


グラスを部屋の外へと避難させてから、俺達はとっとと50室をクリアするために、休まず頑張った。一つ一つのゴミを分別して、所定の箱へと移していく。


ゴミを片づけながらも、魔獣の相手をする。巨大なハエの魔獣だ。だが魔獣ごときに構っていられないと、俺は“水の一振り”で【スマッシュ】を使い切り飛ばす。


詳細は省くが、それはもうグロいゴミが、わんさかと出てきた。カビた牛乳雑巾が可愛く見えるし、手術映像が綺麗に思える程だ。


超頑張ったおかげで、2時間でゴミの仕分を終わらした俺達は、急いでグラスを連れ戻して、部屋をクリアする。グラスも部屋をクリアするためには、奥の扉を潜る必要があるのだ。グラスは息を止めたまま、全速力で部屋を走り抜ける。獣人特有の肺活量と身体能力の助けを借りて、ギリギリ部屋の中では呼吸をせずに済んだ。


そしてクリア後、ボスの扉まで戻ってくると、すぐさまウラガに【生活魔法】のリフレッシュをかけてもらう。


魔法によって、全身の汚れは落ちたはずだが、それでも異臭がするような気がしてならない。なので、恒例の風呂に入る事にした。


本来なら昼食の時間なのだが、そんな事は言ってられない。


「そう言うと思って、お風呂の準備を始めておきました。」


50室の攻略に関わらなかったグラスは、風呂に入るだろうと思い、第2室にお風呂の準備をしていたのだ。だが【水魔法】の使えないグラスは、浴槽の準備をしただけだ。


「水を入れるから、沸かしてくれるか?」


俺は【水魔法】で巨大な剣を3本作り出して、それを浴槽へと入れる。魔法を解除すると、剣の形が崩れて、あっという間に水が溜まった。


それをグラスが【火魔法】で浴槽ごと加熱して、お湯を沸かしてくれた。


出来あがったお風呂は、男性陣がジャンケンの結果、先に使わしてもらった。しっかりと風呂に入り、身体と頭を洗う。


素早く済まして、女性陣と交代する。


俺は女性陣が入っている間に、昼食の準備を始めるが、干し肉とスープだけなので、あっという間に終わる。


やっと50室まで来た。もう少しでボス部屋だ。


雷は近くで鳴ると怖いですね。それでも屋内にいると、楽しくなってきてしまいます。

ゴミ臭いのは耐えられない。食欲もわかなくなりますよ。

テル君は、クルスを信用してもいいかなと思い始めているようです。ですがクルスの正体も分からない。ただの一般人かもしれない。色々葛藤しているようです。

次回は51室以降の話の予定。

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