天井だけ燃やせるか?
第45室、46室の話。
夕食を取り、体力と魔力の回復したウラガとグラスを伴い、45室へとやってきた。
45室の砂嵐の事は、事前に話してある。
45室は、鍵が時間と共に変わる仕組みなので、いつ本物が出てくるか分からない。長時間、部屋にこもる事になる。
なので、疲れているだろうが、少し無理をしてでも進もうと、ウラガとグラスが提案してきたのだ。
そして45室へとやってきた俺達は、さっそくダイチに頼んで、洞窟を作ってもらう。
砂だけだと強度が出ないので、俺やユキが【水魔法】を使い、砂を濡らす。
土の聖獣であるダイチは、身体に触れるだけで土や砂を操れる。あっという間に、部屋の奥へと続くトンネルが出来上がった。
途中、そのトンネルを崩して、人とサソリが合わさったスコーピオンの様な魔獣が襲いかかってきたが、クルスの火魔法に焼かれて倒される。
1km先にある扉の前で、俺達は野宿の準備をする。
ダイチがドーム状に巨大な壁を作ってくれる。二か所ほど煙突を開けて、通気口まで完備だ。もちろん水を混ぜて、強度を増している。
それでも魔獣の襲撃があるかもしれないので、鍵を担当すすだけでなく、【周辺把握】なども使い、警戒する。
順番は、一番元気な俺から、クルス、ウラガ、グラスの順番だ。
俺以外の三人は、さっさと眠りに着く。俺は、ユキを頭に乗せたまま、4本の鍵を見つめる。
いちいち鍵を扉に入れるのは面倒なので、鍵の姿が変わった瞬間に“土の一振り”を使って、傷が付くか確認する。
「なぁユキ。【水魔法】と【土魔法】を合わせた上級ってどんな魔法かなぁ。」
「キュー?」
「そりゃ気になるよ。俺って、【水魔法】と【土魔法】が両方ともレベル3になりそうだろ?今から楽しみなんだよ。」
「キュ。キュー。」
「ありゃ。ユキでも知らないのか。イメージだと、泥沼とか・・・泥沼とか。」
イメージが湧かない。水と土から出来るものなんて、泥しか思いつかないのだ。【水魔法】と【風魔法】は【雷魔法】になるし、【火魔法】と組み合わせれば、【氷魔法】や【霧魔法】になる。【土魔法】だけが謎だ。
「~で、魔族の王都に着いたら!!」
俺とユキが喋っている時に、【周辺把握】で魔獣の存在を確認した。俺の【周辺把握】は半径500mなので、本当は部屋に半分を把握出来ている。来る時に部屋の中央をトンネルで通過した事から、部屋にいる魔獣の数も把握していた。
そして今から襲ってくる数が2匹。この部屋で、最後の魔獣達だ。
ズシャアァと折角ダイチが固めた砂の壁を、スコーピオンは大きなハサミで潰して入ってくる。
体長は尻尾の先まで入れると3mはありそうな巨体だ。手には大きなハサミ、尻尾にはサソリらしい大きな針が見えていた。器用に砂の壁を乗り越えて、二匹が入ってくる。同時に、開いた穴から砂嵐も入ってきた。
幸い、ウラガ達が寝ている方向とは逆から攻めてきたので、ウラガ達に砂がかかる事は無い。だがモゾモゾして今にも起きそうだ。
「折角の睡眠を邪魔するんじゃねぇ!」
俺は小声でスコーピオン達へと言葉を投げかける。相手が答えるはずも無いので、俺は早々に片づける事にした。
ずっと出している“土の一振り”に魔力を流して攻撃力を上げる。おそらく【生活魔法】によって、身体を強化しているはずだ。身体の硬さだけでなく、スタミナというかタフさも上がっている。
なので、俺は一撃では無く、何度も攻撃して細切れにしようと考えた。
ちょうど4本の鍵も姿を変えたので、本物ではないかチェックする。全ての鍵に傷が付いたので偽物だ。次に姿が変わるまで、およそ1分。その間に倒す!
俺は【ステップ】を使いスコーピオンへと接近した。スコーピオンは俺の速度に驚いて、咄嗟に大きなハサミでガードを取る。だが俺は【スラッシュ】を発動して、切れ味を増した剣で、ハサミごと切り裂いた。切った先から、緑色の血が溢れる。
ハサミが真ん中で真っ二つにされた事にスコーピオンは驚いている。俺はその一瞬を逃すまいと、続けざまに【スラッシュ】を叩きこむ。
腕、足、身体、頭、と身体をバラバラにされれば、幾ら【生活魔法】で強化されていようと耐えられるものではない。
「まずは1体。次に行きたいが、そろそろ1分。」
俺は左手でポケットの中の鍵に触れると、ちょうど鍵が変形を始める頃だった。
「とりあえず、お前は吹っ飛べ!」
俺は二匹目のスコーピオンへと、“土の一振り”の背を叩きつける。ちょうど野球ボールをバットで弾き飛ばすような格好だ。
だがスコーピオンは見ため以上に重い。全く飛ぶ気配がない。漫画の様には行かなかった。
「なら移動してもらうまで!」
俺は【土魔法】で二本のナイフを作り出す。一本はドームの外へと投げ飛ばし、一本はスコーピオンへと突き刺した。
スコーピオンは、俺の攻撃に構わず大きなハサミで俺を挟もうと腕を伸ばしてくる。
「遅いんだよ。」
俺は【空間魔法】を使い、ドームの外に投げたナイフと、スコーピオンの位置を入れ替える。
転移したスコーピオンは、振った腕で空気を挟む。突然の事で、混乱しているようだ。
俺はその間にポケットから鍵を取りだして、“土の一振り”で傷が付くか確かめる。4本とも傷が付いたので、偽物だ。俺は再び鍵をポケットに入れ直して、スコーピオンを見つめた。
俺の【空間魔法】はまだ50mしか移動できない。なので状況を理解したスコーピオンが再び俺へと攻撃するために移動し、俺の近くまで移動してきていた。
もちろん俺は【周辺把握】で状況を把握している。俺は再び“土の一振り”を携えて、【ステップ】と【スラッシュ】を連続で使用する。そして呆気なく最後のスコーピオンもバラバラにされて倒された。
スコーピオンを倒した事を確認すると、俺はすぐさま鍵を取りだす。また姿が変わっていた。再度、傷を付けて確認するが、どれも偽物だ。
俺は慌ただしい戦闘を終えると、壁の修理へととりかかった。
だが俺ができる【土魔法】は剣の事に限られる。ドームを直す事は出来なかった。
申し訳ないと思ったが俺はグラスを起こす。そして、ダイチと一緒にドームを作り直してもらった。ついでに、魔獣はもういない事も伝えてあるので、後顧の憂いなく、ぐっすりと眠れるだろう。
その後、3時間の鍵当番をしたが、結局当たりは来なかった。クルスへとバトンタッチして俺も眠らせてもる。
そして翌日。結局クルスも、ウラガもグラスも、当たりが来なかったようで、朝食後は俺へと順番が回ってきた。
そして2時間後、ようやく当たりを引いて、45室をクリアする事ができた。実に14時間もかかった事になる。恐ろしい。
大扉の前まで戻った俺達は、ウラガの【生活魔法】リフレッシュにより、全身の砂を落としてもらう。幾らトンネルとドームを使ったとしても、結構汚れているものだ。
そして俺達は、少しだけ寝不足の身体を押して、46室へと挑む。
46室は、おもちゃの片づけである。だが46室も前室同様、天候が変化していた。
次は霧である。もの凄い濃い霧が部屋を覆い隠しており、視界はほぼ0である。
「【火魔法】でー吹き飛ばす―?」
【火魔法】により空気を温めれば、飽和水蒸気量が上昇するので、空気中に霧が溶けるだろう。だがそれではダメだ。万が一、おもちゃへが溶けてしまったり、木製のおもちゃが燃えるとクリア失敗になる。
「良いアイデアなんだがなぁ。天井だけ燃やせるか?」
この部屋のおもちゃは、天井まで届いていない。せいぜいが胸元までしか、積み重なっていないのだ。なので天井付近だけを燃やせるのなら、使える方法だ。
ちなみに、【生活魔法】ではそこまで大々的に温度を上げられない。せいぜい自分の体の周りから、小さな部屋くらいまでだ。威力も弱い。
クルスは少し考えた後、一か八か実験してみると言い出した。
別に止める必要も無いし、積極的な実験は俺も推奨しているの。なので俺達は一端部屋から出て、クルスだけ部屋の中へと踏み込んだ。
そして【火魔法】を使った実験を開始した。
進まなーい。と言う事で、また次回からは端折って行けるところは、端折りたいと思います!
テル君は、もともと化学系なので実験大好きです。とりあえずやってみようっていう性格かもしれません。
次回は46室以降の話の予定。
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皆さま、明けましておめでとうございます。
本年も、より楽しめる作品作りに邁進する所存ですので、御愛顧のほど宜しくお願い致します。
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元日。