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でも、こんな広範囲に眼法使って、大丈夫か?

第29,30室のお話。


「いっったぁ。」


クルスをかばって、飛んできた葉っぱの攻撃を受けた。だがほとんどの葉っぱは、王都で貰った鎧によって防がれた。だが、一枚だけが鎧の隙間を縫って、俺の脇下わきした辺りに突き刺さった。


俺の脇を、生温かい血液が流れていく。不快だが、そんなことより、俺には気になる事があった。


「クルス、怪我してないか?」

「うー。怪我してない。」

「そっか。良かったぁ。」


クルスは何だが申し訳なさそうな顔をするが、俺は逆に笑顔を向ける。自分が傷つくより、仲間が怪我するほうが、俺にとってはイヤな事の様だ。


「テル大丈夫か!?ちょっと後退して治療するぞ。」

「ありがとうウラガ。」


ウラガは、【大盾】を発動しながら、主に俺を守る位置取りで移動してくる。そして俺達はジリジリと大量の落ち葉の道を交代して、魔獣のいない場所へと移動した。


「グラスは見張りを。クルスは魔法で防御出来るか?」

「ちょっとの間ならー。」

「わかった。任せる。」


クルスは【風魔法】を使い、俺達の周りに風で作った壁を作り出した。土魔法を使わなかったのは、土を移動する事で、近くの木々が倒れる事を防ぐためだ。もし倒れたら、今までの苦労が無駄になる。


「葉っぱを抜いたら、しっかり押さえとけよ。」

「分かった。魔法、頼むな。」

「任せろ。」


俺は脇下に食い込んで来た銀杏いちょうの葉っぱを引っこ抜く。すると、ドロっと今まで以上に血が溢れだしてきた。俺はすぐさまタオルで脇下を押さえて、圧迫止血に取り掛かる。


ウラガはと言うと、【光魔法】を使って俺を治そうと集中している。ウラガの手のひらから溢れた白い魔法光が、俺の傷口を優しく包み込む。


暖かな日差しを受けているかのような、気持ちの良いカンカン国包まれていると、段々と出血が止まり、最後には傷口も完全に治った。


「もう大丈夫だ。ありがとうウラガ。」

「どうってことないぜ。」


ウラガは額に球の様な汗を垂らしながら、俺の言葉に、男前の笑顔で答えてくる。


魔法はイメージなのだ。おそらくだが、ウラガは回復系の魔法が苦手なのかもしれない。いや。まだ慣れていないのだろう。ウラガの【ハイガード】がどこまで影響するか分からないが、回復系も大きな括りでは防御系に入るかもしれない。まぁそれもウラガ次第なのだが。


俺は起き上がって、身体に不調が無いかを確かめていく。銀杏の葉っぱに毒があるかもしれないと思ったが、物に何も無いようだった。よかったぁ。


体勢を立て直した俺達は、その後この29室をどんどん攻略していく。飛んでくる葉っぱはウラガが完全に防ぎ、残っている葉っぱも、クルスの魔法や、グラスが木を登る事で丁寧に落としていく。


魔獣の駆除が終われば、後は落ちた葉っぱを集めて、所定のゴミ箱へと入れるだけだ。


ちょっとした事故はあったが、約3時間で、部屋全体の葉っぱを落とす事に成功した。


第30室をクリアした俺達は、階段前で一息ついている。そこへ、クルスが話しかけてきた。


「テルー。有難う。」

「どういたしまして。クルスは本当に怪我しなかった?」

「全然。葉っぱがクッションになった。」

「そっか。俺が覆いかぶさったから、どこか痛めてやしないかって、心配だったんだ。」

「ふふふ。テルって面白い。」

「???面白いかなぁ?w」


クルスは自分の事より、怪我をしたテルの心配をしたいのに、当のテルは何事も無かったかのように、クルスの心配をする。


そんなテルの姿がおかしくて、クルスは笑ったのかもしてない。


(笑った顔、めちゃくちゃかわいい。)


テルは、クルスの笑顔に見とれているようだ。普段は眠そうにしているのだが、今の笑顔は本当に可愛らしい。元々の素材が良いからか、笑った顔はより一層かわいく見えた。


その後、俺達は第30室へと入る。そこにはゴミが大量に捨てられていた。しかも、はえらしき魔獣が飛んでいる。マジで汚いし、臭い。


「みんなマスクをしろよ。」


俺達は全員、タオルを口に巻き付けて、即席のマスクをしている。嗅覚の鋭いグラスはそれでもダメらしく、鼻を押さえて息苦しそうにしている。


ここでも第10室同様、壁には大きな文字で“木材”“生もの”“布・皮”“金属”と書かれていた。また種類別に集めるようだ。


だが今回は、前回より広いうえに、ゴミの量も魔獣も腐敗度も上だ。ひざまで埋もれるくらいのゴミをかき分けながら、とりあえず俺達は魔獣を倒そうとする。


この部屋の魔獣ははえだ。蠅と言っても、その大きさは、身体だけで60cmはあるし、羽音も凄まじい。そんな巨大な蠅が大量に俺達へと襲いかかる。


気色悪い姿に、俺も気持ちが悪くなってくるが、層も言ってられない。俺は【水魔法】で作った水のナイフを蠅達へと投擲する。


だが蠅は、その巨体に似合わない素早い動きで、俺のナイフを易々とかわして見せた。他にも、クルスの魔法屋、グラスの体術も蠅に届く事はない。


「くそう。あいつら早すぎる。」

「キュッキュー♪」


俺が悪態を付いていると、俺の頭の上に乗っていたユキが急に喋り出し。自分に任せろと言っている。


「魔力は足りてるか?」

「キュー♪」


ばっちりらしい。四六時中、俺の頭や肩に乗っているので、あれの魔力を少しずつ貯蔵しているらしい。なので今のグラスは、俺の最大魔力量の2倍程度の魔力を保有する事ができる。さすがは精霊だ。


ユキはテル達から少し離れると、真っ白な身体をキュッっと小さくして、今では野球ボール並になっている。いつもはバスケットボールくらいなので、かなりの圧縮率だろう。


ユキの全身を白い魔法光が包み込む。どんどん魔法光も圧縮されていく。


「キュー。キュ。」

「ウラガ。大盾でしっかり俺達を守ってくれ。」

「分かった。皆集まれ。」


俺はユキが準備出来たという知らせを受けて、何をするのか大体の予想が付いた。なので急遽ウラガに俺達を守るようお願いする。


ウラガは魔力を精一杯込めて、俺達四人を半円状に包み込む形で、ユキから守る。


「キューー!!」


俺達の準備完了を受けて、ユキが一際盛大に鳴くと、野球ボール大から、バスケットボール大へと一気に膨らむ。それと同時に、全身からもの凄い冷気が広がった。


足元にあった生ものは凍りつく。全体は一気に真冬の様な様相へと変化した。俺達はウラガが守ってくれているので、そこまで直接的な被害は無かったが、部屋全体が冷えたため、もの凄く寒い。手がかじかんでくる。


だが身体が上手く動かないのは俺達だけではなく、魔獣である巨大蠅も同じだ。いや、蠅の方がダメージが大きい。羽が凍りつき、飛べなくなってゴミの上でジタバタしている。


「さすがユキだな。でも、こんな広範囲に眼法使って、大丈夫か?」


俺はユキの魔力消費が気になる。幾ら俺から魔力を貰っていても、限度がある。どうやらユキも疲れたらしく、俺の胸へとフヨフヨと飛んでくる。俺はユキを大事に抱えて、優しく撫でてやるのだった。


その後は、ユキを肩に乗せ、俺達は魔獣狩りへと出かけた。雪野おかげで、あれだけ素早かった蠅は為すすべもなく、俺達に倒されていく。


魔獣を討伐し終わった後は、ゴミを種類別に分けて終了だ。


結局この部屋では4時間もかかってしまった。ゴミの仕分に手間取ったのだ。


部屋を出た俺達は、速攻ウラガに駆けよって、【生活魔法】のリフレッシュをかけてもらう。だが、全身に付着した気になる悪臭は、しつこいのだ。


俺達は、昼食前にお湯を沸かして、お湯で身体を洗う事に決めた。


久しぶりにユキちゃんの登場。

本当は、皆と一緒に移動しているのですが、なかなか書く機会がありません。ごめんね、ユキ、シズク、ダイチ。

テル君は優しいんだか、ちょっとずれているんだか。自分の身を守れてこその冒険者だと思う一方、そういうところが人間らしさなのかな?とも思う。

次回は第31室以降の話の予定。

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