魔獣が出たら動かずに、まず知らせてくれ。
第24,25,26室の話。
ちょっと短め。
「行くぞ」
昨日、俺達が下準備をしておいた第24室へと入って行く。
相変わらず、刀並の切れ味を持つ鍵が空から降っている。だが、昨日グラスとクルスの魔法によって表面が溶けたり、罅が入っている。おかげで、本物の鍵を見つけるのは簡単そうだ。
「ウラガ。頼むぞ。」
「任せとけ。」
それでも危険な事に変わりは無い。なのでウラガが【大盾】を傘の様にして俺達を守りながら、24室へ入って行く。
ガチャガチャと音を立てながら、【大盾】に大量の鍵の雨が降り注ぐ。
俺達はその中をゆっくりと歩きながら、本物の鍵が落ちてこないか、集中して探していく。
「あ!あそこです!」
グラスが獣人特有の視力の良さを活かして、本物の鍵がふってくる場所を見つけたようだ。
ウラガに守られながらそこまで近づいて、モノリスのダイチに地面に土を敷いてもらった。そうしないと、降ってきた鍵が地面に吸収されてしまうので、いつまで経っても鍵を拾えない。
そうして、やっとの事鍵を手にする事ができた俺達は、早々に部屋を出て行く。
「こんなに早いのは、昨日の下準備があったからだな。有難うグラス、クルス。」
第24室をクリアするのに、1時間もかからなかった。それもこれも、二人のおかげなので礼を述べておく。二人も満更ではないようで、少し嬉しそうで、誇らしそうだ。
俺達は休憩もせずに、すぐさま25室へと挑む事にした。俺の予想が正しければ、次の部屋は自由時間が大量に出来るはずなのだ。
結果は、俺の予想は半分だけ的中した。第25室は、4本の鍵が付けられた鍵束と、人と同程度の大きさのサイクロプスがいるだけだった。
一階のサイクロプスよりは大きくなっていたが、それでも俺達には雑魚同然だ。さっさとサイクロプスを倒した俺達は、その鍵束を持って、奥の部屋へと移動した。
この部屋の鍵は、時間と共に変化する。つまり、変化するたびに鍵穴に入れてみるか、魔法で変形するかを見ないといけない。
ジャンケンの結果、順番はウラガ、俺、クルス、グラスの順番になった。とりあえず、一人一時間、鍵当番だ。
サイクロプスもいなくなった部屋で、俺達は各自修行に取り掛かった。
「さて。久しぶりの修行時間だけど、どうしようかなぁ。」
俺は自分の修行の予定を全く立てていない。その都度、必要そうなスキルの向上や、獲得に勤しんで来たからだ。だが今回のダンジョンは、そういった状況に至っていない。
「うーん。いざやろうと思うと、何して良いかわかんねぇ。【火魔法】でも覚えようかなぁ。」
俺は久しぶりに“ライゼの成り上がり”のメモを取りだした。“ライゼの成り上がり”は、冒険者ライゼが、パーティーと旅した時に研究した各種スキルの習得方法が書かれた、冒険譚だ。そこの【火魔法】の欄を読みなおす。
「えーっと。大量の火が必要なのかぁ。無理じゃね?」
ライゼによると、家を燃やす程の火に自分の魔力を注ぎ、その魔力が火に変換するイメージで修行するといいらしい。
この部屋の天井は、せいぜい2.5mくらいだ。しかも燃やせる物が無い。他の部屋に行ってこようかなぁ。21室の本なら燃えそうだけど・・・
しかし次の鍵当番は俺だ。他の部屋で修行する程の時間は無い。俺は他の修行をしようかと、ウーンウーンと唸っていると、カチャリという音が鳴り響いた。
「お!開いた!開いたぞ!」
「マジか!早すぎ!」
ウラガは、奥の扉の鍵が開いたと大声で告げてくる。あまりの速さに、俺はウラガの方へ振り返って、早すぎると、驚きの言葉を漏らしてしまった。
俺の予想では、1周位はかかると思っていた。なのにウラガが鍵を見つけたのは、10分も経っていない。超ラッキーだ。
他の二人も、予想より早い開錠を受けて、早々に修行を終了させる。こうして俺の予想は半分裏切られる形で、当たる事となった。
「次からは、ちゃんと修行の事考えないとな。」
俺は今回の事を反省して、今後の課題として必要なスキルが無いか、振り返ると頭のメモに刻み込んだ。
俺達はお茶の休憩を挟んで、次の部屋、第26室へと挑む。
次のシリーズは、お片づけのはず。そして26室と言うと、おもちゃだ。
部屋には、第6室同様に、大量のおもちゃが転がっていた。ぬいぐるみや、前後にゆれる木馬。お弾きの様な小物から、チャンバラごっこ用の、植物で編み込んだ子供サイズの剣などが、脚の踏み場も無い程散乱していた。
「とりあえず魔獣退治からだな。」
俺達は、おもちゃを壊さない様に、慎重に歩いていき、魔獣を探す。ちょっと歩くと、強い視線を感じた俺は、そちらの方へと顔を向ける。
すると、可愛らしい女の子の人形が、クリっとした目で俺を凝視しているのだ。
俺と人形が視線を交わした途端、女の子の人形の口が、ニヘラとでも効果音が付きそうなくらい、邪悪に開かれる。
そして綺麗な金髪は見るみる紫色へ変化し、さらに髪がヘビへと変化する。それはメデューサだった。蛇の髪をした女性の魔獣。一節には、メデューサと視線を交わすと石になるとか。だがこの世界のメデューサは、石にするのではなく、腐敗の息を吐き出してきた。
「俺が防ぐ!」
俺とメデューサの間に入ったウラガは、咄嗟に【大盾】をつかって、腐食の息から俺達を守ってくれた。だがその安心も、直ぐに潰される。
部屋全体をビーー!という警報音が鳴り響き、俺達の足元に巨大な落とし穴が形成されたのだ。つまり、この部屋のルールに違反した事になる。俺は穴に落ちる寸前に、部屋で何かミスをしていないか、見渡しながら落ちて行くのだった。
「イテテ。久しぶりに落ちたな。」
「ちょっとお尻打っちゃいましたよぉ。」
「わたしもー」
急な落下で、俺達は上手く受け身を取れずに落ちてしまったようだ。皆、どこかしらを打ったようで、そこを擦っている。
「ところでよぉ。なんで落ちたんだ?おれ、難か壊したか?」
ウラガが自分のミスがあったかを、俺達に確認してくる。確かにタイミング的に、ウラガの【大盾】が発動された後なので、疑うのも無理は無い。
「いや。ウラガのせいじゃないよ。俺は、原因がわかった。」
「ほんとか!何だったんだよ。落とされた理由って。」
「メデューサだ。あいつの腐敗の息が、おもちゃを溶かしていた。」
「「「!!」」」
そう。今までも魔獣が物を壊さない様に注意してきたのを、皆が思い出す。そして、この部屋の厄介な点に気が付いたようだ。
「皆気付いたようだね。メデューサが完全に変形して腐敗の息を吐く前に、メデューサを退治しないと、クリア出来ない。あの、足の踏み場もない部屋で打。」
何も無い部屋なら、そんな事楽勝なのだが、この部屋には片付けるべきおもちゃが散乱している。まだ歩けた6階の方が、楽だったし、魔獣も倒せた。だが今回は、難しい。
「ピンポイントで、敵を倒すスキルのある人!」
おもちゃを気付付け無いよう、広範囲攻撃が使えない今、メデューサのみを攻撃できる、ピンポイント攻撃をするしかない。
手を上げたのは、俺とクルスだけだ。俺は【土魔法】や【水魔法】を使って、ナイフや剣を作りだせば、遠距離で、しかもピンポイントで敵を倒せる。
「私のー。【風魔法】なら大丈夫―。」
クルスにも方法があるようだ。おそらく【風魔法】のウインドカッター的な、局所攻撃が可能な魔法があるのだろう。
とりあえず、索敵担当をウラガとグラスに任せ、俺とクルスは攻撃を担当する事となった。
「メデューサ以外にも敵はいるかも知れない。魔獣が出たら動かずに、まず知らせてくれ。」
俺達は気を取り直して、26室へと歩みを進めるのだった。
うーん。盛り上がりに欠ける。なんだかなぁ。
テル君は、意外と冷静に観察してましたね。偶然かもしれませんがw。
次回は、第26室以降の話の予定。