鍵探しは明日にして、今日は準備だけしよう。
第21、22、23、24室の話。
「あったー。」
クルスが鍵を見つけたようだ。
本によって隠された鍵を見つけるために、いつもより長めに【火魔法】を使った。なので、本物以外は、どこかしらが溶けている。それでも500m×1kmの広範囲だ。本物の鍵を見つけるだけで、2時間もかかってしまった。
その鍵を使って、奥の扉を開ける。
ちなみに本に擬態していた魔獣は、【火魔法】によって倒されたようだ。魔法結晶は、鍵を探すついでに回収した。
21室をクリアした俺達が戻ってきたのは、二階にあるバルコニーの扉だった。目の前には三階の大階段だ。
その階段前の数字が21/40へと変化していた。やはりこの二階をクリアするためには、あと19室クリアする事が条件の様だ。
俺達は後れを取り戻すためにも、急ぎたいのをグッと堪えて休憩する。ダンジョンで焦る事は禁物だ。休むことで、集中力をの回復する。
そしてやってきた第22室は、やはり第2室の強化バージョンのようだ。だが今回は、岩ではなく金属だ。金属の塊の中に鍵がある。
「ダイチー。」
「ガー。」
グラスが、モノリスのダイチにお願いしているが、良い返事は聞けなかったようだ。土の神獣であるダイチは金属は操れない。金属と土は別物だからだ。
「ということは、俺がやるしかないのかぁ。」
部屋中にある金属隗を俺が切るしかない。他のメンバーでは効果的に中から鍵を取り出せられない。
俺は“水の一振り”と“土の一振り”を取りだして、魔力を込める。攻撃力が高まって切れ味が増していく。
【スラッシュ】等のスキルを使わなくても、金属を切れるようにした。俺は二本の剣を手に持ち棚に並べられている金属隗を二列同時に切り裂いて行く。
「つまんねー。」
ただ剣を持って歩くだけの簡単なお仕事です。さすがに天使から貰った二本の剣に魔力を送っているのだ。魔力の消費が、地味に多い。
俺は若干早歩きになりながら、鍵を探していく。
「おっと!」
金属に化けていた魔獣が襲いかかってくる。真ん中から避けて、大きな口を開けて襲いかかってくる姿は、某ゲームのミミックのようだ。
だが俺の敵ではない。持っている剣を魔獣に向け、触れるだけで真っ二つなのだ。
鍵探しも魔獣も俺が担当しているので、俺の後ろを付いて来るだけだ。かなり暇そうだ。というか、修行を開始しているようだ。グラスは口以外から【火魔法】を出そうとしているし、クルスも手のひらの上で小さな魔法を発動させている。
ウラガに至っては“土の一帖”を取りだして、【水魔法】で水属性を付与させようとしているようだ。
なんだか虚しくなってくるが、適材適所。この部屋では仕方が無い。
その後も俺は早歩きしながら、金属隗を切って行く。暇つぶしに、魔力量を調節して、簡単に切れるギリギリを探す。そのおかげで無駄な魔力消費が減り、少しは楽になる。
結局、1.5時間かかって鍵を見つけることができた。“水の一振り”で切っていた段が、カキンという音と共に、弾かれたのだ。場所としては、部屋の半分を越えて少しいった所だ。
「もしかして、鍵って部屋の奥の方なのか?」
21室でクルスが発見した鍵も、部屋の3/4位のところだった。もしかしたらと思うが、偶然の様な気もする。
俺達は鍵を使って第21室をクリアした。
再び階段へと戻ってきた俺達は、三時の休憩を取る。といっても疲れたのは俺だけなので、他の三人は元気いっぱいのようだ。
次の部屋、23室についても第3室の鉄の箱がさらに強化されていた。
今度は全ての鉄の箱が魔獣だった。ミミックと呼ばれる種類の魔獣である。それが部屋中にいる。
部屋に入ってきた俺達に気が付くと、一斉に大きな口を開けて襲いかかってくる。
最初の方こそウラガの【大盾】に守られながら戦ったが、慣れてくると俺は一人飛び出して【ステップ】を併用しながら、ミミックを倒す。
倒したミミックは口を広げた状態なので、その中からグラスがクルスが鍵を回収する。
そしてある程度鍵が溜まったら、クルスが【風魔法】を使って、傷が付くかチェックするのだ。
「あったよー。」
と、今回はかなり早い段階でクルスが鍵を見つけたようだ。まだ部屋に入って30分もかかっていない。
「よし!奥の扉へ行くぞ。ウラガが先頭。殿は俺がする!」
俺の指示を受けて、ウラガが【大盾】を発動させながら、ミミックの群れの中へと突進していく。【バッシュ】という敵を弾き飛ばすスキルを使いながら、ミミックを押しのけながら進んでいく。
後方は俺が担当なので、三人に攻撃がいかないよう、【ステップ】や【スラッシュ】を使って確実に一撃で倒していく。
たった1kmだが、ミミックの大群のせいで30分もかかって、ようやく奥の扉へと辿りつた。クルスがすぐさま鍵を開け、俺達は扉へと飛び込むように第23室をクリアした。
「ふぅ。みんな怪我無いか?」
「俺は無い。」
「あたしも無いです。」
「無事―。」
なんとか無傷で攻略出来たようだ。例え傷を負ったとしても【光魔法】で回復出来るのだが、無い方が断然いい。
「今日はまだ時間もありますし、次の部屋行きましょう!」
22、23室と、特に仕事が無かったグラスとクルスは、体力が有り余っているようだ。第24室へと進む事を提案してくる。
だが俺はそうもいかない。ずっと魔力を剣に注いでいたし、敵とも戦ったので、もうヘトヘトだ。時間があると言っても、あと1時間くらいだろう。
「俺は魔力が少なくなってる。正直、今日はもう休みたい。」
「俺は大丈夫なんだが、次の部屋は時間がかかるはずだ。だから今日はもう休んだ方がいいと思うぞ。」
「次の部屋って何でしたっけ?」
グラスは忘れてしまったようなので、とりあえず部屋の様子だけでも確認する事になった。それを見てから判断する。
俺達は第24室の扉を開けた。そこには大量の鍵が、天井から生まれ、地面へと落ちて行く。鍵の雨が降っている部屋だった。
しかも、今度はタダの鍵ではない。鍵の形をした刃物となっていた。
4室では天井から降ってくる鍵に当たっても、ちょっと痛いなぁくらいだった。だが24室は、当たれば確実に切れるだろうというくらい、鍵の表面は包丁や日本刀の様に、切れ味抜群になっていた。
「鍵の雨だったんですねぇ。今日中には無理ですね。」
一階の4室でさえ俺達は一度引き返したし、本物の鍵を探すのに2時間もかかったのだ。部屋が倍になったこの24室では、単純計算で、4時間かかる。
もう日没まで2時間程しかないので、暗くなったダンジョンを攻略するのは危険だ。しかも暗い中で、本物の鍵を探すなんて、不可能に近いだろう。
「鍵探しは明日にして、今日は準備だけしよう。」
俺達は第4室でやった様に、鍵に【魔法】で目印を付ける作戦で行くにした。
24室の扉を開けて、外から魔法を発動させる。魔力と元気が有り余っているグラスとクルスが担当だ。
まずグラスが【火魔法】で鍵をかなり高温になるまで加熱する。次にクルスが【火魔法】の吸熱を使って、一気に鍵の温度を低下させた。
すると金属がその急激な変化に耐えられず、ある鍵は歪み、ある鍵は途中からポッキリと折れ、折れ無かった鍵も、グラスの高温で表面が溶けている。
部屋がかなり広いので、二人ともそれなりに長時間、魔法を発動させる必要があった。おかげで、魔力量の少ないグラスは、魔力不足を起こしてグッタリしている。
二人合わせて1時間かけての下準備が終了した。ウラガはその努力が無駄にならない様に、扉が閉まらないよう、扉を【土魔法】を使って固定した。
扉が閉まると元通りになる、ダンジョンの特性を逆手に取った作戦だ。
二人が作業をしている間に、俺とウラガで夕食の準備を完了させておいた。今日の料理はミネストローネだ。
トマトベースのスープに、野菜や肉を入れて煮込んだ物だ。ちなみに肉はミノタウロスで、ペンネという中が空洞になった、筒状のパスタを入れてある。これも馬車移動中に、せっせと準備した物だ。
なぜミネストローネかと言うと、ダンジョンの中にいると忘れそうになるが、今の魔族の国の季節は冬なのだ。
俺はそれを、ふと思い出して季節を感じられる料理を作りたくなったのだ。しかもトマトとお肉の組み合わせは、疲労回復に効く。たぶん。
夕食をとった俺達は、明日へ備えて早めに眠りについた。
おかしい。ちゃっちゃと進めようと思ったはずなのに、なぜか進まない。ナゼー?
テル君が今回は頑張りましたね。といっても、剣を携えて歩くだけという地味な作業もありましたが。他の三人には出来ない仕事だったのです。仕方が無いといえば、そうなのですが、ちょっと可哀そう。
次回は24室以降の話の予定。