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え?油を付けなきゃ、ダメじゃないのかって?」

第13,14室の話。



11室の皿洗い同様、13室の大量の洗濯物を、俺達は【生活魔法】のウォッシュであっという間に片づけて行く。


Tシャツからズボン。皮製品から鎧に至るまで、多種多様な洗濯ものがある。


本来ならば、それぞれに洗い方があって、たわしでこすって良い物悪い物。洗剤を使っていい物悪い物があるはずだ。


おそらくこれらの洗い方を間違えると、部屋中にブザーが鳴り響いて、俺達はまた最初からやり直す事になっただろう。


だが【生活魔法】のウォッシュは、汚れを浮かして洗い流すという、なんとも不思議な魔法なのだ。だから洗い方というものが存在しない。なんでも使える便利魔法なのだ。


ウラガを筆頭に、グラス、クルスが洗濯ものを、どんどん処理していく。俺はといえば、それを干す係だ。


支柱を良い感じの距離において、その間にピーンとロープを張る。そこに洗濯ものを干していくのだ。


いつも俺達が使っている“リフレッシュ”の魔法なら、乾燥まで着いているのだが、少し魔力の消費が多くなる。それに、ここの課題は洗濯だ。濡れていても問題は無いはず。


俺は、パンパンと服のしわを伸ばしながら、テキパキと干していく。手早くしないと、どんどん洗った物が増えて行くから、俺は大慌てだ。


そして500m四方に大量にあった洗濯ものだが、2時間もあれば、全てを干し終えられた。なんというか、壮観だ。


「気持ちいいな。まるで心まで洗われたようだ。」


まるで病院の屋上の様に、真っ白に洗われた洗濯ものが掛けられていたのだ。やり切った感と、清々しい気持ちになる。そのせいか、なんだか臭いセリフを言いたくなってしまった。幸い?にも、他の三人は聞こえなかったかの様で、俺の言葉をスルーしてくれている。


俺達は、開いた奥の扉から出て、13室も難なくクリアする。


特に疲れた人もいないので、俺達はさっそく14室へと向かった。本日4つ目の部屋である。


14室にあったのは、マッチョな石像やドラゴンの彫刻、カラフルな色が付けられたつぼ豪奢ごうしゃな装飾がついた剣だ。


「わぁ♡この彫刻綺麗。」

「見ろよ、この盾!こんな複雑な文様、初めて見た。」

「このソファー。きもちいいー。」


皆が皆、この部屋の装備品に心を奪われているようだ。


グラスは今にも飛び立とうとしているドラゴンの彫刻を熱心に見ている。ウラガは、表面が金属の線で立体的に装飾が施された盾を触って、その緻密さに感心している。そしてクルスは、一目見て高級そうな、ふかふかソファーで今にも眠りそうだ。


俺も壁に飾られている、宝石が散りばめられた剣を見ている。


「切れ味悪そうー。」


生憎俺には芸術は分からない。凄いなー。綺麗だなーとは思うが、実用的か?とも思ってしまうのだ。飾るだけの剣に魅力を感じないのだ。使って初めて意味が出ると、思っているタイプだ。


俺は、一通り剣を見ていると、疑問に思う事があった。それは全てがくすんでいるのだ。金や銀の装飾が、本当は光を反射していてもおかしくないのに、全てがくすんでいる。


周りの壺や銅像も、形状は綺麗なのだが、全てくすんでいたのだ。


そして部屋の隅に目をやると、そこには布切れと、掃除で使うのだろう油が入った小瓶が置かれていた。


「つまり、磨けってことか。」


俺は掃除用に準備された布を手にとってみる。それはどこにでもありそうな布だった。だが、装飾の多いここの備品を磨くには、少々分厚い。本当なら、絹や薄手のキメの細かい布がいいのだが。


「なぁテル。この布だと簡単に装飾が折れちまうな。」

「だろうな。本当ならここのクリアレベルは少し高くなりそうだ。」

「だけど、俺達には魔法がある!」


ウラガが指摘するように、こんな布で磨くと、簡単に装飾部分が壊れてしまう。グラスが気に入ったドラゴンの彫刻なんて、尻尾や爪が簡単に折れそうだ。


なので、本来なら時間をかけて慎重に作業する必要があるのだろう。失敗したら、穴に落ちてやり直しなのだから。それも考えると、やはり難易度が高くなっているようだ。


「テルさん、ウラガさん!私これ持って帰ります!」

「まぁ、そうなるよな。」


これほどの品なのだ。財宝と言っても良いかもしれない。持ち帰ろうと思わない人はいないだろう。グラスはそう言いながら、ウラガへとドラゴンの彫刻を渡して、“魔法の鞄”収納してもらっている。


「もし全部持ち出せれば、それだけでクリアじゃね?」

「「!!それだ!」」


ウラガとグラスは俺の案に同意してくれる。クルスはと言うと、ソファーの上で既に眠っていた。早い。


と言う事で、俺達はとりあえず実験をする事にした。手当たりしだいの備品を“魔法の袋”

へと入れて行くのだ。


“魔法の袋”に入る事は入った。別に何らかの力で袋に入らない。なんて事も無く拍子抜けだ。


第二段階はそれを持ち出す。


俺達は、入口の扉から廊下へと出て行く。ちなみに寝ているクルスは置き去りだ。


そして俺達は入口の扉をすんなりと出る事ができた。「行けたんじゃね?」というウラガの声に、俺も期待を膨らませて、“魔法の袋”の中に入れた備品を取り出そうと、ゴソゴソ探す。グラスも、早く!早く!と急かしてくる。


「あれ?・・・あれ!?無い!無くなってる!」

「俺のもだ!確かに入れたのに!」


俺達は“魔法の袋”から顔を上げて、お互いの顔を見合う。不思議な事に、“魔法の鞄”に入れたはずの備品が消失していたのだ。


ガシャーーーン!!


唐突に壺が割れる音が聞こえたので、俺達は第14室の中を振りかえった。


すると、天井からニョキっと、鞄に入れたはずの備品が出て来ているのが見えた。床には、天井から落ちて割れたであろう壺の破片が散乱していたのだ。天井から物が生まれてくるなんて、実際見たらかなり気持ち悪い。あまりに非常識な光景に、頭の理解が追いつかない。


ビーー!!


壺が割れた事をきっかけに、部屋全体を警報音が鳴り響いた。その音で、俺達はやっと現実へと引き戻された。俺は部屋に置いてきたクルスの事が心配になって、急いで措置和へと視線を向ける。ソファーで寝ていたクルスの周りに巨大な穴が生まれて、ソファーごとクルスが落ちて行くのが見えた。。


ちなみに俺達は廊下に出ていたので、落下の被害は受けなかった。


ドシーーン。

「キャーー!」


大階段の方から、何かが落ちる音と共に、女性の叫び声が聞こえてきた。


俺達は急いで大階段の方へと駆け戻ってみると、腰をさすった状態のクルスが、寝起きの顔で寝そべっていた。


「大丈夫かクルス!」

「だいじょうぶー。ちょっと腰を打っただけー。」

「ウラガ、念のために治療してくれ。」

「おう!」


ウラガに【光魔法】による回復をお願いしながら、俺達は、クルスが寝ていた間に起こった事を説明した。


「えー。あのソファー気に入ったのにー。」


俺達は起こられると思ったのだが、クルスの関心は、備品が持ちだせない事に向かったようだ。よっぽどあのソファーが気に入ったのだろう。俺達の説明を聞いて、かなり悲しそうな、残念そうな顔を浮かべている。


それから、お茶を飲んで少し休憩した後、再び14室へと入って行った。もちろん、割れた壺は元の形に復元されていた。


俺達は、備品を諦めてとっととクリアする事にした。ちなみに14室の魔獣も、彫刻や銅像、剣等に擬態していた。先にそれらを退治してから、俺達は掃除に取り掛かる。


掃除と言っても、布で磨いたりはしない。そこはまた【生活魔法】のウォッシュに頼る。みるみるうちに、彫刻の細部にわたって、くすんでいた原因の汚れが取れて行く。それを“ドライ”の魔法で乾燥させて行く。


最後の裸婦の彫刻を洗い終えた俺達は、奥の扉へと視線を移す。だがそこから聞こえるはずの、鍵の開く音は聞こえなかった。


俺達は不思議に思い、念のために奥の扉のノブをガチャガチャ回してみるが、閉まっている。


「全部終わったよな?」

「おう。残ってるやつは無いはずだぜ。」

「私も確認しましたが、残ってません。」

「ふしぎー。」


俺達はこれからどうすればいいのか分からず、頭を悩ませる。


だが俺の肩の上にずっといたユキが、ふとフヨフヨと飛び立って、壁際に置いてある油の入った小瓶の上へと向かった。


「キュー。キュー?」

「え?油を付けなきゃ、ダメじゃないのかって?」


確かに俺達の魔法で、備品は綺麗にはなっているが、光沢を取り戻すまでには至っていない。つまり、あの油を付けなければ、この部屋をクリア出来ないようなのだ。


なぜユキが気付けたのかは分からないが、よく気付いてくれた。さすが俺の心の友だ。


だが俺達は、再び頭を悩ますのだった。どうやってこの油を薄く塗るかだ。何かいい方法が無いものかね。


話が進まないよー。筆が乗らないのが一番の原因。

テル君のユキへの信頼と愛情は、高いようです。なにせ一番長い付き合いで、心で繋がっていますからね。それにしても、ユキはなぜ気付けたのでしょう?ご都合主義と言うやつです。

次回は14室以降の話の予定。

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