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まだ、変な臭いがする気がする。

第9,10室の話。

「え?これだけ??」


金庫の中に入っていたのは、小さなナイフが一本だ。金庫の大きさから、どっさり入っているものだと期待したのに。騙された。


「見ために騙されるなよ。ダンジョンで得られる物は、強い魔力に当てられてるから性能が高いのが普通なんだぜ。」


とウラガは言いながら、俺が手に持っている握り手を含めても30cmくらいのナイフをじっくりと見ている。


おそらく【鑑定】を使っているのだろう。俺もウラガに倣って【鑑定】を使う。


■鉄のナイフ:攻撃力30 耐久力10/10 付与:調理技能上昇


「・・・テルにやるよ。俺はいらない。」

「包丁代わりにするよ。」


付与に調理技能上昇と付いているのは、これまで見たことないのでかなり興味があるが、全くもって戦闘では生きない。


昔読んだ小説で、「敵を料理してやるぜ」ということで、料理の能力が活きるシーンがあった。だがこの世界では、料理の能力が戦闘で活きるとは思えない。そんな特殊な設定ではないだろう。


そして女性陣もまたナイフに興味を失っていた。先程までの輝いた眼が嘘のようだ。いや、俺の料理への期待度は上がっているのかもしれない。そろそろ女性陣にも料理して欲しいと思っていたのに。


俺達は再発した腰痛に耐えながら、第8の部屋をクリアした。時刻はまだ3時ほど。ということで俺達は次の第9室へと向かった。


そこは今までの部屋とは少し違っていた。なんと木が植わっているのだ。それも高さは5m程もありそうな巨木達だ。


満開の桜に、真っ赤に色づいた銀杏いちょう、独特の香りがする金木犀。どれもが咲き乱れている。


「まだ片づけシリーズだよな。」

「そうだろうな。まだ9部屋目だし。」

「何を片づけて、どうすりゃクリアなんだ?」


俺達は季節を無視して咲き乱れる木々を前に、部屋に入る前から、ただ茫然と立ち尽くしている。


そして、とりあえず入ろうと言う事で、一歩足を踏み入れた瞬間に変化が生じた。一斉に落葉し始めたのだ。


「げ。これを吐き掃除するのか!?」


俺の予想通り、部屋の隅には竹箒たけぼうきが何本も立てかけられていた。壁沿いには集めた葉っぱを捨てるための箱まで用意されている。


俺達はしょうがなく、竹箒を手にせっせと落ちてくる葉っぱや花を一か所に集めようとする。だがなかなか上手くいかない。


「あーもー!!いつまで降ってくるんだよ!」


そうなのだ、掃いたそばから空から降ってくる。掃いても掃いても切りが無いのだ。そうなるとは思っていたが、実際やってみると精神的なダメージがデカイ。


しかも、落ち葉や花に擬態した魔獣が襲いかかってくる。小さいのでナイフを当てる事すら面倒臭い。弱いので一撃で倒せるのが、唯一の救いだ。


「クルス!一気にバーっと吹き飛ばしてくれ!頼む。」

「しょーがないなー。」


と、クルス自信既に飽きていたようで、一気に片付けるために【風魔法】を使ってくれるようだ。


「吹き飛べ。突風!」


クルスの身体から放たれた薄い黄緑色の光は、突風となって部屋全体を呑みこんでいく。その突風によって、木にまだ残っていた葉っぱや花が木から剥がされて、部屋の中を吹き荒れる。


「よし!これで簡単に片づけられr」

「ビーー!!」

「へ?」


俺が勝利宣言?を述べていると、いきなり部屋全体にブザーが鳴った。そして俺達の足元には黒い穴が突如として開き、俺達はそこへと落ちてしまう。


行き着いた先は、当然大階段前だ。何かダンジョンのルールに違反したらしい。


「クソー!何がダメだったんだよ!」

「私見ました!銀杏の木に、まだ緑色の葉っぱが残ってたんですけど、それが千切れるのを。」

「つまり、落ちる状態のもの以外を落としたから、俺達も落とされたのか?」

「・・・上手くないぞ?」

「わ、わかってるよ。」


別にジョークを言いたくて言ったのではなく、不可抗力だったのだ。それでも下手なジョークを言った事に、俺の顔は一気に暑くなる。たぶん真っ赤になっている事だろう。恥ずかしい。


「とにかく、クルスの突風作戦はダメてことか。」

「いや。威力が強すぎたんじゃね?そういう葉っぱって、普通落ちにくいもんだろ?」

「確かに。桜の葉っぱとかは、花弁はなびらよりはしっかり生えているはずだけど。」

「まかせてー。やってみるー。」


という事で、俺達は再び第9室へとやってきた。扉を開けたそこには、また一から始まるようで、床には落ち葉は落ちていない。


部屋に入った俺達は、クルスの魔法が成功するように、固唾を飲んで結果を待つ。


「吹き飛べ。突風。」


先程と同じ魔言を唱えるクルスだが、その身体から放出される魔法光の量は、先ほどよりも格段に少ない。クルスは意識して魔力の量を減らしているようだ。


結果は、突風の風はかなり弱まっていた。そよ風以上。突風未満。その絶妙な風量が部屋全体を吹き荒れる。


「・・・行けたか?」

「・・・行けましたね。」

「ふー。つかれたー。」

「「「パチパチパチ」」」


部屋に響き渡る警報音も無く、大半の落ち葉や花が木から剥ぎ取られていた。俺達は労いの意味も込めて、偉業を成し遂げたクルスへ拍手を送った。


それからは、一度部屋中を歩き回って、擬態した魔獣を退治した。部屋の安全を確保した後は、大量の落ち葉をかき集めて、設置されている箱へと押しこんで終了だ。


結局、2時間もかかってしまった。思った以上に量が多かったし。木に残った葉っぱを落とすのに苦労したのだ。


第9室をクリアして大階段へと戻ってきた俺達は、この後どうするか話し合う。


「とりあえず晩飯にするか、10室を覗く、もしくはクリアするか。」


全員一致の結果、10室を覗く事になった。皆も早く進みたいようだ。


第10室の扉を開けると、そこには大量のゴミが溢れていた。前世のテレビで見たごみ屋敷ばりに、雑多なゴミが腰の高さまで積まれている。


バタン。


「さて。晩御飯にするか。」


俺は扉を閉めて、見なかった事にする。ウラガやグラス、クルスでさえ顔を最大限に歪めて、今見た光景への嫌悪感をあらわしていた。


「でも朝一であれの掃除は・・・」


というグラスの一言から、俺の晩飯の意見は一気に掃除続行へと流れて行く。皆も、あの光景を心配しながら一夜を明かし、朝からゴミへと挑むのはさすがに嫌らしい。


という事で、俺達は第10室へと足を踏み入れる。


「くっさー!」

「鼻が、曲がります。」


部屋に一歩入った瞬間に、その強烈な臭いのせいで俺は吐きそうになる。生ゴミの腐った臭い、木材や皮がカビった臭い等、とにかく悪臭が充満していた。


俺達はすぐさま布で鼻と口を押さえて、呼吸を確保する。だが鼻の良いグラスはそれでもダメらしく、既にフラフラだ。


俺達は部屋をよく観察してみると、案の定、壁際には大きな文字で“木材”“生もの”“布・皮”“金属”と書かれていた。どうやらこれらを分別しなければいけないようだ。こんな異世界でもリサイクルの精神が発達しているのだろうか?


グラスは満足に動けない自分の代わりに、ダイチに手伝いを依頼してたようだ。ゴーレムバージョンのダイチが、意外と繊細に手を動かして手伝ってくれる。


俺達は二人一組になって、まずは木材から集め始めた。俺とクルス。ウラガとダイチだ。というのも、生ものが付いた木材を俺やウラガの【水魔法】で洗い流す必要があったからだ。


いつも通り部屋全体を一度歩き回って、ゴミに擬態した魔獣達を一掃してから、片づけを始めた。もちろん魔法結晶は回収してある。


腰近くまであるゴミの中から、まずは大きな木材、次に布や皮、次によろいなべといった金属の順番で、どんどん分類していく。


大きいゴミの次は小さなゴミだ。幸いにも、前世の様に極々小さなゴミ、例えばネジや、ファスナーといったものが無いので、比較的スムーズにゴミを分別出来た。


最後に生ものだが、洗い流す時に使った水のせいで、デロデロになっていた。一部腐った部分があったので、それが原因だろう。


だが恐れる事は無い。魔法とはアイデア次第なのだ。ウラガとシズクのコンビ、俺とユキのコンビで、生ゴミと水を一緒にある程度の量を【水魔法】で浮かせる。


それを生ごみコーナーへと移動さるのだ。そして、そこから水だけを抽出するのだ。【水神の加護】を持つシズクとユキには、その繊細なコントロールもへっちゃらだ。


それを繰り返して、最後の生ゴミを片づけ終わると、部屋の奥の扉からガチャリという鍵の開く音が聞こえた。結局3時間もかかってしまった。いや。3時間で終われたのだ。かなり早い方だろう。


第10室をクリアした俺達は、大階段へと戻ってきたが、それからが大変だった。


全身が臭いのだ。あの部屋の臭いが、俺達の装備や髪の毛、鼻の中にまで染みついている。直ぐにウラガによって【生活魔法】のリフレッシュをかけてもらった。だが、無いはずの気持ち悪さや臭いがする気がして、晩飯どころでは無い。


なので再び第2室へと入る。そしてそこにある大量の土や岩を使って、風呂場を用意した。クルスやグラスの火魔法と、俺やウラガの水魔法をもってすれば、お湯くらい頑張れば幾らでも作れるのだ。


壁で区切った部屋で、男用と女用の風呂を用意して、俺達は身体を洗った。ついでに洗濯用の場所も作ってる。


なんやかんや、ごみ屋敷の気持ち悪さを取り除くのに、1時間もかかってしまった。日はすっかり落ちていて、普段であれば寝ている時間だ。


それでも俺には仕事が待っている。つまり夕食作りだ。選択を三人に任せて、俺は一人夕食の準備をするのだった。


「まだ、変な臭いがする気がするなぁ。」


リフレッシュの魔法に、さらに風呂に入っているので、臭いがするはずないのだが、それでも幻覚のような、幻臭がする気がするのだ。悪臭とは恐ろしい。


ちなみに、今日の献立はポトフ。切った野菜やお肉を入れて、味を調えるだけのお手軽料理だ。


この世界に来てから、太陽と共に寝起きする身体になった俺には、夜更かしは耐えられないのだ。


それはウラガ達も同様で、半分眠りながらも飯を腹に入れている。楽しい食事のお喋りも無く、後片付けもそこそこに、俺達は速攻布団を敷いて、深く眠るのだった。



やっとお掃除シリーズも終わり。最後のゴミは書いてて気持ち悪くなりました。排水溝とかのヌルヌルを思い出してしまい・・・。

掃除は大事ですね。というお話でした。

テル君は、人に頼る様になってきましたね。最初は自分で全部しようとしていた気がします。クルスの魔法然り。次は食事当番に誰かを引き込むのでしょうね。

次回は、第11室以降の話の予定。

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