これが噂に聞く宝箱かぁ。ってか宝金庫?
第8,9部屋の話。
短いです。ごめんなさい。
お茶を飲んで、お菓子を食べて、午後の休憩をとった俺達は、第8の部屋部屋へとやってきた。休憩して、少しは精神が回復したかと思ったが、扉を前にした途端、めちゃくちゃ気が重い。
ガチャリと木製の扉を開けると、そこには・・・洗濯物がたなびいていた。
ガチャリと木製の扉を閉めると、俺の後ろには・・・悲痛そうな顔の仲間たちが立ちすくんでいた。
俺は盛大なため息を吐いた後、扉を潜り、第8の部屋へと入室する。
500m四方の部屋には、Tシャツからズボン。下着からコートまで。それはもう色々な種類の服が紐につるされていた。そして壁際には、それぞれの畳み方を描いた紙と収納棚。
再び盛大なため息を吐いて、俺達はそれぞれ役割を決める。シャツ担当の俺。ズボン担当のウラガ。下着担当のグラス。コートやその他担当のクルス。
各々が壁にある指示書通りに、大量の洗濯物を畳んでいく。
「来ます!」
「ハイヨー。」
もうお決まりだ。洗濯物に偽装した魔獣?が襲いかかってくる。昔読んだ、シャツにカエルがくっついた不思議Tシャツの様に、服が噛みついて来るのだ。そしてハンカチは手裏剣の様に、切れ味抜群で俺達へと襲いかかる。
俺達はヒラヒラと揺れる洗濯物を傷つけない様に細心の注意を払いながら、襲いかかる的だけを退治していく。ちなみに俺の武器は“水の一振り”ではなく、岩のナイフにしてある。小さい方が周りへの被害を最小限に抑えられるからだ。
それぞれが、洗濯物を汚さない様に戦っている。・・・カオスだ。
「やっぱりこのダンジョンは、変だよぉ。普通じゃない。」
「しょうがないだろ。そういうダンジョンなんだから。」
「ねー。魔法結晶はーどうするのー?」
「すっかり忘れてた!!」
「わたしがー預かってるよー。」
「「「グッジョブ」」」
俺達は平常心では無かったようだ。これまでのダンジョンとは違いすぎるせいで、魔法結晶まで気が回っていなかったのだろう。それをクルスが集めていてくれたらしい。出来る子だ。
だがクルスが見せた魔法結晶は、屑も良いところだ。だが【生活魔法】の魔法結晶とは、珍しい。これさえあれば、魔力の低い人でも【生活】が使える。へへへ。高く売れるぞ。
「テル。顔がなんか怖い。」
「!!気のせいじゃないかな?ハハハ」
顔に出ていたようだ。きっとゲスイ顔をしていたに違いない。お金は腐るほどあるのに、それでも金が欲しいだなんて、俺の心はどうかしている。小市民の感覚が抜けていないのだろう。いや。小市民か。
「さっさと洗濯物を畳むぞ。」
「「「・・・」」」
「やめて!冷たい目で見ないで!」
おちょくられた。それから俺達は洗濯物を畳んでいく。一人当たり、数百着の衣服を畳んだ俺達は、みな腰を悪くしていた。きっちり畳むために、床を使っていたので、無理な姿勢が長時間続いたことが原因だろう。
最後の衣服をクルスが収納棚に治めると、奥の扉がガチャリと開く。俺達はヨボヨボの老人の様に、腰を叩きながら一歩一歩ゆっくりと歩いて、第8の部屋をクリアした。
「凝りほぐす魔法とか無いの?」
「無いねー。それこそ【生活魔法】の分類じゃなーい?」
「やってみるか。」
俺はさっそく拾った【生活魔法】の魔法結晶を拾い上げて、魔法を使おうと魔力を僅かに流す。
(剣を振るために、腰の痛みをとりたい。このままじゃ剣も振れない。この痛みをとって、剣で敵を倒す。)
久しぶりに剣を意識して、魔法を行使する。魔法結晶からは、薄い水色と白色の光が溢れだして、俺の身体全体を包み込んだ。すると背中のあたりが、じんわりと冷たくなっていく。腰痛の発症直後は冷やす方が効果的なのだ。
「あぁ。なんか冷たくて気持ちいい。」
「・・・それって、【氷魔法】じゃダメなのー?」
「キュー。」
俺の頭の上に乗っていたユキが悲しそうな声をあげる。俺は急いで魔法結晶への魔力の提供を止めて、ユキを抱きしめる。
「ごめんよユキ。別に浮気とかじゃないんだよ?ちょっと試しただけなんだよ。許してくれ。」
「キュー♡」
自分でも何を言っているのか分からない。まるで、浮気がばれた人の良い訳みたいだ。それでもユキの機嫌は直ったようで、俺の腰へとピタっと張り付いて俺の腰痛を癒してくれる。なんて心の広い精霊なんだ。
ちなみに、ウラガやグラスは、スライムのシズクや、モノリスのダイチによって、マッサージを受けていた。二人とも身体を変えられるから、自由自在なのだ。べ、別に羨ましくなんかないぞ。俺にはユキがいるんだ。
そしてクルスへのマッサージは、僭越ながら俺がやらせて貰った。俺以外に動ける人がいなかったので、横に寝たクルスの細い腰を丁寧に揉んでいく。
細いと思っていたが、骨だけではなく、きちんと筋肉も脂肪もある。なんというか、安心できる柔らかさと温かさだ。かなりドキドキする。
が、俺の背中にはユキがくっ付いていて、俺自身腰痛があるのだ。エロい事へはどうやっても繋がらない。周りの目もあるしね。
そしてある程度腰痛が取れた俺達は、第9の扉を開けた。
そこには、銅像や棚、炊事用の窯やベッド。とにかく重そうな家具や調度品が並んでいた。そして足元には、白い枠組みが描かれている。銅像は銅像サイズの白い囲み、ベッドの足を置く位置の白い囲み。つまり、これら重たいものを所定の位置に移動しろという事なのだろう。
「腰痛が、確実に再発するな。」
(((こくり)))
もう皆、声を出す元気も無いようだ。だが俺達はやらねばならない。一刻も早くダンジョンを攻略するために。
その後は、いつも通りに家具に化けた魔獣を倒して、家具を移動させる。助っ人として、モノリスのダイチには、ゴーレムへと形を変形してもらっている。これで5人となった俺達は、「あっちだ。こっちだ。」と言いながらテキパキと片づける
そして。疲れ知らずのダイチのおかげで、特に何事も無く第9の部屋をクリアするかと思われた。
それは最後から二番目の、「どこの王族が座る椅子だよ。」と突っ込みを入れたくなる椅子を運び終えた時だった。奥の扉からガチャリと鍵が開く音が聞こえたのだ。
「あれ?この金庫の行き先が無いぞ?」
残ったのは、幅1m四方はありそうな真っ黒な金庫だけだ。これだけが行き先を示す、白い囲みが描かれていない。
「うーん?宝箱ー?」
「「「宝箱!?」」」
俺達は魔法結晶だけでなく、宝箱の存在自体忘れていたのだ。宝箱というのは、ダンジョンで死んだ冒険者の装備が、長い時間をかけてダンジョンの影響を受けて変成し、変性したものなのだ。これまでダンジョン一番乗りだった俺達が、宝箱と巡り合う事など無かったのだ。
「これが噂に聞く宝箱かぁ。ってか宝金庫?」
興味津津の俺達は、金庫の取っ手のある方へ回りこむ。俺が代表して金庫の取っ手へと手をかける。振り向いた三人は、早くしろと言わんばかりに、目を輝かしていた。常に眠そうなクルスまで、ちょっと目がいつもより大きい。
俺は堪え切れないワクワクを胸に、初めての宝箱を開けるのだった。
・本当は、魔法結晶の事を忘れていました。クルスが回収していたという、なんとも苦しい言い訳を使っています。途中、寸劇のような愛情劇がありましたが、小芝居をして二人の絆を確認しているだけです。
・そして二部屋しか進んでいない。少しスピードアップしたいなぁ。
・テル君は、腰痛になりながらもクルスのお世話。下心が満載ですね。がんばれテル君。
・次回は第10部屋以降の話の予定。




