こういうチマチマした事、地味に辛いよなぁ。
第6,7部屋の話。
ちょっと短いです。
「このダンジョン。なんか変。」
第6の部屋へとやってきました。俺がそう呟いてしまうほどに、このダンジョンは、これまでのそれとは、明らかに趣向が違っている。
「もしかして、お片づけでしょうか?」
「たぶんそー。」
第6の部屋には、子供のおもちゃが大量に散乱していた。そして、片付けろと言わんばかりに、周囲には箱が用意されている。
“生活”をテーマにしているからといって、内容が雑すぎる。これまで経験した二つの困難なダンジョンの様な、それ特有の地形や仕掛けとは似ても似つかない。いや、個性と言われれば仕方無いのだが。
俺は第6の部屋に入るなり、何か違和感を感じ、すぐさま“水の一振り”を取り出した。
そんな俺の行動にウラガ達も戦闘準備をしてから部屋に入ってくる。
「どうしたテル?」
「なんだが視線が。魔獣かも知れない。」
「やっとお出ましかよ。」
「でも、どこにいるんでしょう?心音も聞こえません。」
グラスが【聴覚強化】を使って魔獣を探すが、心音を捕える事が出来ないようだった。俺達はウラガを先頭に、ゆっくりと部屋の中央へと歩いて行く。
「!!来ます!」
グラスが叫ぶと、目の前に落ちていた人形がいきなり、近くにあったおもちゃの包丁を持って俺達へと飛びかかってきたのだ。咄嗟にウラガが張った【大盾】によって、人形は弾き飛ばされ、俺達へと攻撃が届く事は無かった。
「気持ち悪いです。」
それまでカワイイ顔をしていた人形は、今や極悪な表情と、頭や顔が切れて赤い絵の具でも塗ったかのような、恐ろしい表情へと変化している。
チャッキーといわれる、人形の化け物だ。確か映画があった気がする。ホラーなので見た事は無いが。
「お。次々動き出したな。」
俺の【周辺把握】には、先ほどのチャッキーを皮切りに、四方八方から動く人形を感知した。単に人形といっても、人型からテディーベア、犬、馬など様々ある。それら全てが何かしらの凶器を手に、襲いかかってくるのだ。
「もー。めんどー。燃えろ散れ。ファイアーボール。」
意外と気が短いのか、クルスが火弾を連射して、襲ってくる人形達を撃破していく。俺やグラスも負けじと、人形達を倒していく。
途中まで順調に人形達を減らしていたのだが、それは唐突に訪れた。クルスの放った火弾を避けた人形の先に、おもちゃの木馬があったのだ。もちろん木馬は火に包まれて、あっという間に黒こげになる。
ビーーー!!!
いきなり部屋の中に警報が鳴り響いた。かなり大音量で、俺達は咄嗟に耳を塞ぐ。
「なんだ!?何が起こっ!」
俺は皆の方へと振り返って、事態の把握に努めようとする。だが、急に足元の床に開いた黒い穴へと落ちてしまった。咄嗟に穴の淵を掴もうとするが、穴はそれを察知したかのように、より大きくなって俺は完全に穴の中へと落ちてしまった。そしてそのまま目の前が真っ暗になる。
「イテテ。」
目を覚ました俺は強打した尻を擦りながら、周りの状況を確認する。そこはダンジョンの中央、大階段前だった。傍にはウラガ達もちゃんといる。だがみんな、お尻や背中を打ったのか、痛そうに擦っている。
「強制的に戻されたみたいだな。」
「何が原因だ?もしかしてあの人形達、切っちゃ拙かったのか?」
「それとも時間制限でしょうか?お片づけって、時間を区切られる事ありませんでした?」
「あったあった!1時間以内に綺麗にしなさいって、よく言われたぜ。」
「あのー。あたしが木馬を燃やしたせいだとー。」
「クルス。その話詳しく。」
クルスから事の顛末を聞く。明らかに木馬を燃やした後に、先ほどの警報が鳴ったようだ。
「お片づけってことは、片付ける物を壊しちゃダメなんだろうな。」
「つまり、他のおもちゃを傷つけず、襲ってくる人形だけ倒せと?」
「そうなるな。」
かなり面倒臭い。魔獣かおもちゃかの区別なんて、動いて見てからしか判断出来ないのだ。不意打ちも十分にありうる。
「ま、まずは検証からだあな。」
俺達は再び第6の部屋へと足を踏み入れた。そして速攻で近くにある、おもちゃのトランペットを叩き切った。
すると案の定、ビーー!!という警報音のあと、俺達は床に現れた穴に落ちて、再び大階段へと転送された。
「これで確定だな。」
普通のおもちゃを壊すと、強制退場。なかなか厳しい条件の様だ。
俺達は再度第6の部屋を訪れて、襲ってくる人形だけを退治した。そして退治し終わった後は、散乱しているおもちゃを箱の中に丁寧に治めていく。
だいたい2時間くらいだろうか。やっとのこと片づけの終わった俺達の耳に、ガチャリという鍵が開く音が聞こえてきた。
俺達は奥の扉のノブを回してみると、ちゃんと扉が開いた。ようやく第6の部屋クリアである。
「よし、どんどん行くぞ!」
「「「おー!」」」
第7の部屋は、書籍が大量に落ちていた。ざっと見ただけで、数千冊あるかもしれない。しかもそれぞれに番号が振られており、本棚にも番号が書かれていた。
「もしかして・・・並べるのか?」
「うわー。地味に辛い。」
それまでやる気に満ちていた俺達は、その光景を見て内容を悟ると、一気にやる気が無くなった。
それでもやるしかないので、俺達はどんどん本を棚へと整理していく。
「!テルさん敵です!」
「へ?」
すっかり本の整理に集中していた俺は、グラスの言葉に一瞬反応が遅れた。本へと降ろしていた視線を、周りへと向けると、ちょうど俺に向かって本に牙が生えた魔獣が襲いかかってくるところだった。
咄嗟に俺は踵落としをお見舞いした。床に叩きつけられた本の魔獣は、ギャギャと呻きながらも、俺へと再び襲いかかろうとする。
俺は両手で抱えていた本を丁寧に床へと置いてから、“水の一振り”を取り出して、本の魔獣へと突き刺した。身体の中心を貫かれた本の魔獣は、ジタバタしたあと息絶えたように静かになる。
俺は倒した事を確認してから、周りへ視線を向けると、皆のところにも本の魔獣が襲いかかっていた。
だがウラガは盾で防ぎながら、“帯電の剣”で切り裂いているし、グラスは本の魔獣へと爪で突き刺したり、拳や足技で敵を倒していく。
一番苦戦しているのは、クルスだった。広範囲攻撃が得意で、周りへと被害を出しかねない魔法は、このステージではかなり不利だ。なので、クルスは終始本の魔獣からの攻撃を避けるしかない。魔法を使う隙すら与えられず、本の魔獣が噛みつこうと襲いかかっている。
「クルス!今行く!」
俺は【ステップ3】を使って、クルスの元へと駆けつけ、本の魔獣を突き刺した。スラッシュは万が一他の本を傷つけかねないので、使っていない。
「ふー。助かったー。ありがとうテルー。」
「無事ならいい。それより、武器はないのか?」
「あるよー。盾と短剣ー。」
そう言って、クルスは腰に隠していた盾と短剣を取り出して見せた。
「持ってるなら使えよー。」
「えー。わたし、魔法専門だったから、使い方よくわかんなーい。」
「はぁ。今度時間があったら、稽古付けてやる。」
「むーー。しょうがないー。」
基本は遠距離攻撃で、敵に近付かれる事すら少ないクルスにとっては、盾も短剣も縁遠いものかもしれない。だがダンジョンでは何が起こるか分からないのだ。なんでも出来た方がいい。
それから俺達は、先の本の魔獣を倒して回ってから、数千冊の本を本棚へと収納していく。幸い、だいたいの本が対応する番号の本棚近くに落ちていたので、2時間程で全部並び終える事ができた。
「こういうチマチマした事、地味に辛いよなぁ。」
ガチャリと音のした奥の扉を潜りながら、俺は愚痴を零すのだった。
戦いに周りを気にしなければいけない状況。この上なく戦い難いでしょうね。しかも、最後の最後に振り出しに戻されたりしたら、心のダメージが半端無いでしょう。
テル君は、クルスちゃんを助けながら、指導の約束を漕ぎつけました。以外にやるね。意識して約束したかは不明ですが。
次回は第8部屋以降の話の予定。