秘密でお願いします。
部屋4,5の話。
ちょっと短いです。
「ひとまず振り出しに戻したけど・・・あれから何か良い思いついた人?」
「「・・・」」
「良いかは分かんないけどー。目印を付ける位はー。」
「お!クルス。何か方法があるんだ!?」
「目印付けるだけよー?」
と言う事で、俺達は再び第4の部屋へと赴いた。
「じゃ、ちょっと離れててねー」
第4の部屋は、相変わらず天井から大量の鍵が降っている。その扉の外から、クルスは魔法を放つようだ。
「吹き荒れて。「風刃」」
クルスの魔言と共に、身体から緑色の魔法光が発せられる。その魔法光は、室内に入ると共に、ゴーという轟音を轟かせ、空気中に溶けて行った。いや、空気中に溶けたと思った魔法光は、大量の風の刃となって鍵を傷つけているようだ。鍵が踊る様に撥ねている。
「あとちょっとー。」
この大量の鍵全てに対して風の刃で傷を付けるので、時間がかかっている。5分後。やっと全ての鍵に傷を付け終わったようで、クルスが魔法を中止する。
「ふへー。疲れたー。」
クルスは5分間も連続で魔法を行使したせいで、かなり魔力を使い精神的にも疲れたようで、廊下で座り込んでいる。汗もうっすらかいているいるようだ。なんだか艶めかしい。
「で?これからどうする?」
「傷ついてないのがー本物―。」
「うん。それは分かるけど。・・・もしかして?」
「もしかするー。」
「分かったよ。クルスは休憩しててくれ。ウラガ。グラス。頑張ろう。」
「「おー。」」
俺達は部屋へと入り、天井から降ってくる鍵を一つ一つ確認していく。鍵には大小様々な傷がついており、欲しい鍵には傷が無いはずなのだ。
俺達は部屋を9分割して、一区画ずつ順番に探していく。
探し始めてから2時間。さすがにしんどい。途中から復活したクルスも探してくれているが、量が量なので時間がかかる。
さらに30分後。
「あった!あったぜ皆!」
見つけたのはウラガの様だ。俺達はウラガの元に集まって、鍵に傷が無い事を確認する。そしてその鍵を持ったウラガは、さっそく奥の扉を開けはなった。ようやく俺達は第4室をクリアできたのだ。
「ふー。茶を飲んだら次行くぞ。」
俺は皆に紅茶を配って、休憩を促した。そろそろ魔獣が出てきてもおかしくないので、集中力を取り戻すためにも、休憩が必要だと感じたのだ。
そして第5の部屋の扉を開ける。おそらく鍵のステージ最終だろうそこには、鍵が5本落ちていた。他にはなにも無い。
「どういう事??」
「「「さー?」」」
俺がその鍵を拾い上げようとすると、鍵はまるで粘土の様にグニャリと歪んで、違う形へと変形していく。
「うわ。形が変わった。気持ち悪ーい。」
「もしかして、この変形していく中に正解があるんじゃねぇか?」
「・・・ヤダ。鬼畜。」
それから鍵を観察していると、時間と共に鍵は変形するようだった。つまり、正解が出るまで、この5本の鍵を使って、鍵穴を回し続けるしかないという事だ。
「全部に傷が付いたから、本物が出る鍵は分からないかぁ。」
俺は一縷の望みをかけて、5本の鍵に傷を付けてみたのだが、見事に全ての鍵に傷が付いてしまった。正解が出るまで、根気よくいくしかないようだ。
「時間もかかるから、それぞれ修行時間にしようか。30分交代で鍵当番を回すぞ。」
皆もそれに賛成の様で、それぞれに自由に時間を過ごしていく。ウラガはシズクとの連携。グラスはダイチとの技の開発。クルスは・・・寝ていた。たぶんだけど、魔力の回復に専念するのだろう。知らないが。
一方俺はと言うと、奥の扉の前で、目の前に5本の鍵を並べた状態で座っている。そして鍵が変形するたびに、鍵穴へと差し込んで、正解かどうかを確認するのだ。ずっと集中しなければいけないので、あっという間に精神的に疲れてしまった。
それから約3時間。順番がグラスへと変わった直ぐ後の事だ。
「あ!!開いたよ!皆!開きましたよ!!!」
グラスは小躍りしそうな勢いで、開いた扉を指差していた。修行していた俺達も、一斉にグラスの元へ駆けよって、すぐさま扉を潜りぬけた。
「疲れたー。動いてないのに、めちゃくちゃ疲れた一日だー。」
大階段の前へと戻ってきた俺達は、その場で座り込む。屋敷の外から刺し込んでいた光も無くなり、既に夜である事を俺達に伝えてくる。
階段に生じされた数字は、5/20へとなっているので、あと15部屋突破しないと、大階段を登れない。登れたとしても、さらにいくつ部屋がある事やら。外には馬子が待っているので、そうそう時間をかけられない。
そんな事を色々と考えている俺の肩を、ポンとウラガが叩いてくる。
「また難しい事とか、心配してんだろ?顔が怖いぜ。」
「あ。悪かった。馬子の事とか、この先の事考えてた。」
「馬子は賢いから大丈夫だって!それに1日で5部屋だろ?これまでの最高スピードじゃないか。クルスも役にたってるし、魔獣も出てきてない。心配するより楽なダンジョンかも知れないぞ?」
「ふふ、そうだな。俺達も強くなったしクルスも入った。ありがとうウラガ。」
ウラガの前向きな意見で、俺はかなり心の負担を取り除くことができた気がする。心配する気持ちは変わらないが、全力でダンジョンをクリアするしかないのだ。自分に出来る事をしよう。
俺は自分に出来る事の最初として、今日の夕食を準備した。これから難易度の上がっていくダンジョンへと立ち向かえるよう、牛カツにした。揚げ物は後処理が面倒なので、正確には揚げ焼きみたいな感じだ。
「今日はカツにした。量もあるからどんどんお代わりしてくれ。」
「お!俺、カツ好きなんだよ!肉食ってるって感じがするw」
「ちなみに、この肉はミノタウロスな。」
「「・・・えー。食えるの?」」
「わーい。ミノー。」
ウラガとグラスが不信がるなか、クルスだけは喜んでいるようだ。しかもミノタウロスをミノと略している。どこかの司会者みたいな名前になっている。
「ミノはー。おいしー。」
「へー。魔族の国ではよく食べられるのか?」
「高級品ねー。かなり強いからー。」
確かに、強くなったウラガですらその攻撃が重いと感じていたし、俺の剣をもってしても、一撃では死ななかった。そう思うと、普通の猟師が刈るにはツライ相手だろう。ある程度戦闘慣れした冒険者が必要だ。そうなれば、自ずと高級品になるのは仕方が無い。
クルスがムシャムシャとミノタウロスの肉を食べているのを見て、ウラガとグラスも興味が湧いてきたようだ。しかもウラガからは、グーと腹の虫の音まで聞こえてくる始末。もう食欲には抗えない。ウラガとグラスは意を決して肉を口へと運ぶ。
「「旨っ!!」」
二人もミノタウロスの味が気に入ったようで、それ以降は一心不乱に食べ続けた。
「なんだかーお昼のーシチューのお肉の味がするー?」
とクルスが、俺だけに聞こえるような声量で話しかけてきた。俺の秘かな復習に、クルスは気付いたようだ。
「秘密でお願いします。」
俺は賄賂と言わんばかりに、お代わりのお肉をクルスへと差し出した。クルスもコクリと頷いて、俺から差し出されたお肉を持て行く。
クルスは味覚が良いようだ。食にこだわりのある獣人であるグラスも、もしかしたら気付くかもしれないが、今はまだ何も言ってこない。俺は少しドキドキしながら、自分の分の肉を食べて、明日へと備えるのだった。
このダンジョンは、スピードを重視ししています。だから広さも固定なのです。面倒な移動は極力避けてますが、時間がかかる仕掛けなどもあるようです。今日は鍵のアイデアが尽きて、筆が進みませんでした。ごめんなさい。
テル君は、クルスちゃんとの距離を縮められるのでしょうか。がんばれー。
次回は、6部屋目以降の話の予定。