不思議だよなー。鍵が零(こぼ)れて来ないなんて。
ダンジョン2、3、4部屋の話。
「ダイチ。お願いね。」
「ガ!」
“神の舌”であるダンジョンの第2部屋には、大量の岩が置かれていた。そして第1の部屋同様、その石の中には鍵が入っているのだ。
そこで、今回の適役であるモノリスのダイチの登場だ。ダイチは触れている土や岩をある程度自在に操れる。らしい。だってダイチが、「ガ」っとしか言わないし、グラスしか意思疎通できないのだもの。
そしてダイチは部屋に大量におかれている岩へと触れて行く。ダイチが触れた岩はその形を中央から曲げていく。当然中の鍵も曲がるのだ。
クルスの言と、第1室での経験から、ダンジョンの攻略に必要な物はそうそう壊れない設計になっているらしい。つまり鍵ごと曲がった岩は、偽物なのだ。
それから1時間程かかって、部屋の3/4まで来た時にダイチが唸った。
「ガ!ガー!!」
「落ちついて。大丈夫よダイチ。」
「ガー。」
ダイチは意地でも曲げようとしているが、どんなに力を入れても曲がらないようで、グラスがダイチを宥めている。ダイチは悔しそうに、フヨフヨとグラスの元へと帰ってきた。
俺はその石を叩き割って、中から鍵を取り出して、第2の部屋の奥の鍵を開けた。そしてその扉を潜る。
「ふー。やっと2つ目が終わったか。」
「いつもより格段に早いんじゃね?」
「そうなんだけど、だいたい最初の階層は早いもんだよ。」
「それもそうかw」
俺達は再び戻された大階段の前から、第3の部屋へと入って行った。
「次は・・・鉄の・・・宝箱?」
そこには、大量の小箱が棚に収められている。今度はダイチの出番は無さそうだ。なにせ、ダイチは金属を操れない。土や岩石だけなのだ。
「燃えないし、壊せない。どうしようか?」
「テルの剣で切れないのか?」
「この大量の箱を?ハハハ。」
「いや、マジで。」
「・・・ショボーン」
はっきり言って面倒臭い。だがやるしかないようだ。俺は金属の火花が出るのを嫌がって“水の一振り”を選んで、一個一個、上から真っ二つにしていく。
棚ごと切り飛ばしたいが、そうすると宝箱が散乱してしまう。面倒だが、棚から出して切るしかないのだ。皆も俺が切りやすいように、どんどん棚から出してくれる。
それから1時間程、切りに切りまくった末に、やっとガキン!という音と共に、俺の剣が止められた。
「はぁはぁ。いったい、何百個切った事か。」
「お疲れさん。」
俺もさすがに疲れてしまった。俺の固有能力“オール・フォー・ソード”のおかげで、常人より遥かに剣を扱うのには慣れているのだが、それでも小さな箱の真ん中を切るのは、神経を使うし疲れるのだ。
ウラガは気軽に言って、俺の肩をポンとたたいて労ってくれる。なんだか軽いが、それでも労われるのは嬉しい物だ。
ウラガは鍵を拾い上げて、第3の部屋の奥にある扉を開けて進んでいく。俺は皆の最後尾をトボトボとついて行く。ちょっとは休ませて欲しい。
「さてと。テルー。飯ー。」
イラっときた。
俺達はまた大階段の前まで飛ばされていた。俺は一息つこうとしていたのだが、そこでウラガが俺に昼飯を頼んで来たのだ。確かに昼の時間なのだが。俺も腹が減っているのだが!なんだかなぁ。
「わかったよ。ちょっと待ってろ。」
俺は第2の部屋へと入って行く。そこには、ダイチによって曲げられた形跡の無い、綺麗な岩が大量に置かれていた。俺はそれを使って、竈を作り上げて昼飯の用意をしていく。大階段前は、絨毯が敷いてあったり、木造建築なのでもしも火が付いたら大変な事になると思ったのだ。
昼飯はパンとシチューだ。肉は、以前倒したミノタウロを使っている。それをウラガ達は美味しい美味しいと言って食べている。ククク。俺の小さな意趣返しが成功した様だ。「ミノタウロスを食べるなんて」と言っていたのにね。
ちなみにミノタウロスは普通に美味しかった。牛の様な味だった。さすがミノタウロス。牛人間なだけはある。
そして楽しい昼食後、俺達は第4の部屋へと入って行く。
「鍵が降ってるな。」
「降ってますね。」
「鍵の雨だねー。」
第4の部屋では、鍵が雨の様に天井から湧いて、床へと落ちた鍵は床へと吸い込まれるようにして消えて行く。千差万別の鍵が、数百、数千も落ちてくるのだ。気持ち悪い。常識が通用しないのがダンジョンなのだが、あまりにも変だと気持ち悪くなるようだ。
「テル。とりあえずどうする?」
「まずは床へと吸い込まれるのを止めようか。」
「だな。」
と言う事で、俺達は第二の部屋から大量の石をダイチに纏わせて、第4の部屋へと持って来てもらった。そしてその岩や土を床一面に薄く敷いて行く。
これによって床へと吸い込まれるのは止まったが、一向に天井から湧くのが治まらない。俺の予想では、床に吸い込まれたのが天井へと回ってきていると思ったのだが、その量は半端ではなかった。
「ヤバイなこりゃ。」
「もう腰まで埋まったけど。」
部屋に入った俺達の腰は既に大量の鍵で埋もれている。俺の腰なので、グラスにとってはお腹が既に埋もれている。ちなみに、魔族であるくる者は意外と高身長で、170cmあるそうだ。少女だと思ったが、女の子だったのだ。見た目も高校生くらいだろうか。
「グラス。こっち来い。」
「あ。ウラガさん有難う。」
鍵の圧力で辛くなっているグラスをウラガは優しく抱き上げて、【大盾】を使って守っている。
チッ。いちゃ付きやがって。
「チラ。チラ。」
「なにをチラチラ言ってるの~?」
クルスはウラガ達の事を気にもしないようで、俺の不信な発言に、眉を歪めて後ずさっていく。俺の春はまだまだ遠そうだ。
「何かアイデアある人。俺は無い。」
「【火魔法】だと、溶けた鍵同士がくっつきそうだねー。」
「私もアイデアは思いつきません。」
「俺も無い!」
「とりあえず避難!部屋から出るぞ。」
俺の腰位だった鍵が俺の腹まで来ている。それでもまだまだ降り続いているので、一度部屋から出る事にした。俺達は鍵をかき分けながら、部屋から出た。幸い、部屋の入り口近くにいたので、脱出するのも時間はかからなかった。
「不思議だよなー。鍵が零れて来ないなんて。」
それがダンジョンだと言われればそれまでなのだが、見えないバリアでもあるように鍵は空けた扉から廊下側へと落ちてこない。
そのまま鍵がどこまで積もるのかを見ていると、結局部屋を満たす量で止まった。この中から1本を見つけるなんて不可能だろう。
なので俺達は一度扉を閉める事にした。そしてもう一度、部屋の扉を開けると、床に敷いた岩も、部屋一杯の鍵も無くなっており、また雨の様に鍵が降っている光景へと戻っていた。
俺達は途方に暮れるが、なんとか打開策をと、部屋の光景を見ながら頭を捻るのだった。
人を労わることの大事さを実感する回でした。知らないうちに、復習されているものなのです。コワイw
テル君は、結構心が狭いようです。まぁ仕返しもかわいいものなので、まだ許されるでしょう。
次回は、4室以降の話の予定。