最後の一匹は、魔法を使うか観察するぞ。
【生活魔法】の検証会です。
そして新し魔獣も登場。
微妙なところで区切りました。長引きそうなので。
馬車は突如発生した樹海の道を、北西方面へとひた走る。
そんな馬車の中で、俺とウラガは【生活魔法】について情報収集や様々な実験を試みている。
「まずは、生活魔法について知ってる事を教えてくれ。」
「基本的に、協会のシスターさんが使う物だ。リフレッシュの魔法だとか、ちょっとした切り傷なんかも治してくれる。」
「へぇ。【光魔法】以外でも治せるんだ。」
「そういえば、そうだよな。なんで治せるんだろう?でも、骨折とかは無理だぜ?ちょっと包丁で切ったとか、こけて擦り剥いたとかだ。」
「なるほど。他には?」
「うーーん。あ!昔シスターさんが、火付け石とか、種火とか何も持たずに火を付けてた事がある。」
「それは【火魔法】じゃないのか?」
「いや。それだけじゃなくて、ちょろちょろっとだが、水も出してた。普通のシスターが二つも魔法スキルを覚えてるとは考えられない。」
「つまりそれも【生活魔法】だと?」
「たぶん。」
「私も一つ気になる事があるの。シスターさんって、意外と力持ちが多いのよ。体力も人並み以上だと思います。」
御者台に居るグラスからも、情報が寄せられた。そういえば、獣人国でシスターさんと会わなかったなぁ。また「まぁ!まぁまぁ!」が口癖なのかなぁ?そして人族のシスターと親戚だったりして。
おっと思考がずれてしまった。
「ありがとうグラス!」
「そうなると【生活魔法】って何なんだろうな?」
「やっぱりその名の通り、【生活】を手助けする魔法なんだろうな。」
「生活ねぇ。」
「あぁ。ウラガの情報も、家事や洗濯の生活で使える。グラスの筋力や体力の上昇も、生活を楽にする点では合点がいく。」
「となると、万能じゃね?【生活魔法】を究めれば、他の魔法要らないだろ。」
「でもそうじゃないだろうな。あくまで【生活魔法】なんだ。他の【火魔法】や【水魔法】みたいに、威力も無ければ、強力にすると魔力消費も悪いだろう。」
「でも、ミノタウロスの強さは、“生活”を越えてる気がするぞ。」
「そこは、ミノタウロスの“生活”なんだろうさ。種族によって生活の定義が変わる。岩を破壊するレベルの生活が標準のミノタウロスだと、その分効果が出やすいんだろうな。」
「じゃぁ、俺達みたいな人族だと、あんまり効果は期待出来ねえな。」
「それは分かんないよ?俺達の生活は、ほとんど旅だからね。魔獣と戦う機会の多い俺達には、少し効果が上がるかも。」
「ま、物は試しか!」
ということで、俺達は実験へと移行する。まずは“着火”と“放水”の実験だ。
ウラガは【土魔法】を使い、土で出来た小さい箱を用意した。そこに、小枝を何本か入れる。
俺とウラガはお互いの顔を見合ってから、コクリと頷くと、ウラガはおもむろに小枝の山へと人差し指を突っ込んだ。
ウラガの指先が淡いオレンジ色に輝いたと思った瞬間、本当に小さな火が“ポッ”と着いたのだ。だが火力も弱く、小枝に火が付くのに数秒かかる。そして火が付いた小枝は、周りの小枝へと火を移していき、パチパチと燃えるのだった。
本当に弱かったが、【火魔法】を覚えていないウラガが、魔法で火を出せたのだ。これは確実に【生活魔法】の効果だと言い切れる。
「本当に火が出るなんてなぁ。ちょっと感動だぜ。」
「あぁ。これでも料理の準備がし易くなるな。」
「そこかよww」
だって、実際に今は火の魔法結晶を使うか、グラスに着火してもらっているのだ。正直、ちょっと面倒くさかったのだ。俺もどうにかして剣に関連付けて、【生活魔法】を活かしたい!
「っと、そろそろ消火しないとな。馬車が煙たくなってきた。」
「おう。今度も【生活魔法】だな。」
ウラガは、小枝が燃える土の箱の上で、手のひらを上にして【生活魔法】を発動させる。すると、手のひらが薄い水色の光を発した瞬間、手のひらに徐々に水が生み出されていく。
ウラガは、そっと手を捻ってチョロチョロと燃える小枝に水を注いでいった。ジュワァという音と共に消火された土の箱には、灰色の水と燃え残りの小枝が残されていた。
本当に少量ずつだが、完全に水を生成出来ていた。
「本当に何でもありだな。生活魔法。」
「さ、次行くぞ次!っと、その準備をしてくるわ。片づけててくれ。」
そう言って俺は前方の御者台にいるグラスの元へと向かった。俺はグラスとダイチにお願いして、レンガサイズの大きさと重さの土の塊を5個ほど用意してもった。俺は礼を言うと、すぐさま馬車へと戻ってきた。
先程まであった土の箱は、馬車の後方から、ウラガが森へと投げ捨てたそうだ。火は完全に消えているし、特に問題は無いだろう。全て自然へと直ぐに戻るものなのだから。
「次は、筋力アップだな。体力は測るのに時間がかかるから、今回はパスしよう。」
「で?俺は何すればいいんだ?」
「とりあえず片手で、これを持ってくれ。」
そいうと俺は、先ほど用意したレンガの一つをウラガへ渡す。ウラガは右手でそれを持つが、さすがに一つではビクともしない。
「じゃ、もう一つ。」
「う。けっこうしんどいな。」
片手でレンガを二つ持つ。レベルの上がったウラガにとっても、少しだけ腕に負担が来ているようだ。
「さらにもう一つ。」
「うはー。重たい。」
俺は3つ目のレンガをウラガの手に渡す。ウラガは手のひらを上にして、片手で3つのレンガをバランスよく持っている。さすがのウラガも腕がプルプルしている。意外とこの持ち方だと、力が入らなくて重く感じるのだ。
「4つ目行く前に、【生活魔法】だ、ウラガ。」
「おう。やっとか。」
ウラガはさっそく【生活魔法】を発動させる。ウラガの身体全体を、薄い赤色の魔法の光が覆う。すると、ウラガの腕のプルプルが止まった。俺は効果が気になって、驚いた顔をしているウラガへと聞いてみた。
「どうだウラガ?」
「スゲーよ!全然重くねぇ!一つ目と同じくらいか、ちょっと重いくらいだ。」
「なら4つ目行くか。」
と、俺は問答無用で4つ目を乗せた。だがウラガはそれを軽々と持っている。魔法を使う前なら、その重さに耐えかねて、腕を降ろしていたであろう。
「ハハ!こりゃびっくりだ。まだまだ行けそうだぜ。」
「そうか。なら5つ目。グラス!あと3つ頼む!」
「はーい。」
手持ちが無くなったので、グラスへと同じものをさらに3つ用意してもらう。これまでの予想から、俺は3個で足りると思ったのだ。
「ふへへ。さすがに重くなってきやがった。」
そう。ウラガの腕がプルプルし始めていたのだ。
「次が6個目。」
6個目を乗せると、さすがのウラガも苦しい表情を浮かべた。腕のプルプルも激しくなっている。
「7つ目。」
そして俺が7つ目を乗せたところで、ウラガは重さに耐えられなくなり、ガラガラガラと7つのランガを、馬車の中に落とした。ちなみに、スライムのシズクが床に先回りしていたので、床が傷つく事はなった。グッジョブ!
「およそ、筋力は1.25倍ってところか。」
「ほんと凄かったぜ!魔法使った瞬間によ、力が湧きあがった感じがして、重さがスーっと消えたんだよ!」
「なるほどなぁ。体感的にも、確かに効果はあったようだな。」
この結果が、一般人にも通用するのか分からないが、とりあえずウラガの場合は、筋力1.25倍だと分かった。たぶん、同じような生活をしている、俺やグラスも同様の結果になるだろう。
「他にもあるかもしれないな。」
「あぁ。実感した感じだと、防御方面に固化が出そうだ。」
「なるほど。ミノタウロスの硬さは、筋肉だけじゃなかったって事か。」
「それとタフさも、確実だろうな。俺の感じか感想だけど。」
「そうか。ウラガがそう言うなら信じるよ。他にもヤバそうなのが色々思いつくが、どうしようかなぁ。」
「いいぜ。とことん付き合ってやるよ。」
「ありがとう。じゃ、この野菜なんだけど。」
「テルさん!ウラガさん!魔獣です!」
俺達は、実験を中断して、急い御者台へと駆けつけた。駆けつける間に、【周辺把握】を使って、周りを確認する。
「前方、斜め右の森の中。距離500m。3体だな。」
「はい。私もそう感じます。」
「小さいな。ミノタウロスじゃ、無さそうだ。」
俺達は馬車の速度を遅めて、ウラガを先頭にゆっくりと進む。魔獣達は、俺達にとっくに気付いているようで、こちらへと一直線に駆けてくる。
「もうすぐ森から出てきます!」
グラスの読み通り、5秒もしないうちに森から魔獣が飛び出してきた。俺達との距離は200mほどだ。俺はその魔獣の異形に、興奮を抑えられなくなる。
「あれは、ケルベロスじゃないか!!マジモンだ!!」
そう。目の前に居たのは、頭が3つある犬で有名なケルベロスである。ハリーとかいう少年の某有名魔法使い映画で、人の数倍はありそうなケルベロスが出てきたので、知ってる人も多いはずだ。だが残念なことに、これは普通の犬サイズ。
「うげ。なんか気持ち悪いな。」
「私も無理です。」
ウラガとグラスは、そんな感想を漏らしている。確かに顔が複数ある生物なんて、これまで見たことも無いだろう。違和感の塊である。嫌悪感を抱いても仕方が無い。それが合計3体いるのだ。つまり顔は9つ。確かに気持ち悪い。
「ウラガ、二匹は頼む。グラスは警護!」
「「了解!」」
「最後の一匹は、魔法を使うか観察するぞ。」
そうして、俺達はケルベロスとの戦いを開始するのであった。
ということで、ケルベロスちゃんです。一匹ならカワイイかもしれませんが、顔が9つもあると、さすがに気持ち悪いですね。
【生活魔法】について、やっと書けました。リフレッシュ様の魔法では無いのですよ。便利魔法の弱い集合体だと思って頂ければ。
テル君は、意外と鬼畜な様ですね。どんどんレンガを積み重ねて、心配する言葉もありません。そしてシズクは良い仕事しますね。馬車を大事にしています。
次回は、ケルベロスを退治して、さらに度を進める予定。