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【生活魔法】だけで、あれだけ強くなるものなのか?

移動とミノタウロスのお話です。


ガザザザザ。夜の暗闇の中を、不気味な音が響いて来る。音の原因である大量の木々は、植物とは思えないスピードで移動してきて、ウラガが設置した土壁沿いに乱立した。


俺達は何が起こっても良いように、臨戦態勢をとっている。ウラガもグラスも完全に目が覚めたようで、馬車の外に出てきているのだ。


その後も大量の木々や植物が、次から次へとやってきては、俺達の周りを越えて行く。


ウラガの作った土壁は、それらの木々を強固に防いでいた。


そしてガザザという音を響かせながら、10分程の時が過ぎた。俺達はずっと最大限の警戒をしているが、特に変な事は起きない。


いや、木が移動してくる時点で、十分変なことなのだが。既に慣れ始めている。俺も色々経験して図太くなったなぁと変な事を考え始めていた。もう集中力も切れている。


「飽きたなぁ。」

「そうですねー。何も起こらないですしねー。」


ウラガもグラスも、既に集中力は切れている。ウラガに至っては、飽きたと言ってしまっている。


さらに5分が過ぎて、やっと植物達の大移動が治まった。それまでは岩や地面がむき出しの上に雪が大量に積もっていた真っ白な銀世界から、今では樹海並の植物が周りを覆っている。移動のために動いていた根っこの部分は、今ではしっかりと地面に埋もれて、元からそこに植わっていたかのような風貌になっている。ただ俺達の周りだけが無事だった。


「終わったようだけど・・・なんだったんだ?」

「「さー?」」


俺達の頭の中は、この不思議な現象に頭がついて行っていない。とりあえず俺は、【周辺把握】や【地形把握】を用いて状況を確認する。


分かった事は、周り5kmに渡って木々が植わっている事。魔獣は近くにはいない事。道らしきものが、北の方角にある事だけだった。


「とりあえず異常はないようだ。魔獣もいない。」

「そっか。じゃ、おやすみー」

「おやすみなさーい。」

「え!?ちょっ!寝るの!?」

((コクリ))


ウラガとグラスにとっては、もう脅威は去ったとばかりに、イソイソと馬車へと潜って行った。本当に眠るようだ。


俺にとっては、これからしばらくの間だけでも、全員で警護に専念するべきだと思うんだけどなぁ。神経が図太いというか、何というか。これくらいじゃないと、生きていけないのかなぁ?


それから俺達は再び馬車の御者台に座って、ユキと共に、周りをより一層警戒した。だが特に異変も魔獣も来なかった。途中から俺も、睡魔が襲ってきて、ユキとお喋りを始めて行く。実は俺もかなり神経が図太くなったようだ。


それから時間一杯警備と言う名のお喋りをした後、ウラガと交代して俺達は眠った。久しぶりに、楽しい夜だった。


「テル!グラス!朝だぞー。」

「うー。あと10時間。」

「寝過すぎだ!俺も眠いんだから、早く変わってくれ。」


俺達は身支度をして馬車から出ると、そこには深い森が広がっていた。探索系のスキルを使って事前に分かっていた事だが、実際に目にすると圧巻だった。昨日は分からなかったけど、木だけでなくつた等の植物もくっ付いていたようだ。正にジャングルだ。


抜けるような青い空と、深い緑、そして地面には白い雪。美しい。


「さてと。ご飯にしようか。」


大自然への感動も一瞬で終了して、俺達は朝ご飯の用意を開始した。緑は獣人国で見飽きているのだ。いくら綺麗でも、慣れてしまえば飽きてしまう。美人も三日で飽きるというやつだ。


俺達は食事もそこそこに、どうやって馬車を道へと持っていくかを話し合う。ちなみに、ウラガは朝食後は馬車の中で眠っている。俺も寝たいんだけどなぁ。


「グラス。どうやって馬車を道へと持って行こうか。俺的には、魔法しかないと思うんだけど。」

「そうですね。私も魔法が良いと思うんですが。ちょっと・・・」

「?どうしたんだ?ダイチにお願い出来ないのか?」

「いえ。それは出来るんですけど。ちょっと距離が遠いし、木々の重さのせいで、ダイチの負担が。それに倒した木々をどうします?」

「あー。それか。それは俺に任せろ。」


と言う事で、俺達はウラガを残して土壁の向こう側へとやってきた。もちろんウラガを含めて【周辺把握】で周りを監視している。


「ちょっと離れててくれ。」


おれはグラスを下がらせると、“魔法の袋”から砂を取り出した。そしてその砂を使って【土魔法】から短剣を作り出す。


砂の短剣は表面をチェーンソーの様に高速で振動、移動させているので、切れ味は抜群だ。それを【遠隔操作】で形を維持しながら、さらに回転を加える。目にも止まらない速さで回転する剣は、まるでブーメランにようだ。


キュイーーンという恐ろしい音を響かせるその砂の短剣を、目の前の樹海へと進めて行く。砂の短剣が触れた木々達は、その巨木を根元から簡単に切断される結果となった。まるで豆腐でも切るかのような、もの凄い切れ味のおかげで、みるみるうちに木々達が倒れて行った。


ズドーン。ズドーン。ともの凄い量の巨木が倒れて行く。まるで映画を見ている様な錯覚を起こしそうなほど、現実離れしていると感じる。


そして、僅か10分ほどで【遠隔操作】が届き、かつ馬車の通行に必要な範囲の木々が、綺麗さっぱりと切り倒された。


おれはそれを一端“魔法の袋”に次々に収納していく。さすがに重いので、巨木を縦に4等分程して、切った根元の方から袋に詰めて行った。


そして“魔法の袋”の容量が一杯になったら、近くの森の中に袋から出して捨てるのだ。


切り倒すのは一瞬だったが、この掃除が時間がかかる。およそ1時間かかって、切った分の木々を除去し終わった。そして目の前には数多くの切り株だけが残っている状況になった。


その後は、グラスの召喚獣であるダイチにバトンタッチだ。ダイチは【土魔法】を駆使して、切り株達を根こそぎ地面から掘り返した。それをまた俺が除去して、最後に大地が【土魔法】で整地する。


この一連の流れで休憩を挟んで1.5時間もかかった。だがまだ道へは届いていない。俺達は二度これを繰り返して、やっとのこと、道へと繋がる道を作り上げるのだった。


ちなみに途中からは、起きてきたウラガも手伝ったので、10時頃には終了することができた。


「はぁ。こんな事だけで時間を食うなんて。」

「しょうがないとは言え、面倒だよなぁ。一日に進める距離が減っちまうぜ。」

「とりあえず進みましょう。」

「そうだな。」


と言う事で、俺達は馬車へと乗りこんで昨日新たに出来た、道らしい道へと合流して、一路西へと馬車を走らせた。


「ところで、夜の植物大移動なんだけどさ。これが魔族の国で景色や道が変わる原因なんじゃないか?」

「だろうな。俺も色々考えたけど、それしかないと思う。」

「木々も移動はするけど、魔獣じゃなかったですしね。でもこれだけなのでしょうか?」

「これだけ?原因は他にもあると?」

「えぇ。これだけなら、木のある場所と、無い場所。この二通りしか出来ないじゃないですか。」

「なるほどね。他にも原因がありそうだね。」

「今回みたいに、面倒じゃなきゃいいがな。」

「そうだなw」


俺達は木々の間に出来た道を進むのだが、約1時間程して【周辺把握】に何かを捕えた。


「約500m先になにかいる。大きさ的に、ミノタウロスかもしれない。ちょっと見てくる。」


見てくるといっても、【鷹の目】で視線を飛ばすだけなのだが。そして俺が予想した通り、昨日と同じような棍棒を持った、高さ3mはありそうなミノタウロスが、森の中を闊歩していた。


「やっぱりミノタウロスだった。」

「やっとお出ましか。いつもの布陣で良いか?」

「あぁ。だがどうやって身体強化しているのか知りたいから、少しだけ耐えてくれないか?」

「任せろ!」

「グラスは馬車と馬子、それに周辺の警戒を頼む。」

「・・・分かりました。」


ウラガは自信満々の様で、胸を張って答えてくる。グラスは、護衛が不満なようだが渋々納得してくれたようだ。自分で戦いなんて、いつから戦闘狂みたいになったんでしょう。いつ教育を間違えたんだか。パパじゃないけど。


そして、いざミノタウロスとの戦闘になると、ウラガが“土の一帖”と【大盾】を使って、完全に攻撃を防いでみせる。


ドーンとか、ズドーンとか棍棒が振り下ろされて、【大盾】にぶつかるが、ひび一つ入れられないようだ。獣人族の王都の修行で、かなり盾の使い方を学んだようだ。改めて見てみると、その凄さが分かる。俺でも今のウラガの【大盾】を切り裂くのは、ちょとしんどいだろう。


俺は安全なウラガの横に立って、ミノタウロスを【鑑定】していく。


■ミノタウロス レベル35 装備:岩の棍棒 魔法:生活魔法


「!!こいつ【生活魔法】を覚えてやがる!」

「は!?【生活魔法】だけか?それだけでこんなに強いのかよ。」

「他には分からない。俺のレベルだと、詳しくまでは解明できない。」

「とりあえず、タネは分かったな。テル、もう倒してくれ。さすがに疲れてきた。」

「おう!ちょっと待ってろ。」


そう言って俺は【ステップ】を使って、ミノタウロスの後ろまで移動して、“水の一振り”を心臓目掛けて【二段突き】で突き刺した。【スラッシュ】では、二回必要だったので、今回は突きを使って一撃で仕留める。


剣が心臓を貫いたミノタウロスは、「モオオオ」という雄たけびと共に、ドスーーンと地面へと倒れ込んだ。


「そういえば、ミノタウロスって食えそうだよな。」

「「え??」」


二人からもの凄い見られるが、それほど変な事を言ったのだろうか?だって頭は牛だよ。二足歩行するマッチョな牛かもしれないじゃないか。ということで、二人に変な視線を送られながらも、俺はミノタウロスの全身を“魔法の袋”へと収納した。


ちなみに、【遠隔操作】で心臓を再び動かして、切った首元から血抜きは済ませておいた。これで血生臭くなることは、多少防げるだろう。


「それにしても。魔獣が【生活魔法】使ってくるなんてな。」

「そうでよ!実は、他の魔獣達も使っていたのかも知れませんね。」

「そうかもね。でも、今は【生活魔法】だ。【生活魔法】だけで、あれだけ強くなるものなのか?」


リフレッシュ以外に、俺達三人がまだ知らない【生活魔法】の使い道がありそうだ。それを知ることで、今後の戦闘にも活かせるかもしれない。


さっそく俺達はウラガを中心として、馬車の中で、色々と試していくのだった。ちなみに俺は、暇な馬車移動で良い暇つぶしができた、と内心思ったりもした。何がお目見えするのか、楽しみだ。


【生活魔法】の新しい使い方が問われる時が来ました。ただのリフレッシュ魔法では無いのです。たぶん。

そして森から抜けるだけで、この文章量。もっとコンパクトにしたかった。話が進まない!

テル君は、実は一番眠いはずなんです。途中で寝て起きてをしたのですから。それでも頑張っている。眠るのが大好きな作者的には、見習いたい精神力です。

次回は、まだまだ魔族の国の移動の話の予定。

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