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植物が攻めてきた!

遅くなりました。

今回も魔族の国を移動中。

ちょっと昔を懐かしむお話。


ミノタウロスとの一戦以来、あれから1時間程、雪道を歩いているが、ぱったりと魔獣と遭遇していない。


「あれは、はぐれ魔獣だったのかな?」

「そうかもな。こんだけ雪深いんじゃ、魔獣も移動し辛いから巣に籠ってるんだろ。」

「なんか熊の冬眠っぽいな。」

「ところで、話は変わるけどよ?」

「なんだウラガ。何か気付いたのか?」

「旅人と会ってなくね?」

「「・・・確かに。」」


“境界の泉”は魔族にとっても、獣人族にとっても観光地なのだ。冬であっても、商人や観光客を乗せた馬車とすれ違うはずだ。だが“境界の泉”を出発してから、まだ一人も見ていない。これは明らかにおかしい。


「もしかして、いきなり迷子か?」

「迷子っていうより、俺達が通ってる道が、他の人たちと違うコースに入ったんだろうな。」

「赤鬼さんも言ってましたよ?道が消えたり現れるのは良くあるって。」

「イヤ。それにしては短期間すぎるし、ドンピシャじゃん。あり得るのか?」

「あり得たんだろw」

「まぁ、しょうがないですね―w」

「・・・ダメだ。楽観視が抜けてない。」


二人は未だに自分たちが強くなった事で、世界を甘く見ているようだ。先程のミノタウロスも、今まで出会ったダンジョン外の魔獣だと、一番強かったのだが、それでも難なく倒せた。だから、この先も自分たちなら安全だろうと、考えているようだ。


だが俺は違う。最初、この世界に来た時に、イノシシに片腕を折られた時の事を思い出したからだ。あの時とはレベルも装備も段違いなのだが、俺にとってあの経験は、今でも鮮明に思い出せるほど、記憶に染みついている。


万が一の時を考えて、俺は今できることをやっていく。


まずは寝るところの確保である。魔族の国では、時期によって道や環境が大きく変わる。だが、谷の間や川沿いなど、例年、似たようなところに道ができるので、魔獣避け等のある休憩所が整備されているらしい。俺達もそこで寝る予定なので、まずは【地形把握】で休憩所を探すのだ。


「あれ??休憩所が無い。」


俺の【地形把握】は、剣をソナー代わりに地面へ突き刺して効果をあげているので、5kmのだいたいの地形を把握できる。なのだが、休憩所らしきものが見当たらないのだ。


「もうちょっと先じゃね?」

「そうですよ。まだ昼をちょっと過ぎたくらいですし。」

「確かにそうなんだが・・・」


ウラガやグラスの言うように、まだ時間的に早すぎる。休憩所は、馬車で一日の距離ごとに設置されるのが普通なので、まだまだ先だと言われれば、そうかもしれない。


だが、俺はお気楽な感じの二人を見ていると、もの凄く不安になってくるのだった。


そして案の定である。丸一日、雪道を馬車で歩いたが、とうとう休憩所を見つける事は出来なかった。道も雪で覆われているが、巨大な岩が点在する荒れ地の様な地形で、ミノタウロスと遭遇した時と変わっていない。


「ヤバイな。休憩所じゃないから、魔獣に襲われかねないぞ。」

「大丈夫だって!今日はミノタウロス以来、魔獣に会って無いんだから。」

「そうですよ。それに私たちの感知能力があれば、敵を見逃す事なんてないですよ。」

「うーむ。でもとりあえず、防御できる体制づくりからだな。ウラガ頼むぞ。」

「テルは心配性だなぁ。ま、俺もぐっすり寝たいから、壁くらい作るけどな。」


そう言ってウラガは【土魔法】を使って俺達を中心に、半径5mの円状に、厚さ30程の岩壁を作り出した。今まではこれくらい大きくて強固な物を作ると、魔力が一気に消費されたたのだが、【土神の加護】とウラガの固有能力である【ハイシールド】の恩恵が効いているようだ。


ウラガも、この壁を自分の盾だという認識を持つことで、自信の能力の底上げを行っている。ウラガも確実に成長しているのだ。


「あとは、交代制で夜の警備だな。グラスにも任せるけど、大丈夫か?」

「もちろんです。良い修行にもなります。」

「ま、無理はするなよ。」


本当は14歳のグラスに、夜の警備なんてさせたくない。しかも修行にもなるとか言っている。警備に専念して欲しいんだけどなぁ。


「とりあえず、最初はグラスに任せる。3時間経ったら、俺を起こしてくれ。俺の次はウラガな。俺とウラガは4時間な。」

「「了解♪」」


とりあえずの方針が決まったので、俺達は夕食の準備に取り掛かった。時刻は、もうすぐ夜6時。9月くらいなのだが、南半球に当たるので、季節冬。周りはとっくに真っ暗だ。


俺は獣人国で大量に買っておいたまきをくべて、グラスの【火魔法】で着火してもらう。そして作ったのは、クリームシチューと、鳥肉のバターソテー。クリームシチューには、巻貝のような形のパスタを大量に入れてある。巻貝パスタの中にシチューが入って、よく絡むのだ。鳥肉の方も、皮をパリっと焼きあげて、香草やスパイスを加えてあるので、食が進む。


「3日ぶりのテルの手料理だな。やっぱり旨いなぁ。」

「本当に。しかも雪を見ながら白いシチューを食べる。なんだかオシャレです。」

「喜んでくれたのなら、作った甲斐があるってもんだよ。」

「また魔族の国で新しい食材を見つけたら、新料理、食べさせて下さいね。」

「あったらね。」


さすが獣人だ。食にはどん欲で、食べながら食事の約束をさせられる。しかも喋りながらも、会話の間を見計らって、食べ続けている。マッチョな俺達と同じか、それ以上を食べるのだ。なのに、スレンダーなままである。世の女性が聞いたら、嫉妬や怨念が飛んで来そうである。きっと成長期んだよね。


食事が終わったら、俺達はさっさと眠りに着いた。もちろん馬子も、馬子用の厚手の毛布を敷いている。火鉢で効果範囲を広げていても、直で地面は冷たすぎるのだ。ほんとうはわらが良いんだろうけど、管理が難しいのよ。


それから3時間。特に何事も無く、グラスの警備時間は終了する。馬車の中で寝ていた俺を起こしに来たグラスは、もう睡魔に負ける寸前であった。いや、半分寝ていたのかもしれない。杖バージョンのダイチがグラスを器用に支えている。召喚獣なのに、イケメンなやつである。


グラスと交代するように、俺は馬車の中から御者台へ移動した。俺は眠気を払いのけるように、大きく身体を伸ばす。


「キュー♪」

「起きたのか?寝てても良いんだぞ?」

「キュ♡」

「はいはい。一緒に見張りをしような。」


なんちゃって冷蔵庫の最上段の寝床から飛んできたユキは、俺の膝の上に降り立った。俺は念のために、膝掛けとして毛布を出していたので、ユキの寒さは伝わらない。


「凄い星だよなぁ。」

「キュー♪」

「そう言えば、夜にユキと二人っきりになるのは久しぶりだな。俺がこっちに来た最初の頃以来か。」


そうなのだ。本当に最初の頃、ユキと出会った日や、どっかの悪徳商人の奴隷にされた日々くらしか、二人っきりになったのは久しぶりなのだ。


なんだか、感傷に浸りながら、満点の星空をぼーっと見上げる。前世では、本当の暗闇になる場所は限られており、こんなに美しい星空を見られる場所は限られていた。それが、今ここにある。


「あ。流れ星だぁ。」


意外と多くの流れ星を見ながら、ユキへと色々話しかけた。これまでの冒険の事、俺の前世の事、星の光は何万光年も離れた星の光だという事。取りとめの無い話を、ユキは時々相槌を打ちながら、聞いてくれた。できた精霊である。


そして、そんな話をしていると、ふと異変を感じた。実はずっと【周辺把握】を使っていたので、ちゃんと警備の仕事をしていたのだ。その俺の感覚に、色々なものが引っ掛かる。まるで植物が移動してきたような。


俺は慌てて【光魔法】で作りだした、ライト代わりになる光のナイフを、2本、目の前の方へ放り投げた。といって、【遠隔操作】で形状を維持しつつ操っているのだが。


そしてさらに【鷹の目】を使って、ウラガの作った壁の外の暗闇へと視線を飛ばす。すると、そこには、本当に木々が歩いていたのだ。


まるで、ドラ○もんの魔法使いの映画で出てきた、歩く植物だ。脚のようにウネウネ動く根っこで細い木々が大挙して俺達の周りを囲もうとしている。


「ウラガ!グラス!緊急事態!植物が攻めてきた!」


俺は大声をあげて、馬車の中にいる二人を起こす。すると俺の声に飛び起きたのだろう二人は、馬車の中で直ぐに装備を整えてから顔を出した。


俺は二人にも見えるように、【ダブル魔法】を使って、さらに光ナイフを増やして辺りを照らす。すると、まだ遠いのだが、肉眼でも見える程度に木々が迫ってきていた。


馬子も緊急事態だと分かっているようで、既に馬車を引けるような位置へと移動している。俺はいざとなれば、一点突破をする気持ちで馬子に手綱を装着する。


そして、緊張しながら木々のこれからの動向に注目するのだった。



飲み会シンドイ。飲めない私にはツライ。

今回は、星空を見ながら昔を懐かしんで、ユキと語り合います。というか一方的に話していますね。夜と星は不思議とそんな気持ちにさせる魔力でもあるようです。布石となるのか、ならないかは作者もわかりませんw

テル君は、二人より危機感が強いようですね。心配ばかりしてると、禿げちゃうよ?知らんけど。

次回は、さらに魔族の国を旅して行く話の予定。

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