それじゃ、明日から魔族の王都へ向けて出発と言う事で!
“境界の泉”の観光と、魔族の国のちょっとした話。
ちょっと少ないです。
※途中に、魔族の国のイラストがあります。参考になればと描きました。
(下手なのはご了承ください。これが最大限の成果ですw)
コンコン♪という小気味よいリズムをとりながら、扉の外から声がかけられた。
「みなさんお早うございます。朝食の用意が出来てますよ。」
「はーい。」
と、俺が閉じられたままのドアへ向かって声をかけると、スタスタと歩いて行く音と、隣の部屋で同じことを伝える声が聞こえてきた。
今は、“境界の泉”の二日目の朝である。昨日、門番の赤鬼のお兄さんに、お勧めの宿を聞いて泊まったのだが、なんとそこは、赤鬼さんのご自宅兼、民宿だった。今声をかけてくれたのは、奥さんの青鬼さんだろう。恰幅の良いおばちゃんだ。
そして昨日受付に居たのは、青鬼の男の子だったのだ。全身が青色で、頭には二本の角。身長は170近くありそうで、なかなかに筋肉が付いている。男の子というより、青年っぽかった。
「いらっしゃいませー。今の時間なら、親父の紹介ですか?サービスしますよ!」
という、元気いっぱいの青鬼君の接客に、俺達は言葉を失った。完全に赤鬼さんの営業に乗っかった形だ。
だが俺達は疲れていたし、別に不満も無いので、そのまま泊まる事にした。
夕食は、青鬼のおばさん事、門番の赤鬼さんの妻の手作りで、泉からとってきたキノコや野菜、そして野生の獣のお肉で彩られた、ボリューム満点の料理だった。
夕食の場で聞いたのだが、俺達が青年だと思った青鬼君は、まだ12歳らしい。前世だと中学1年くらいか。さすが鬼族と言えよう。
そして朝食もまた豪勢だった。テーブルにはこれでもかという程の料理が並んでいて、朝からは食えない程、胃に重たい料理も見受けられる。
「お!昨日の人族の冒険者さん。妻から聞いたけど、泊まってくれたんだってな!ありがとよ。」
「紹介して下さって、有難うございます。」
「ここいらは、観光地だからな。客の奪い合いが激しいんだわ。ほれ、遠慮しないで、どんどん食べてくれよ。」
俺達はテーブルに着いて、他の宿泊客と、鬼の家族も一緒に朝食を頂いた。その朝食の際に、色々と話を聞くことができた。
「昨日は夜勤でさぁ。君たちが最初の客だったんだよねぇ。」
「へぇ。ってことは、今帰りですか?」
「そうなんだよ。だから飯食ったら、一眠りさw」
「昨日仰ってましたが、この泉から出た物は、“境界の泉”から出ると消えてしまうとか。」
「その通りだ。だが幻って訳じゃないぜ。ちゃんとした実物さ。だから“境界の泉”の中でなら、使いたい放題さ。」
「ということは、この料理の材料や、家々の木材も??」
「もちろんだ。だから基本はタダみたいなもんだな。でも魔法結晶は出ないし、水だけってのも出ない。だから現金は必要なんだよ。面白いだろww」
「ソウデスネww」
もう愛想笑いするくらいしか出来ない。どんな理屈かは知らないが、本当に色々な物が湧いてくるようだ。
それから赤鬼のおじさんは、色々な観光名所を教えてくれた。そして、この泉の伝説も教えてくれた。なんでも、その泉で斧を落としたら、女神さまが現れて、金と銀と斧を正直ものにはくれるそうだ。ほかにも、溺れたらパンダや女の子になる泉があるらしい。それ、なんて童話と呪泉郷?
そして朝から腹いっぱいの俺達は、泉を色々と見て回ったり、おじさんの教えてくれた観光名所を回る事にした。
まずは、街の中心にある温泉だ。正確には温泉群だ。色とりどり、硫黄温泉から弱酸から弱アルカリ、効能も様々な温泉が湧き出ているので、色々な病気に効くそうだ。切り傷から打ち身、冷え症から便秘。さらには骨折から整形かと言う程の美容まで。死んだり、腕を生やす等以外は、なんでも来いだそうだ。効能がぶっ飛んでいる。
ちなみに俺達は疲労回復の炭酸泉や、魔力回復の泥温泉をメインに入浴した。ついでに、肌を整える温泉にも浸かった。冒険で、肌がボロボロになるのだ。
ホカホカで、ツヤツヤになった俺達は、次の観光名所である絵画の泉にやってきた。ここは時間と共に、出てくる水の色が変わることで、様々な絵画のような景色に変化する泉が多く集まっている。田舎の原風景や、活き活きとした動物。さらには水墨画まである。しかも毎日内容が変化するらしい。面白すぎだろ。
他にも、野菜や果物の泉から獲ってきた食材を使った格安グルメや、他では見られないような宝石を散りばめた派手な装飾品など。本当に飽きることの無い、不思議な街だ。
そして俺達は、今日のメインでもある冒険者ギルドへとやってきた。街の北はずれにある、いつもの赤い大きな扉の建物だ。
その赤い扉を開けて中に入ると、そこには魔族や獣人族の冒険者であろう人たちが、わんさかいた。二つの種族は、外見が似ているので判断がし辛いが、普通の動物を人型にしたのが獣人族で、幻想の生物や魔獣を人型にしたのが魔族だろう。鬼は、幻想の生き物なので、魔族らしい。赤鬼のおっちゃんに教えてもらったのだ。
そして俺達は、左手にある冒険者窓口へと向かい、メデューサ?ぽい受付のお姉さんに声をかける。
「こんにちは。魔族の国の地図が欲しいんですけど。」
「はい、こんにちはぁ。あらぁ?人族の冒険者さんなんて珍しいわねぇ。」
なんとも妖艶というか、色気のある喋り方をするお姉さんだ。ドキドキしてしまう。鎮まれマイサム。
「でも残念ながら、正確な地図は無いのよぅ。ちょっと魔族の国は変わっててねぇ。」
「??どういうことですか?」
「実は、道が定まって無いのよぅ。季節や時期によって、大きく変化するからねぇ。だから、正確な道を示せないのよぅ。」
「ということは、固定された施設を書いた地図はあると?」
「そいうこと。ちゃんと話を聞いてて、考えている様ね。偉いわぁ。」
「へへ。それほどでも。」
お姉さんに頭を撫でられて、さらにドキドキしてしまう。マイサムもちょっと主張が激しくなてきた。鎮まりなさい!
「はい。これが地図ね。だいたい、この“境界の泉”を越えて3~4日すると、わかれ道に出会うわ。その後の道のりは運ね。すれ違う人たちから、情報収集するのも大事だけど、信じ過ぎちゃダメよぉ。一日で変わることすらあるんだからぁ。」
「なるほど。貴重なお話、有難うございました。」
「頑張ってねぇ。」
俺達は受付を離れて、ギルドの右半分にある飲食スペースへやってきた。そこでお茶セットを注文して、これからの事を話し合う。
「俺が獣人族の図書館で読んだ話と、一致する。」
「楽園だったり、地獄だって言ってたもんな。」
「私も不思議な国とは聞いてましたが、驚きです。」
「でも俺達には、頼れるスキルがある!」
「私の【危険予知】ですか?あんまり広範囲は無理ですよ?」
「それでも、何も無いよりは良いじゃないか。危険を感じれば、引き返せば良い。」
「それもそうだな。急いで危険な道で時間食うよりは、安全に時間食ったほうがマシだもんな。」
「それもそうですね。分かりました!任せて下さい!」
「それで、当面の目的地はどこにする?やっぱり・・・」
「「王都で!」」
「だよな。ダンジョンの情報を聞かなきゃだし。それじゃ、明日から魔族の王都へ向けて出発と言う事で!」
あっさりと、作戦会議が終了した俺達は、冒険者ギルドを出て、再び“境界の泉”の観光を再開するのであった。
だが俺は、誰も触れなかった、やたら広い“神の舌”と?マークが着いている“神の心”について、言い知れぬ不安を抱くのだった。
私のイメージでは、魔族の国=不思議な国なので、そんな感じにしてみました。悪い事ばかりではなく、良い事も含めての不思議な国を目指します。だって、魔族さんは住んでるんだもの。過酷だけじゃないはず。
テル君は、スルースキルを磨いたようですね。地図の不信な点を、話題に上げませんでした。考えても仕方ないのです。
次回は、王都へ向けた旅のお話の予定。