これで資金の目処が立ったぞ
買い物に散々付き合わされたが、今は休憩時間だ。メイド達に荷物番を頼み、俺は一目散に魔法道具屋を目指した。目当てはもちろん、魔法契約書である。場所はギルドで聞いておいた。
「お邪魔しまーす。」
「邪魔するんなら帰って―。」
「ほーーい。って!帰るわけないやろ。」
なんなの?この世界始まっての、乗り突っ込みそしてしまったじゃないか。くそう。関西人の血が疼いてしまった。あ。ちなみに奈良出身です。
「あははは。お兄さん面白いねぇ。久しぶりだよ、私のボケに対応してくれた人」
見た目16歳くらいの、快活な大阪の女の子!がしっくりくる少女に笑われた。ちょっとかわいい。お兄さん、これくらい明るい子もタイプです。
「すいません。時間が無いので、魔法契約書について教えてください。」
少女の眉がピクリと動いたが、すぐに笑顔に戻っていた。強敵かもしれない。
「魔法契約書。紙自体に魔法陣が編みこまれており、魔法の使えない人にも利用可能。契約書の持ち主は、自分の血を用いる事でサインとする。契約内容は随時記入可能であるが、相手がサインした後の加筆は不可能。契約内容の如何に問わず、強い拘束力を有する。契約を破ると、契約書との距離を問わず、違反者は業火に焼かれる。最良で後遺症のでる火傷、最悪の場合、灰すら残らず死亡する。契約が完遂されれば、契約書が燃えて無くなる。契約内容は紙の大きさに依存し、文字数制限がある。最低価格金貨1枚から。」
びっくりした。少女がいきなり説明を始めたのだ。それも何も見ないでである。俺が呆気にとられていると、少女は俺を見つめてきた。値踏みされているような気分だ。おそらく、アイテムの危険性から客を選んで売っているのだろう。悪用しやすそうなアイテムだしね。俺は少女のお眼鏡に適ったようだ。
「今買うの?買わないの?」
「あいにく手持ちがありません。また伺わせて頂きます。」
「そうそう売れるアイテムじゃないから、焦らなくても良いよ。準備は必要だしね。」
まるで俺を見透かしたような言い方だ。見た目16歳だが、かなりの場数を踏んでいるのだろう。人を見る目は確かなようだ。
俺はメイドの元へと帰って、残りの買い出しを終えたあと、ネーロの奴に呼び出された。
「二日後、ザルツに塩を買い出しに行きます。馬車で片道3日ですね。今回はすぐに戻ってくる予定なので、往復で7日の旅になります。君には護衛と荷物運び、料理等一式をやってもらいます。エバにも来てもらいますので、しっかりと護衛について学んでください。分かったら下がって良いですよ。」
俺は焦っていた。もしこのタイミングで盗賊に襲われたら。もしそれを期に護衛を増やしたら。もし今後、ネーロ自身が買い付けに出なくなったら。等々を考えると、猛烈に胸がざわめいた。俺は急いでエバさんの元へ行き、旅について聞くことにした。
「ザルツまでの道は、比較的安全だ。平原ばっかで、盗賊も隠れられる場所が無いから、襲ってこない。森は魔物や猛獣が出るからな。逆に王都方面は危ないんだぞ。それと、何を心配してるのか知らないが、ネーロ様は必ず自分で買い付けに行かれる。商売においては、他人を信用しておられないからな。」
俺の心配は杞憂に終わった。本当によかった。これで、金儲けと鍛錬の時間が稼げる。俺はエバさんに、剣の稽古をつけてくれと頼んだが、夕食までまた体力作りをさせられた。その日俺は、朝から干していた布団のおかげで、久しぶりにぐっすりと眠る事ができた。
翌日は朝から雨だった。昨夜から降り続いていたらしい。屋敷に雨漏りが見つかったとかで、俺は雨の中、板とクギをもって屋根の修理に大忙しだった。ゼーの街の建物は古いものが多く、雨漏りは良くあることらしい。豪商なんだから屋根くらい建て替えればいいと思ったが、エバさん曰く職人の、順番待ちなのだそうだ。それならしょうがない。
午前いっぱいを屋根の修理で潰した俺は、午後からエバさんの剣の稽古を志願した。本当は体力作りをさせたいらしいエバさんは、雨なので断念して、しぶしぶ剣の打ち合いをしてくれた。
昨日の素振りのおかげか、剣への体重のかけ方が少し分かってきた。それでも、午後から始めた剣の打ち合いは、俺のボロ負けだった。当然と言えば当然だ。エバさんは持病の腰痛が悪化しない範囲で、俺と戦ってくれたが、俺は一太刀も当てられなかっのだ。
それでも、筋が良いと感じたエバさんは、初級の【スラッシュ】と【二段突き】を、わざわざゆっくり動いて見せてくれたのだ。エバさんが腰痛でギブアップした後は、素振りと、【スラッシュ】と【二段突き】の型を繰り返させられた。
休憩しながらも二時間近く練習していた時、俺は再びゾクリと身震いするのを感じた。俺はスキルを得たのだと、ステータスを急いで確認した。すると【スラッシュ1】と【二段突き1】が追加されていたのだ。おそらく、コツの様なものと正しいフォームを得たからだろう。どちらがスキル獲得の条件か分からないが、また一つ、自分の固有スキルについて知れて嬉しかった。もちろん、エバさんには【スラッシュ1】と【二段突き1】を見せて、合格点をもらっている。
「こんな短期間であり得ない」
エバさんは心底驚いているようだった。別に見せなくても良かったが、次のステップへ進むため、あえて見せたのである。エバさんに見せる時間には雨も上がっていたので、俺は夕食時まで郊外へ走りこみに出かけた。ついでに薬草を採取してお金を稼ぎに行った。銀貨3枚の大量だ!
ギルドのお姉さんであるクレーさんに、明日ザルツに行き、すぐに帰ってくることを告げると、慌てて一枚の依頼書を取りに行った。
■依頼内容:緊急依頼。ギルド間の荷物の受け渡し。ゼーからザルツまでの往復。往復で7日以内。報酬銀貨50枚。定員1名。ゼーのギルド印
破格の内容だった。俺は二つ返事でOKし、渡す荷物が入った箱を受け取った。中身は書類らしいので、水には注意するよう言われた。俺は自分用の袋の下の方に箱を隠すように仕舞った。
「これで資金の目処が立ったぞ。」
俺は一人笑いながら、屋敷へと戻っていった。
■ステータス
テル キサラギ 人族 男 18歳 レベル3
体力:21→23 魔力:16 筋力:25→28
速度:16→17 耐性:16 魔耐:10
スキル:【オール・フォー・ソード】【採取1】【伐採1】【スラッシュ1】【二段突き1】
スキルを覚えて行きますね―。
テル君も嬉しそうです。
次回は移動のお話。一話で終われるか?
_(:3 ⌒゛)_ポリポリ




