どんな防具に仕上がったのか、楽しみだなぁ。
図書館と買い物の話。
「さて、今日は買い物と図書館に行くわけだけど・・・行けるのか?」
「もちろん・・・だ。」
「私も、大丈夫・・・です。」
「そう言うなら、まずベッドから起き上がってくれないか?」
「「クッ!」」
昨日、俺が最後の屋台営業から帰ってきて、ウラガ達と夕食を取ろうとした時、ウラガ達は姿を見せなかった。俺はメイド長さんに二人の事を聞いてみたのだが、「部屋で休まれています。」と答えるだけで、視線を逸らされてしまった。俺は益々不信に思って、俺達が宿泊している部屋へと言ってみると、ベッドには全身ボロボロのウラガとグラスが寝ていたのだ。
話を聞く限り、副隊長のシンミアさんと守備隊長のリノさんに、最終日だからいつも以上にしごかれたたそうだ。そのおかげで、立ち上がる事も出来なくなって、眠ったそうだ。
「なんか寂しい。モグモグ」
「わたくしがお話相手をさせて頂きますよ。」
「折角なんで、後ろで立ってないで、一緒に食べません?」
「それは出来ません。メイドとしての分別と、私個人の思想が許しません。」
「そうですか。(やっぱり寂しいなぁ。)では、ウラガ達の話を教えてくれませんか?モグモグ」
「畏まりました。~~」
広――い食堂で、俺一人がポツンと食事をとる。その後ろには、俺に話しかけるメイド長。寂しさのあまり、昨日の食事は、少し塩辛く感じた。泣きはしなかったけど。ちなみにユキは俺達の馬車にある、なんちゃって冷蔵庫の自分の部屋で寝ている。冷たいやつである。氷の精霊だけに。
と言う事が昨日あって、今は朝である。これから朝食なのだが、未だに二人は「うーー。うーー。」と痛みに耐えているよで、満足に動けなさそうだ。
「しょうがない。俺一人で行くから、二人は早く治すんだぞ。明日の出発は変わらないんだからな。」
「すまねー。」
「買い物、お願いします。」
「ちなみに朝食は?」
「・・・メイドさんに持って来てくれるよう、伝えてくれるか?。」
「はいよ。」
と言うわけで、俺はまた一人寂しく朝食をとった後、馬車へユキを呼びに行ってから、王宮の手配してくれた馬車に乗って買い出しへと出かけるのだった。ちなみに、食料品や日用雑貨、新しい衣類は王宮で用意してくれたそうだが、他に要る物が思いつくかもしれないと言う事での、買い物だ。ついでに観光をしてくるつもりだ。
「まずは図書館からだな。次に行く魔族の資料、良いのが見つかると良いな、ユキ。」
「キュー♪」
ということでやってきました図書館!と言っても、地上は小さな小屋が建てられているだけで、本体は地下にあるようだ。なので、どれだけの広さかは不明だ。
「他国の方、お一人様ですね。銀貨1枚になります。お帰りの際には、何事も無ければ半額の銅貨50枚をお返しします。半分の銅貨50枚は維持管理費として頂いていますので、ご了承ください。」
「・・・高いですね。」
「獣人の方なら全額お返しするのですが・・・。申し訳ありません。」
「あ、いえ。変なこと言ってすみません。」
「「・・・」」
俺の不用意発言のせいで、俺と司書さんとの間に、重い空気が流れてしまった。他国の出身者は、実質銅貨50枚。日本円で5000円もの入場料が必要になるそうだ。まぁ、税金を払っていない他国民が、税金で買って維持管理している施設を使うのだ。しょうがないと言えば、しょうがないだろう。郷に入れば郷に従えである。
そこで俺はこの重い空気を振り払おうと、司書へと話しかける。
「このあと、魔族の国へ行くんですが、お勧めの本と地図ってありますか?」
「それでしたら第一館の、地下一階にございます。各階入ってすぐ左手の棚が、その階において、我々が勧めている本の棚になります。」
「なるほど。あと、“ライゼの成り上がり”はありますか?」
「“ライゼの成り上がり”ですね。えーっと・・・ありませんねぇ。」
「そうですか。有難うございます。」
「それでは、ごゆっくりどうぞ。」
俺は司書さんの控える受付から、第一館と書かれた立て札のある、小さな小屋へと向かった。その小屋の中には、地下へと入るための少し大きめの穴が開いていた。おそらくこの小屋は、雨風対策用なのだろう。ほかに掃除道具や、緊急用の水の入ったバケツが置かれている。
俺は司書さんに言われた通り、地下一階へと降りて行っが、そこには目を疑う程の広さの地下空間が広がっていた。
「ほへー。以外に広いし、明るいなぁ。」
だいたい、小学校の教室を3つか4つ縦に繋げた程の広大な空間に、これでもかと本が並べられている。それが、地下6階まであるそうだ。通例どおりならば、第四館まであるはずなので、まさに圧巻である。これだけの土を掘るのに、どれだけ苦労したのだろうか。ダンジョンの時の苦労を思い出すと、涙が出てきた。
ちなみに明かりは松明で灯されているが、土をくり抜いて、しっかりと防炎対策が取られていた。換気は風の魔法結晶でも使って、絶えず新鮮なものを送りこんでいるのだろう。
俺はさっそく目当ての本棚から目ぼしい本を選んで、近くにある石の机へと運んだ。そして色々と読んでいくのだが、どれも内容が不思議なものばかりだった。
ある本では、「王都へ辿り着くのは至難の業であり、不可視の壁や方向感覚の狂う霧、毒の雨に強力な魔獣が行く手を拒んだ」とある。しかし他の本では「魔族の国はとても美しかった。色とりどりの花や蝶。清流の流れる丘や、可愛らしく人懐っこい動物達。」ともある。本当に同じ国か?と何度も確認したが、どちらも魔族の国に書かれている。
「時期的なものか?それとも人を選ぶのか?ユキは何か知ってるか?」
「キュー?」
「わかんないよなぁ。これは行ってみるしかないか。」
結局図書館で分かった事は、行かないと分からないと言う事だった。獣人族の国内については、国と国の境界までの大まかな道のりと、その境界についての正しい知識は手に入った。これも面白そうなので、ウラガには秘密にしてやろう。
「次は買い物だな。もう一袋、“魔法の袋”が欲しいんだよなぁ。在庫あるかな?」
俺達が最初に“魔法の袋”を買った時も、店主が大事そうに保管する程、高級品なのだ。おそらく生産数も少ないのだろう。俺は王都の総合魔法屋へとやってきた。
「いらっしゃいませ。」
「えっと。“魔法の袋”が欲しいんですが。」
俺は、最初に声をかけてきた店員さんに向かって要件を伝えると、虫族の女性の瞳がキラリと光るのを感じた。そして俺の事を、その複眼でジーっと見てくる。なに?怖いんですけど。
「失礼ですが、かなり高価ですよ?」
「知ってます。実は二つ目が欲しいなぁと思いまして。」
俺がそう言うと、また店員の女性の瞳がキラリと光った。やめて。めっちゃ怖い。
「畏まりました。個室へご案内します。こちらへどうぞ。」
俺は店員さんに案内されるまま、2階にある客間へと連れて行かれた。そして店員さんにここで待つように言われて待っていると、奥の扉から身長2m程の馬族の男性が現れた。毛並みは赤毛で、かっこいい鬣が印象的だ。
「初めまして。ここで店長をしている者です。」
「!わざわざすみません。今日は“魔法の袋”が欲しいだけなのですが。」
「存じております。失礼ですが、身分を証明できるものを確認する決まりでして。」
「なるほど。これでいいでしょうか?」
と、俺はギルドの冒険者証を渡して見せた。一応、人族で金へと昇格しているので、信頼度的にはクリアできそうだが。
「ふむ。お若いのに大したものですな。次に、お金の確認ですが・・・預金を見ても宜しいでしょうか?もちろん他言致しません。」
「うーーん。しょうがないですね。あなたを信じます。ですが見るのは預金だけですよ?」
「ありがとうござます。」
なんか段々面倒臭くなってきた。初めて買った時は、ちょっとイザコザはあったけど、すんなり買えたのになぁ。大手だと、確認作業だけでも色々必要なのだろう。その分、商品も信頼できるのかもしれないが。
馬の店長さんは、部屋の隅に置いてあるレジスターで、俺の預金を確認する。レジスターが一瞬魔法の光を放った後、そこに表示された金額に、馬の店長の鬣は漫画の様に逆立っている。おそらく目も大きく見開かれている事だろう。ここから見えないのが残念だ。
「失礼しました。預金の方も存分にあるようですね。それでは商品を持って参ります。」
そう言ってイソイソと部屋から出て行って扉を閉めた途端、扉の向こうから猛ダッシュする蹄の音が聞こえた。相当焦っているようだ。もしかしたら上客か、鴨だと思われたかもしれない。
「お待たせしました。こちらが“魔法の袋”になります。」
馬の店長が差し出してきたのは、丁寧に木箱に治められた小さな袋だった。
「確認しても?」
「もちろんでございます。」
袋の口には、小さな魔法結晶が数個着いており、袋自体にも何か紋様が描かれている。俺はユキと協力して、長さが1.5m程もある氷の剣を作り出した。俺が突然剣を生成した事に驚いて、飛びのいた馬の店長はとりあえず無視して続ける。
その1.5mはあるはずの剣を袋の中へと収納すると、するすると袋を突き破ることなく納めることができた。
「うん。本物の様ですね。」
「は、はい。もちろんでございます。そして、肝心のお値段なのですが、金貨35枚となります。」
「金貨35枚?」
そこで俺は、完全に馬の店長を敵と見なした。前回買った時のお店では、同様の袋で金貨25枚だったのだ。絶対にぼったくる気だ。
「以前他の店で買った時は、金貨25枚だったのですが?」
「左様ですか。ですが、この品は特別製でして。布や紐の部分にも最高級品を使っております。」
(だからと言って、日本円で1000万円も違う事は無いだろう。あーもー面倒臭い!とっとと終わらせよう。)
「実はこんなものがありまして。」
「?拝見します。」
と、俺は王城で貰った数々の書類を提示した。王から直接ダンジョンの許可を貰った物。王のハンコのある商業権。その他俺が王と親しい事を匂わせるものだ。
そしてその書類を一通り目を通した馬の店長は、顔を真っ青にして、俺の顔と手紙を何度も見返している。ようやく自分が、誰にぼったくろうとしたのか、分かったようだ。
「もう一度聞きます。これは幾らですか?」
「!!金貨25枚でございます。」
そこで俺の意地悪な心が目を覚ましたようだ。ちょっといじめてやる。
「先ほど。35枚だと。」
「も、申し訳ありません。私の記憶違いでございました。」
(素直に謝ればいいものを。こいつはダメだな。)
「へぇ。金貨10枚も間違うんですか。それにこれは特別製だとか?素人考えですが、“魔法の袋”は、全てが貴重なものだそうですね。それ程差が生じる物でしょうか?」
「で、ですから私の記憶違いだったと。」
「そうですか。誰にも間違いはありますよね。」
「ほっ。ご理解頂き、有難うございます。」
「では、会計を。」
「喜んで。」
そう言うとすぐさま席を立って、レジスターへと向かい、俺のカードから支払いを完了させて、正に馬の様に駆けあしで戻ってくる。
「お待たせいたしました。カードと商品になります。」
「確かに。」
俺はカードと“魔法の袋”をポケットに入れて、さっさとこの店を出ようと歩きだした。そして扉を出る前に、馬の店長へと向き直って、一言告げる。
「このことは、商業長さんや王に伝えておきますね。」
「!!!」
俺の言葉に、声にならない声をあげるように、悲壮感に染まった顔を浮かべる馬の店長を後に、俺は総合魔法屋を後にするのだった。
ちなみに、本当に商業長と国王へ伝えるために、メイド長さんへと伝言をお願いしておいた。だが、最後のチャンスを与えてあげるようにも伝えておいた。二度も俺に対して弁解のチャンスをあげたのだ。これが最後である。仏の顔も三度までなのだ。四度目は無いんだよ?
そしてその後は、最初に“魔法の袋”を買ったミーアキャットの店主の店で、色々買い物を済ませてから俺は王城へ帰ってきた。お店では、また従業員総出で見送りさせるなど、少し恥ずかしかったのだが、それでもやはり適正価格で売っているお店は気持ちが良い。別にデパートの様な信頼も一緒に売っているところは、それはそれでいいけど、俺には合わないかなぁ。
城に帰ったのは昼過ぎだったので、ちょっと遅めの昼食をとる。ちなみに、ウラガもグラスもやっと動けるようになったようで、部屋で出発の準備をしていた。食事は先に済ませたそうだ。なので俺はまた一人ぼっち。いや、今回はユキが頭の上にいる。少しだけ寂しさも和らいだ。
「テル様。先程職人たちから、防具の修復が終わったと連絡がありました。部屋へと運ぶよう指示しておきましたので、ご確認ください。」
「お!出来たんですね!どんな防具に仕上がったのか、楽しみだなぁ。」
俺は期待に胸を膨らませながら、残り少ない王宮の食事を堪能していくのだった。
馬さん・・・。本当は悪者にする予定は無かったのですが、なぜかこんな展開に。ナゼダー?
商売は信頼関係だ。とどこかで聞きました。馬さんは目の前の利益を優先して、テルが買う他の商品の利益を失ったのです。皆さんも気を付けましょうえん。
テル君は、意外と甘い性格の様ですね。でも本当の悪者には、断固として立ち向かってほしいなぁ。
次回は、旅立ちの話の予定。