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顔、大丈夫か?

ウラガとグラスの修行の話です。

途中から主点が変わりますので、お気を付け下さい。


「「宜しくお願いします!」」


俺とグラスは、目の前に居る猿族の女性と、サイ族のおじさんに向かって挨拶をした。


朝食後メイド長に連れて行かれたのは、王宮の隣にある兵隊様の訓練所兼、詰所だった。テルはさっそく屋台を出すために出かけている。俺達に気を使ってくれたんだろうか。


「ウラガ様、グラス様。こちらが副隊長のシンミア。そしてこちらが守備隊長のリノチェロンテです。」

「話は伺っております。副隊長をしているロッターレ・シンミアです。見たとおりの猿族です。」

「ワイは守備隊長をしとるスクード・リノチェロンテっもんです。リノって呼んだってください。ちなみにサイ族です。」

「ウラガーノ・インベヴェルノです。盾とこのシズクとの連携について教えて下さい。」

「私は、グラス・フルールです。私は体術というか近接戦闘を教えて下さい。」

「「宜しくお願いします!」」


猿族のシンミアさんは、女性にしてはかなりの長身だ。俺と同じくらいはあるから180は越えてるはずだ。スレンダーな体系に、長い手足が特徴的だ。毛は赤茶色と言うのだろうか?赤土の様な色をしていて、活発そうな印象を与えてくる。装備はひじから先を全てを覆うガントレットと、脚にはクウィスを付けている。どう見ても格闘専門といった印象を受ける。


サイ族のリノさんは、大柄なおじさんだ。俺より頭一個分は背が高い。2mはあるんじゃないだろうか。全身が見ただけで分かる程の、厚い革と筋肉で覆われている。色は灰色というより黒に近いかもしれない。そして特徴的なのは眉間から生えている大きな角だ。大きいと言っても30cmほどだが、なかなか太い。あれで突かれたら、穴が開くかもしれないな。装備は顔以外の全身をプレートで覆っており、手には巨大な盾を持っている。その巨体に相応しい、重装備だ。


「まずは、それぞれの実力を見たいと思います。私はグラスさんを。ウラガさんにはリノが担当として付きますので。」

「私は何をすれば?」

「とりあえず、私を殴ろうとして下さい。私は全力で避けますので。」


そう言いながらグラスとシンミアさんは、俺達から距離をとる様に離れて行った。俺は残されたリノさんへと対峙する。


「俺は何を?」

「そうやね。とにかく全力で守ってみぃ。俺は魔法も使って徐々に力増やして、攻撃するさかい、受け切ってみ。」


そう言い終わるやいなや、リノさんは土の魔法結晶を取り出して、自分の左手にある棍棒に【土魔法】を施していく。


俺は全力で守れと言われたので、最初から全力で行く。“土の一帖”を取り出して、【土魔法】で強化し、【大盾】も硬質化していく。さらに【受け流し】も発動させている。


「いくで。」


そういうと、リノさんは何気ないような感じで左手の棍棒で、俺へと殴りかかってきた。


俺はその様子から余裕だろうと思って少し集中力を抜いてしまった。だがリノさんが軽く振るっただけの棍棒が【大盾】へとぶつかった瞬間に、ドーーン!という音を響かせて俺の【大盾】にひびが入った。


俺はその衝撃をなんとか耐え抜いたが、頭の中は驚きで満たされていた。気を抜いたと言っても、【土魔法】も【受け流し】も使っているのだ。しかも土の天使より【土神の加護】を受けているので、防御力は格段に上がっているはずなのだ。それなのに、軽く振るわれた棍棒で、【大盾】に罅が入ったのだ。俺のおごりが、完全に打ち砕かれた瞬間だった。


「やっぱりやな。早よ張り直さんか。次いくで。」

「!はい!」


俺は、その後は集中して盾をはり続けた。もちろん、どうやってリノさんの攻撃を、対処すればいいのか考えながらだ。だが5発目には、一撃で【大盾】は破壊されてしまった。バリンという音と共に、砕けた部分の【大盾】が空気中へと溶けて消えて行てしまう。そして衝撃を受け流しきれなかった俺は、地面に片膝をついていた。


「なんで・・・」

「ほんまに分からんのか?ほんなら今日は、分かるまで殴り続けたるわ。」


リノさんの教育方針は、自分で考えて気付いて改善させるものらしい。咄嗟の度胸というか機転はテルの方が得意なんだが。と一瞬考えるが、俺は自分の成長するチャンスなんだと思いだして、考えつく限りの事を試していく。


リノさんは、棍棒を使うまでも無いと言わんばかりに、本当に手で殴ってきた。フルプレートなので手も金属で覆われているが、それが無くても俺の盾を易々と突き破るだろう。そう思えるような、ド級の重さの拳を俺は何度も受ける事になった。


【土魔法】がダメなら【水魔法】。だが、水魔法では全然強度が上がらない。せめて氷にならないと意味が無いだろう。

【受け流し】がだめなら【カウンター】。だが、カウンターでは、盾が壊れる事も含めての行為なので、一瞬で壊された。

【大盾】がダメならそれを改良する。広く全体を守るのではなく、意識を集中して、身体半分の大きさを守るような分厚さを意識した形に変形した。面では無く、点で攻撃を受け切るためだ。すると、ゾクリと久しぶりにした、スキルを覚えた感触が全身を駆け巡った。


ちなみに分厚い盾は、リノさんの拳は耐えれたが、さらに威力を上げた棍棒の前に、粉々に破壊された。


俺はリノさんに休憩を頼んで、ステータスを確認する。すると、【重盾】という物を覚えていた。おそらく大きさよりも厚みを重視したおかげだろう。普段なら喜ぶところだが、リノさんに壊されてしまったので、それほど嬉しくない。


「ふー。盾の厚みを増やすんは、良いアイデアやった。ウラガの欠点の一つが、点の弱さやな。広く守れるけど、一点に攻撃されると弱い。けどまだ足りへんで!さ、考えてみぃ!」


そう言いながら、再びリノさんの攻撃は再開される。俺は顔や身体に拳を受けて、全身がボロボロになっていく。そんな俺を心配してか、肩に乗っていたシズクが鳴いた。


「ピー!」

「あぁ大丈夫だ。」

「ピーー!!」

「え?お前も加勢するって?」


そう言って俺の肩から飛び降りたシズクは、【重盾】の内側にシズクの全身を広げて、盾と一体になる。


そこにリノさんの棍棒が直撃した。俺は一瞬顔を青くしたが、盾を見ると【重盾】はひび割れているだけで、シズクにはダメージが無さそうだった。


「そのシズクは、分かった見たいやぞ。ちゃんと心を通わせい。」


その後もリノさんの攻撃を防いでいくシズクに対して、俺は話しかけた。


「大丈夫なのかシズク?」

「ピッピー♪ピーッピ。」

「そっか。シズクはスライムだもんな。打撃にかなり強いんだったな。」

「ピー。ピー。」

「え?それだけじゃない?」

・・・


その後も俺はシズクと色々な事を話していった。【水魔法】で衝撃をクッションの様に包み込むとか、好きな方向へ受け流すとか。そもそも硬いだけの盾だと、脆くなるとか。【水魔法】を使った柔軟性も必要になるとか。壊れる事を前提に、一番外は壊れる事で力を消し去るとか。


シズクは本当に色々なアイデアを持っていた。今まで戦闘ではほとんで参加させてこなかったが、俺の戦い方を見て色々考えていたようだ。それを今俺へと教えてくれる。


「よし!頼むぞシズク!リノさんの攻撃を完全に防いでやる!」

「よっしゃ!色々話して分かったみたいやな。それを使いこなして、使い分けれるまでドンドンいくでー!」


その日から俺とシズクはリノさんに、とことん鍛えられていく。1週間があっと間に過ぎるように、充実した日々を過ごす事になった。そしてシズクともより一層深く繋がる事ができた気がする。



ウラガさんと別れて私はシンミアさんと、運動場の中央へとやってきました。


「ここいらで良いかな。じゃあ、遠慮なく殴ってきなさい。あたしに触れられたら、休憩をあげる。」

「行きます!」


シンミアさんの挑発する発言に、私のやる気は一気に上昇していく。今まで足手まといになっていたのだ、ここで挽回とまでは行かなくとも、戦いを任して貰えるようになるまでは成長するんだ!


だが、私の心とは裏腹に、シンミアさんには全く攻撃が当たらなかった。紙一重とは程遠く、余裕で避けられていく。【ステップ】う使っても、フェイントをかけても、まるで踊る様に避けられて行く。挙句の果てには、私はバランスを崩してこけてしまった。


「うーん。筋は悪くないんだけどねぇー。色々足りてない。」

「それを、教えて下さいよ!」

「何言ってるの?自分で気付かない奴なんて、強く慣れないし、すぐ死ぬわよ。」

「ぐっ・・・」


シンミアさんの言うとおりだ。私の最終目的は同法を探す事。色々な土地で強い魔獣に会う事もある。その時に打開策を見つけられないなら、私は直ぐに死ぬだろう。だから、今から考えるクセを付ける必要があるのだと、シンミアさんは言いたいようだ。


「ほら。色々考えながら、どんどん来なさい。」


そう言いながら私のお尻を蹴りあげるシンミアさん。私は恥ずかしさと怒りにすぐさま立ち上がると、シンミアさんへ再び挑んでいく。


それから1時間かけて、シンミアさんへと攻撃を繰り出し続けた。だが結果的には、全く進歩が見られなかった。


「うーん。しょうがないか。ヒントをあげよう。しかも二つも。」

「!ありがとうございます。」

「そこは悔しがって欲しかったんだけどなぁ。ま、いっか。」

「ぐっ・・・」

「一つ目は、あなたは一人なの?二つ目は、何を考えて攻撃をしているの?5分休憩してあげる。次からは、私も攻撃するわ。ちょっとは危機感を持ちなさい。」


(私は一人か?そりゃ私は一人よ!何言って・・・)と考えた時、ふと胸の辺りが暑くなった。そしてようやく私は相棒の存在を思い出した。


「出て来て!ダイチ!」


私がそう願うと、心臓の上にある紋章から茶色い魔法の光が溢れだして、ポンという音と共に、モノリスであるダイチが召喚された。


「ガッガ!」

「ごめん。忘れてた。」

「ガー。ガッガガ!」

「ダイチも戦いたいのね。分かったわ。魔力をあげる。」


控えめなシズクちゃんとは違って、ダイチはかなり積極的なようだ。直ぐに自分も戦闘に参加すると言ってきたので、私は少ないながらも魔力をダイチに提供した。


「ガー。」


そして大地はさっそく【土魔法】を使って、自分を核とした変形を試みている。地面に触れたダイチの身体を覆うように土がまとわりついて、あれよあれよと出来あがったのは、私そっくりのゴーレムだった。


「ガーガ。」


どやぁ。と言わんばかりに、こちらに顔を向けてポーズをとっている。私は驚きすぎて目をパチクリさせながらも、とりあえずダイチの入ったゴーレムを撫でてあげた。ダイチは嬉しそうに、私の手に身体を預けてくる。


「ふーん。面白い子と契約してるのね。一つ目はクリアって事で。じゃあ、続きは戦闘しながら考えてね!」


そう言うと、シンミアさんは私のお腹に向かって、グーパンチを繰り出してきた。咄嗟の事だったけど、私の【危険予知】で何かくる事は分かっていたので、身体ろ縦にすることでギリギリ避けられた。だが、次に来た顔への平手打ちには対処できずにパシン!という音を立て攻撃を食らってしまった。


「早い。」

「ほら!どんどん攻撃してきて!時間がもったいないよ!」


私はダイチと協力して、シンミアさんを挟むような立ち位置で、殴る蹴るを繰り返していく。だが二人に増えたはずなのに、シンシアさんには全く攻撃が当たらない。


(くそぅ!さっきの攻撃と言い、この回避能力といい、未来でも見てるの?・・・未来を見てるのかも。ヒントの二つ目。何を考えているのか。私は、自分がシンシアさんに出来ることだけを考えてた。でもそれだけじゃ足りないんだ。相手の出方を予測するのにも、頭を使わないとダメなのよきっと!)


「ふふ。何か分かったようね。顔に書いてあるわ。それを実践出来るといいわね。」


本当にあおるのが上手い。でも冷静にならないと。シンミアさんの出方をまずは観察よ!


その後、私はシンミアさんを観察しながら、ダイチと話を繰り返した。時おり受けるシンミアさんからの攻撃に怯みながらも、自分の動き、ダイチの動き、シンミアさんの動きを考えて行く。そして合理的な動きをするために、自分の体重移動や、足運びにまで気を付けるようになって行った。だが考え過ぎると、すきが出来てしまい、シンミアさんに、殴られる。


そしてこの後1週間。ひたすらにダイチと共に、シンミアさんと戦いました。そしてその他に、近接戦で役立つスキルの型を色々と教えてもらいました。日を追うごとに、自分の技に磨きがかかるようで、あっという間に過ぎた1週間はとても充実していました。結局、シンミアさんに決定打を当てる事は出来ませんでしたが、かするくらいはできたのでました。シンミアさんにも褒められました。


ちなみに、初日の夕食時にテルさんから「顔、大丈夫か?」と聞かれましたが、何も答える気になれませんでした。大丈夫な訳ないじゃないですか。でもこれも、痛みを知って身体が反射的に攻撃を避けるようになるために、わざと残してたんです。最終日にはウラガさんの【光魔法】で跡が残らないように、綺麗に治して貰いましたけどね。


何はともあれ、ダンジョン並、いやそれ以上に濃厚な1週間を過ごせました。シンミアさんの事は、心の中で師匠と呼ぼうと思います。


そして明日からは、旅を再開するための準備にかかるそうです。産まれて初めて獣人族を完全に出て他国に入るので、今からもの凄く楽しみです。


と言う事で、二人の修行をギュッと詰め込みました。

獣人さんは、なかなかスパルタのようですね。レベルアップしている二人だから出来る修行内容でしょう。普通の人なら倒れてます。

テル君は一言しか出て来てませんが、もうちょと言い方があると思いますよね。

おそらく、あまりのひどさに言葉を選べなかったのでしょう。

次回は、旅の準備の話の予定。

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