またトロッコかぁ。今度は死にたくないなぁ。
プレゼントの話。
「ところで、水の天使にはなに貰ったんだい?」
「俺は“水の一振り”って剣を貰いました。」
土の天使の質問に、俺は答えながら手から“水の一振り”を出して見せた。土の天使は俺の“水の一振り”をジロジロと観察してから、「うーーん。」唸りながら、何かを考えだした。
じっくり1分ほど思案した後、「うんうん。あの子の事だ、何かあるね。」と独り言を漏らしながら、頷いている。頷くといっても、本体は茶色い球体なので、上下に揺れているだけなのだが。そして話の中身が全く見えない。なんだか不穏だ。
「じゃぁアタイも剣をあげようかね。」
何かを悟った感じの土の天使がそう言うと、土の天使の身体が、茶色い魔法の光に包まれた。その全身を包む光が、まるで生き物のように動いて、天使と俺の間の空中に球体として浮かんでいる。
そして一際輝いた後、球体が真ん中で割れて左右へと移動し始めた。そして割れたところからは、焦げ茶色の短剣が生み出された。刃の部分だけで40cm、持ち手を入れても60cm程度しかない短剣だ。だが、長さは短いが横幅が結構あるようだ。およそ20cmと言ったところか。やたらと、ずんぐりむっくりな剣だ。
「命名するなら“土の一振り”ってとこかね。」
そう土の天使に命名された剣は、茶色い光の粒子となって俺の手の甲へと吸い込まれていった。先の“水の一振り”の紋様の隣には、山の様な花弁の模様が、円を描くように並んでいた。
俺は左手に意識を集中させて、“土の一振り”を自分の手の中に召喚した。“水の一振り”同様、俺が意識すると紋様が一瞬輝いて、そこから光と共に手の中へと“土の一振り”が勝手に現れるのだ。
「ところで、アタイの仕事はなんだか知ってるかい?」
「先ほど、第一防衛線を張るとか仰ってましたね。」
「ちゃんと聞いてたようだね。アタイは神様から、通常は土壌の安定と、戦時は第一防衛を仰せつかってるんだ。だから基本は“守る”ことなのさ。」
「つまりこの“土の一振り”も、切ることより守る事の方が得意だと?」
「話が早くて助かるねぇ。だから、魔力を込めると、どんどん硬くなるんだよ。幅広の剣の背もその為さ。でも、鉱物の天使よりは攻撃に向いてるから、攻撃にも使えるよ。」
「鉱物の天使。」
「第二防衛を任されてる天使だよ。あっちは本当に守り専門だね。」
ここで新しい情報をゲット出来た。土以外に鉱物を司る天使がいるようだ。きっとダンジョンの魔獣は、はこれまで以上に硬くなるのだろう。それまでに成長しなくては、今のままだと刃が立たないだろう。
「他にも、テルが最初に使ってた砂を振動させる事も出来るよ。砂も土だからね。意識すれば、剣の表面が砂化するようにしといたから。しっかりやるんだよ。」
水の天使同様に、魔法結晶に閉じ込められていても、外は観察出来たようだ。俺が戦いの最初で見せた砂ナイフに対して、配慮してくれている。気前の良いおばちゃん天使だ。
「次は・・・ウラガ?だったかね。何が欲しい?」
「盾を!俺は盾職なんだ。“守る”事が得意な土の天使様から、盾を頂きたい!」
「ほう。いいねぇ。守る気概が感じられるよ。だったらアタイに任せな。」
そう短い会話ながらも、何か通じるものがあったようで、土の天使もノリノリで準備をしている。先程と同様に、一度天使の身体から溢れた魔法の粒子が、天使とウラガの中心で留まった。そして一瞬輝いた後、また半分に割れて、左右へと光が移動するのと同時に、割れた中心からは、茶色い盾が現れた。
「名付けて、“土の一帖”」
大きさも形も、野球で使用するベースの様な盾だった。それが輝いた後に、ウラガの左手へと吸い込まれるように消えた。そしてウラガの手の甲には、俺と同じで、山を模した花弁が浮き出ていた。
ウラガは、ワクワクしながら“土の一帖”を召喚している。
「へへ。なんだかテルと一緒だな。便利な機能だぜ。」
「能力はテルと同じだよ。魔力を込めると、硬くなる。しかも、もし罅が入ったり壊れたとしても、土に触れれば勝手に修復されるよ。ただし、壊れたまま再召喚しても、盾は壊れたままだから、気を付けな。あと、ウラガは【大盾】を使ってたね。盾用のスキルの効果も全体的に向上するように加護を与えてるから、後で確認しな。」
「おぉ!!大盤振る舞いじゃないですか!ありがとうございます!」
とウラガは全力で御礼を伝えた後、一人離れて、さっそく盾の感触や機能を確かめていた。
「次はグラスだね。あんたの【火魔法】凄かったよ。」
「ア、アリガトウゴザイマス!」
「そんな硬くならないでよ。こっちまで話辛くなるじゃないのさ。」
「す、すみません。」
天使と直接会話するするなんて、この世界の住人にはかなり畏れ多い事であり、グラスは極度の緊張により、ロボットの様にカクカクしている。顔も完全に強張ってしまっていて、上手く喋れなくなっていた。
天使は「ふぅ。」と息をついたあと、グラスの周りを一周観察するようにゆっくりと回った。そして、緊張でロボット化しているグラスへ、優しく話しかける。
「グラスちゃん。あんた、竜人族だね?【竜力】を感じるよ。」
「あ、そうなんです。私、竜人族です。今は、世界に散らばった同族を探してる最中なんです。」
「そうかい。そりゃ大変だねぇ。ところで、グラスちゃんは何が欲しいんだい?」
「欲しいもの・・・」
「思いつかないようだね。あんたの【竜力】を使えば、時間はかかるけど修行すれば、かなり強くなれるはずだよ。だから、修行じゃあ得られないものをあげよう。」
そう言うと、また土の天使は輝きだした。光に包まれた後、その光が天使とグラスの間に移動すると、今度はその光が集積して、一枚の黄土色の板へと形を変えた。大きさは、横幅5cm、高さ10cm、厚さ1cm程の、ごくごく小さな板だ。
「板?」
「ガガ!」
「!!??」
グラスが板に向かって、疑問を投げかけると、その板はスーっとグラスの顔の前まで移動して、土を何かで引っ掻いたような、低く腹に響くような声で鳴いた。俺も、遠くから観察していたウラガもびっくりして、言葉が出なくなっていた。
「他の子たちは相棒がいるようだからね。あんたにはこの子をあげるよ。この子は、言わば核。土に触れて、自分の身体に自由に土を纏わせて、形を変えられる。魔力を分ければ、魔法も使えるし、大きさも自由自在さね。」
天使がそう言うと、小さな板であるモノリスは、グラスの心臓目掛けて、スーっと移動していく。グラスも、俺のユキや、ウラガのシズクを見て分かっているようで、モノリスを迎えるように胸を張って受け入れた。
「グラス。召喚には名前が必要なんだ。だから後で、そのモノリスの名前を考えてあげなね。」
「名前ですか。分かりました。しっかり考えて名付けます。」
俺は、召喚するために名前が必要な事を伝えた。グラスは自分の胸に手を当てて、今から考え始めたのだった。
「そんじゃぁ、後はユキちゃんと、シズクちゃんだけど・・・ちょっと難しいね。」
「難しい?どうしたんですか?」
「ユキは氷の精霊だし、シズクは水の天使がくれた聖獣みたいだし。私が付け入る隙が無いのよね。無理に加護とか与えると、身体のバランスを壊すかもしれない。」
ユキもシズクも、既に属性に特化した存在であるので、土属性である天使の加護を受けられそうにない。
「キュッキュー!」
「ピーー!」
「そうかい?悪いねぇ。ユキとシズクの主人に付けとくから、必要になったら力を借りればいいさ。」
「「??俺達に?」」
「この子たちが、自分へのご褒美は、主人にあげて欲しいってさ。かわいい子たちじゃないの。黙って受け取んな。」
「ユキ、俺が預かっておくな。」
「シズクも、使いたくなったら、いつでも言うんだぞ。」
「キュー♪」
「ピー♪」
そして俺達は土の天使から、加護を受け取る事になった。【土神の加護】という項目が、ステータスへと追加されていた。天使からの説明によれば、【土魔法】やその上位である【空間魔法】などの効果が上がる事と、体力のステータス上昇と、身体が頑丈になり、防具の守備力も上乗せされるらしい。はっきり言って、凄すぎて実感が湧いてこない。もしかすると、チート級の恩恵なのかもしれない。
「さてと、最後に魔法結晶をあげよう。半分はアタイが使うから、半分だけ持って行きな。」
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きます。ところでこの魔法結晶、水の魔法結晶に比べると小さいですけど、足りますか?」
「あー。水のと比べると、かなり小さいよね。あれは人の身体くらいあったもんね。アタイのは、【土】だからね。かなり圧縮しているのさ。【解析】で調べてみなよ。」
俺はそう言われて半分に割れた、魔法結晶へと【解析】をかけてみた。
■土神の魔法結晶:品質・神級
「神級!!初めて見た!」
「そりゃそうだろう。しかも、魔獣が貯めたエネルギーもあるから、半分でも余裕で神殿化できるし、維持も余裕だ。心配はいらないよ。」
そうして俺達は、土の天使から大量の加護とお土産を貰う事ができた。俺達が貰った物一つだけでも、人の世に出せば国宝級なのだ。それを俺達は惜しげもなく頂いた。世界を救うためとは言え、ダンジョン攻略はかなり美味しいと言わざるを得ない。
俺が内心ホクホクしていると、ゴゴゴという音と共に、地面が揺れ始めた。
「さてと。そろそろダンジョンが消えて、神殿へと戻るようだね。好きなところまで送ってあげるよ。」
そう言って土の天使は、その球体の身体を地面へと降ろすと、魔法を発動させる。土の天使から溢れた魔法の光が、地面を通って近くの壁へと一直線に飛んで行った。そして魔法が通った後には、レールが引かれており、壁には大穴が空いていた。そして、いつの間にか俺達の目の前には、巨大なトロッコが出現していた。
俺達全員は、その光景に一気に顔を青ざめさせる。ダンジョンの途中で体験して、地獄を見たあのトロッコだったのだ。
「またトロッコかぁ。今度は死にたくないなぁ。」
俺の言葉に、ウラガとグラスが大きく頷いている。出来れば地面を走るだけで、空中へと投げ出されない事を祈る。そして俺達は覚悟を決めて、いざトロッコへと乗り込むのだった。
助けてもらったお礼を書くだけで、こんなになってしまった。これでも色々端折ったのに。
気前の良い、田舎のおばちゃんとして、書けているだろうか?
ご指摘と評価、お待ちしてます。
テル君は、ダンジョンの味を占めたようです。あんなに苦労したのにね。
「喉元過ぎれば、熱さ忘れる」ってやつですかね。
次回は、移動と凱旋帰国の話の予定。