やっぱり、土の天使様でも剣しか無理ですか。
土の天使様の話。
ちょっと短いです。
魔力不足で倒れた俺を介抱するために、ウラガとグラスが駆け寄ってきた。そして俺が魔力不足だと分かると、ウラガが【光魔法】で魔力を注いでくれた。ウラガも魔力が少なくなっていたいので、スライムのシズクから貰っているようだ。ウラガの手のひらから溢れた魔力の粒子が、俺を包んでいる。
そうして介抱してくれている横では、魔法結晶に新たな動きがあった。俺が切り裂いた直後に魔法結晶から出てきた黒い靄が消えた後、さらにそこから白い球体がフヨフヨと現れたのだ。
現れた当初は白色だと思ったが、時間が経つにつれて綺麗な茶色へと変化していく。そして変色するのと共に、白い球体からは茶色い翼が生えてきた。さらにはボールの様な手足まで生えてきた。
変形が終わった後のそれは、全体が茶色をしていた。中心の球体は10cm程度で、生えている足は、直径1cmくらいの可愛らしいものだ。だが背中に生えている翼は、片方だけでも40cmはある。明らかにバランスがおかしくなっていた。
そしてその茶色い球体から、声をかけられる
「ふぅー。世話んなったようだね。あんがとよ。」
聞こえてきた声は、まるでおばさんの様に少し低音で、しかも若干しゃがれていた。さらにどこかしらの方言が含まれている。
「・・・」
「おや。折角感謝の言葉をかけてるってのに、無愛想な子たちやね。」
「あ。すみません。俺はウラガ。ウラガーノ・インヴェルノです。こっちがテル・キサラギ。そして」
「グラス・フルールです。あまりの出来ごとに茫然としてて。ところであなたは土の天使様ですか?」
「おっと。アタイとした事が、名乗るのを忘れてたわいね。私は土の天使ってヤツさね。ずっと“神の手”である“ラ・マン”で、この星を守護してるんだわ。それにしても良く分かったじゃないか。私が天使だって。」
「実は、トレーネ湖で水の天使様を、同様に救出した事がありまして。」
「おや!そうだったのかい。あんがとよ。だったら話は早くて、アタイ的には楽ができそうだね。ところで、その坊やはまだ起きないのかねぇ。」
「魔力不足の様でして。今、魔力を渡しているので少々お待ち下さい。」
「見りゃわかるよ。じゃぁ、その間に私の話をするかね。」
「宜しくお願いします。」
サバサバした感じの土の天使様の好意で、自分の役割や異変について語って聞かせてくれた。
要約すると、土の天使様の役目は第一防衛線であり、水の天使様からの連絡を受けて、この星を守るために最前線に飛んで行ったそうだ。そして強固な結界を築こうとしたらしいのだが、制作途中に易々と突破されて、気付いたら寄り代である魔法結晶に閉じ込められていたらしい。
「う・・・」
話が一段落したした段階で、タイミングを見計らったかのように、俺は目を覚ました。
話の途中もウラガから【光魔法】で魔力を提供してもらっていたので、俺は比較的直ぐに目覚める事ができたのだ。だがそれでも魔力がかなり少ないので、頭痛と吐き気、倦怠感が強く残っている。
俺が目を開けて前を見据えると、そこには土色の羽をはやした、輝く球体が浮かんでいた。
俺はすぐさまそれが、土の天使だと理解して、仰向けの状態から立ち上がって、土の天使様に向かって頭を下げた。
「土の天使様だとお見受けします。テル・キサラギです。お見苦しいところ、申し訳ありません。」
水の天使様とは、かなりフランクに対応したテルだったが、一応相手は天使であり、それを前に寝ていたのだ。謝っておいて損は無いだろうと、一瞬で対応方法を選択した。ちなみに、急に動いたので今にも吐きそうだ。
「こりゃご丁寧に。確かにアタイは土の天使さね。そんなに畏まるんじゃないよ。助けてもらったのは、こっちなんだからさ。」
「おえぇぇ。」
「・・・」
土の天使が快く許してくれたのに、俺はそれに応える事も出来ずに、自分の足元に向かって、盛大に吐いてしまった。まわりの空気は完全に止まってしまっていた。
「申し訳ありません!!」
「!!て、天使様!こちらへ移動しましょう!」
ウラガとグラスが、半ばパニックを起こしたかのような慌てっぷりで、天使様を少し離れたたところへと移動させる。俺はユキに頼んで、口の中をゆすいだ後、さらにユキに出してもらった綺麗な水をゴクゴクと飲んで、落ちつくのだった。
「あはははははははは!!!」
と俺が完全に復活したところで、少し離れたところへ移動した土の天使から、盛大な笑い声が聞こえてきた。それも、よほどツボに入ったのか、かなり長い間笑っている。俺は自分の身だしなみを整えて、再び土の天使の元へと移動した。
「度重なるご無礼、誠に申し訳ありません。」
「いや、いいんさね。久しぶりに私の前で吐いた人間を見て、色々思い出したし、面白かったからねww」
その後、俺達は土の天使様の昔話を聞かされた。大昔、人がまだ村々で狩猟を中心に生活していた頃、自分の社へ、人族が年に数回訪れていたそうだ。その年の農作物の状況や供物の提供、新しい族長の紹介などをしてくれたそうだ。そして、初めて天使を見た人間は、あまりの緊張からか多くの者が吐いたり、泡を吹いて気絶したりしたそうだ。そうした人間が出ると、他の人間が大慌てで天使である自分へと頭を下げるそうだ。そんな慌てっぷりが、土の天使にとってはとても面白かったそうだ。
「いやー。久しぶりに笑ったよ。助けてくれた上に笑わせてくれるなんて、本当に有難うよ。」
「喜んで頂けたら幸いです。」
「ふてぶてしいのもイイねぇ。あんたらの事、気に入っちまったよwそんじゃぁ、恩恵の方も、奮発するかね。」
そう言って土の天使は、俺の周りをフヨフヨと一周すると、また俺の前で空中で静止した。
「あんた強力だけど変な固有能力持ってるねぇ。」
「えぇ。実は自称神様から、異世界から転生する時に授けられました。」
「やっぱり神様か。相変わらず凄い性能だけど、クセが強すぎるんやよ。使い辛いっちゃありゃしないだろ?相当苦労するだろうねぇ。分かってると思うけど、アタイがテルにあげられるのは、剣だけよ。」
「やっぱり、土の天使様でも剣しか無理ですか。」
俺は剣以外のモノが欲しかったのだが、幾ら天使といえども、自分の創造主である神が与えた俺の固有能力を超える事は出来ないようだった。土の天使にもボロクソに言われる俺の能力。本当に、どうしてこんな力をくれたのだろうか。怨むよ自称神様。
そしていよいよ、俺達への褒美が渡されていくのだった。
土といえば、農作業。農作業と言えば、田舎のおばちゃん。と言う事で、そんな風な天使になりました。見た目は妖精ちっくなのに、声と喋りはおばちゃん。なかなかシュール。
そして、とても中途半端ですが切っちゃいました。長くなりすぎる予感がしたもので。という言い訳をしておきます。
テル君は、土の天使に気に入られましたね。何が幸いするか分かりませんね。
次回は、天使からの褒美と話と帰国の話の予定。