やっと土のダンジョン、クリアか。
ボス戦の続きです。
俺達が攻撃方法について、あれこれ考えている間に、ボスである巨大モノリスは次の攻撃へと移って行く。
ウラガに対して、自分の分身をただ単純に投げつけていては意味が無いとわかったモノリスは、その自分の欠片の形を変化させ始めた。
土で出来ているモノリスの欠片は、ズズズとまるで生き物のように蠢いて、柔軟にその形を変えた。それはまるで、ネジの様に周りに溝を掘った姿をしていた。それがモノリスを中心に、何十という数が浮かんでいる。それが俺達全員に向かって今にも放たれようとしていた。
「これは拙いな。グラス!テル!」
そう叫んだウラガは、とっさに【土魔法】を使って、自分の目の前に5枚ほどの分厚い岩の壁を作り出した。離れている俺からもウラガの姿が見えなくなってしまう。
俺達も、避難しようとして【ステップ】を駆使して駆けつけようとするが、途中でモノリスの攻撃が始まってしまった。
放たれたネジ型の土の弾丸は、さらに回転を加えられており、俺の横を「キュイン」という音と突き抜けていった。後で確認したのだが、その弾丸は、後方の壁へとぶつかると、爆発する事も無く、壁の奥深くへと突き刺さっていた。
死にもの狂いでウラガの元に辿り浮いた俺は、なんとか攻撃の合間を縫ったので、怪我を負う事は無かった。だが、【ステップ】のレベルが1であるグラスは、間に合わずに攻撃を食らったようだ。
「クッ!」
という声を上げたかと思うと、左太ももを抑えながら、なんとか弾丸の隙間を縫ってこちらへと向かってくる。俺は間に合わないと感じて、咄嗟に土ナイフをグラスへと投げつけた。そして【空間魔法】の転移を使って、ウラガの盾へと運んだのだった。
「俺が治してみる。ウラガ頼むぞ。」
「任せろ!って言いたいが、早めにしてくれよ。長くもたない。」
俺は治療の間、守ってもらうようウラガに頼んだが、あまり良い返事が聞けなかった。
ウラガが言うとおり、モノリスから放たれたネジ型の土弾丸は、ウラガが作った岩の盾を易々と崩壊させており、既に残り1枚になっている。ウラガも自分の【大盾】に【土魔法】と【受け流し】を併用して、思いっきり魔力を注ぐ準備をしている。それでも俺達を守ろうと言うのだから、信用するしかない。
俺は左太ももを押えているグラスの手をどかせて、傷の具合を確認する。ネジ型の土弾丸にやられた様で、太ももの一部が抉れていた。掠っただけなのだろうが、それでも周りの肉や皮膚を巻き込んで、引きちぎる様な傷になっていた。とても痛々しい。
「他には?」
「ありません。」
「この剣を握っててくれ。ちょっと我慢しろよ。」
グラスは痛みに耐えているようで、顔をしかめているが、俺の質問に端的に答えた。そして、俺はそう言うと、グラスに土で作った剣を渡して、【光魔法】でグラスの傷を治そうとした。
これまで【光魔法】の治癒効果を本格的に使った事が無かったので、上手くいくかは分からないが、俺は必死に念じながら【光魔法】を使用する。
(グラスがまた剣を振れるように、傷を癒す。傷が治ったら剣を振りまして、敵へと挑む。剣を支えるためにも、怪我を回復させる!)
俺がそう念じていると、俺の手から溢れた白い魔法の光が、グラスの肩を包み込んでいく。そして、ジワジワとその傷が元通りに戻って行くのを確認した。
俺はその光景を見ながらも、【光魔法】を維持するために、傷と剣を関連付けし続ける。そうしないと、あっという間に魔法の効果が消失してしまいそうだった。そして嫌な事に、回復速度が遅い。最低でも数分は必要だろう。
俺が集中していると、「ガラガラ。ガキン!」という音がウラガの方から聞こえてきた。俺は集中しているので、顔を向ける事は出来ないが、音からとうとうウラガの盾まで攻撃が届いたのを理解する。
「まだかテル!?俺の盾を貫通してきてる!」
「あと数分!」
「踏ん張り所か!」
ウラガは魔力を大量に使って、自分の盾の強度をさらに上げていく。ウラガの身体からは、魔力の光が染み出しており、制御できる限界を注いでいる事を知らせていた。
俺も意識を集中し続けてる。そしてウラガに守られる事4分ほどで、なんとかグラスの傷は完全に回復できた。
「違和感は?」
「ありません。!皆さん伏せて!」
怪我が回復した直後位に、グラスがそう叫んで、俺とウラガの頭を下げさせた。
俺達はグラスの【危険予知】が発動したのだと分かった直後に、ウラガの【大盾】を突き抜けて、俺達の頭上を、巨大なブーメラン型のギロチンが駆け抜けた。およそ2mはありそうな巨大なものが。
ウラガが必死に耐えていた事に、モノリスもイラだったのだろう。自分の欠片を数個集めて、ブーメランを形成して、その刃の部分を鋭い岩で覆っている。
その土も岩も無理やり圧縮したのだろう。モノリスの近くまで戻って行った巨大ブーメランは、ドスンという音と共に地面に突き刺さった。かなりの重さだと理解できる。
「クソ!俺の盾が切れた!」
「!!」
俺は最初、魔法で作っている【大盾】の部分の事かと思ったが、それは間違いだった。【大盾】の中心核とも言うべき、本物のウラガの盾が上、四分の一ほどごっそりと切り飛ばされて、近くの地面に転がっていた。
「防御力と【大盾】の範囲が狭まる!あまり守ってやれねえ。」
「・・・分かった。攻めるぞ!」
「おう!」
「はい!」
俺達はもう防御に頼って、機会を伺ったり治療に専念出来なくなってしまった。なので、攻撃は最大の防御と言わんばかりに、攻撃へと転じる事にした。
「グラスは最大火力の【火魔法】の準備!」
「ウラガは左へ移動して一瞬でも気を引いてくれ。」
俺は一人【ステップ3】で右へと移動していく。その間に【土魔法】を使って岩ナイフを作っていく。それを【空間魔法】でそれぞれの地点へと隠すように保存していく。
ちょうどモノリスを中心として、俺達が三角形になる様に移動した。モノリスは、俺達の誰を狙おうか品定めした後、厄介なウラガから倒そうとその向きを変えた。
近くに埋まっているギロチンのブーメランを再び操って、ウラガへと投擲していく。「グオン」という風を切る音と共に、超重量のギロチンがウラガへと向かっていく。だがウラガも予想していたのか、対策をとっていた。
防ぐ事はせず、【土魔法】を使って自分の周りに大量の土埃を発生させていた。あっという間に土埃に覆われて、ウラガの姿は見えなくなった。
モノリスも驚いて様で、ブーメランを適当な土煙りの中に突入させるが、ウラガにはあたらず、そのままクルクルとモノリスの元まで返って行った。
俺はその隙を見逃さず、途中に隠してきた大量の土ナイフを【空間魔法】で出現させ、【遠隔操作】でモノリスへと投げつけた。
土ナイフはモノリスの欠片達に阻まれる事も無く、モノリスへと突き刺さるかと思ったのだが、「ガキン」という音と共に、モノリスの身体をうっすらと傷つけるだけで終わってしまった。
「クソ!なんて硬さだ。」
俺は自分の圧縮できる限り圧縮して硬くした土ナイフが、ほとんど効果が無い事に憤った。
憤ったのは俺だけでなくモノリスも同様であったようだ。モノリスは、さらに右半分の身体を分解して周りに浮遊させた。つまりその空間には、もう巨大なモノリスは無く、分裂した欠片達で溢れていた。
「そんなバカな!」
「どうなってやがる。」
俺とウラガがそんな事を洩らす程に、衝撃的な事だった。水の神殿で経験した事から、ボスの魔法結晶は、人の身体程もあると信じていたのだ。なのに、モノリスの欠片達では、その大きさを遥かに下回っている。隠せる場所はどこにもない。
「地面の中か?」
「いや。最初のグラスの攻撃で自分を守ってた。だから本体はあの欠片のどれかだ。」
俺達は冷静に分析した結果、そう結論付けた。だがモノリスの欠片達は数千にもおよび、どれが本物か分かりはしない。
「無理ゲーだろ、こんなの。」
俺がそう呟いた瞬間に、モノリスに動きがあった。数十の欠片を地面へと突き刺したかと思うと、その欠片を核として、ミニゴーレムを大量に作り出したのだ。
大きさとしては1mも無いのだが、あのモノリスのする事である。圧縮した土や岩を使った超重量のゴーレムだろう。あんなの物の攻撃を食らうわけにはいかない。圧死確実だし、身体が吹き飛ぶだろう。
「グラス!ちょっと避難して、合図したら少しでいいから火を吐いてくれ!そのあと伏せろ!ウラガも伏せろ!」
俺は指示を出すと、“魔法の袋”から小麦粉の入った袋を取り出して、モノリスへと向かって放り投げた。
モノリスはそれを欠片でで防いでいるが、俺は袋目掛けて土ナイフで切りつけた。そして多くの土ナイフを【遠隔操作】で操り、周辺に小麦粉を散布した。
「グラス!今だ!」
俺の指示を聞いたグラスは、口から炎を噴き出した。炎が小麦粉が舞っている空間へと到達した瞬間、盛大な爆発音と共に、もの凄い衝撃波が俺達を襲った。
俺は【土魔法】で巨大な剣を創造して、それを盾にして衝撃波をやり過ごした。
衝撃の後に撒き起こった土埃が晴れた後には、モノリスが自分の欠片を集めて、歪な繭のようになっていた。そして地面には腕や頭が取れ、全身にヒビが入って動かなくなったミニゴーレムの残骸が散乱していた。
モノリスは、衝撃が治まったのを見計らって繭を解いて、また周りに欠片達を撒き散らし始めた。
「よし!畳みかける!ウラガは【受け流し】で、魔法をモノリスへ!グラスはウラガに最大の【火魔法】!」
「「!!?」」
「いいから!」
ウラガとグラスは困惑するが、俺の事を信じて行動に移してくれた。
グラスの口からは、離れた俺でも熱いと感じる程の火力で、ウラガへ向かって火を吐いた。それをウラガが、【大盾】と【受け流し】を使って、器用に魔法の方向を変えて、モノリスへとぶつけた。
モノリスは、最初にグラスが炎を吐いた瞬間に、グラスの方向に向かって、欠片を並べて作った巨大な盾を形成していた。その巨大な盾をさらに薄くはがして、何層もの盾にする。
だが視界を遮られて、その上、作業に追われていたモノリスは、グラスの攻撃がウラガを経由する事に気付くのが遅れたようで、その全身を業火で焼かれている。
「ゴオオ!!」という空気を焼きつくすような業火に当てられたモノリス達は、一瞬で焼かれて、茶色い欠片から真っ白な欠片へと変化していく。
それでもモノリスは必死に盾を形成し直して、グラスとウラガの両方に巨大な盾を作り上げた。おかげで、空中を浮遊するモノリスの数がだいぶ減った。
「ユキ!全力で行くぞ!」
「キュッキュー!」
俺と繋がっているユキは、俺の作戦を理解しているようで、既に魔力を貯めていた。そのユキの本気をモノリスへと向かって放出した。
ユキの魔法が通過した後は、「キーン」という音でもしそうなほど、モノリスだけでなく地面や空気さえも凍りついてしまっていた。
今までかなりの高温にさらされていたモノリスだが、今度は絶対零度付近まで急激に冷やされた事で、劇的な変化が起こっていた。
それはモノリスの欠片全ての表面が、ボロボロと崩れていてたのだ。急激な熱膨張から、さらに急激に冷やす事で収縮が起こり、土や岩が割れたのだ。かなりの強度を誇っていたモノリスも、これには抗えないようで、ボロボロと崩れていく。
だがそれも表面的なものであるようで、欠片達を地面へと接触させて、自己再生を始めたのだ。さすが土。材料は無限にあるようだ。
しかし俺も何もしないで見ている訳では無かった。モノリスの中心へと【ステップ3】で駆け寄り、【空間把握】と視力を頼りに、核となる魔法結晶を探したのだ。
すると、大量にある欠片の内、一つの表面がキラリと光るのが見て取れた。俺がそれに【空間把握】で意識を向けると、確かに他とは表面に出始めている材質が違うのだ。つまり、核である魔法結晶を見つけたのだ。
俺は“水の一振り”に魔力を全力で注ぎながら【ステップ】で近寄った。
俺に気付いたモノリスも、自分を守ろうと周りのモノリスの欠片を集め始めたが、俺は【空間把握】でしっかりと核を捕えていた。
「終わりだ!」
そして【硬物切断】と【スラッシュ】を併用して、一気に核を切りつけた。周りの欠片もろとも巻き込んだ斬戟は、モノリスの身体を綺麗に真っ二つに切り裂いていた。そして、カランという音と共に、地面へと落ちたのだ。そしてそれを合図にするかのように、まわりに浮遊していた大量のモノリスの欠片も、力を失って「ガラガラガラガラ」と一斉に地面へと崩れ落ちていった。
そして切り裂かれたモノリスの核である魔法結晶の中心からは、何か黒い靄の様なものが溢れ出てきたが、直ぐに空気に溶けるようにして消えていった。
「やっと土のダンジョン、クリアか。」
俺はもう敵がいない事が分かると、そのまま地面へと仰向けになって倒れこんでしまった。完全に魔力不足からくる倦怠感と、ボスと戦った事での肉体的疲労。そして緊張の糸が途切れた事から来る、猛烈なダルさに立っていられなくなったのだ。
俺は遠のく意識の中で、ウラガとグラスが駆け寄ってくるのを感じながら、心地よい眠気に身を委ねていくのだった。
やっと。やっと終わった。長かったよぉ。話が進むよぉ。
と言う事で、土のダンジョンいかがでしたか?土は色々作れるので、本当はもっとモノリスに色々させたかったのですが、盛り込み過ぎると読むほうが辛いし、書く方も辛いので、カットしました。
テル君は、意外と魔力を使っていたようです。そしてあんな失敗した時のリスクの高い方法を選ぶなんて、切羽詰まってたんですね。
次回は、ダンジョンの後始末的な話の予定。