どうやって攻撃すれば良いんだよ。
ボス部屋に入ります。
ダンジョンの夜明けと共に、俺達は目が覚めた。昨日はかなりきつい筋肉痛に襲われていたが、今日はまだましだ。ましだと言っても、筋肉痛が無くなった訳では無い。
それでも俺は朝飯の準備をした。ユキに頼んで氷を入れていた、なんちゃて冷蔵庫の野菜も、もう完全に傷み始めていた。
「しょうがない。使いきっちまおう。」
と言う事で、まだ生で食べれそうなところはサンドイッチに。痛んでいるところは、スープに入れてしっかりと火を通した。ダンジョン内において、食べ物を捨てるなんてもったいない事は出来ないから、なんとかして食べるのだ。
「朝飯だよー。」
「「はーい」」
俺が料理していた間に、【土魔法】で椅子とテーブルを作って、布団の片づけや装備の点検をしてくれていたウラガとグラスを呼ぶ。
「今日で野菜は終わりだよ。もう傷んじゃったから、使い切ったんだ。」
「結構もったよなぁ。やっぱり冷蔵庫のおかげだなぁ。」
「そうですね。普通なら2週間以内に食べきらないと、お腹壊しちゃうのに。村から数えたら、3週間?4週間?経ってますよね。」
「そうだな。ユキのおかげだな。」
俺は、頭の上に座っていたユキを抱きとめて、ヨシヨシと頭を撫でてあげる。ユキも満更でもないようで、「キュー♪」と鳴いて、俺へとグリグリしてくる。良い子だね。
食べ終わった俺達は、再度装備を確認してから、34階へと続く階段を進んでいく。
34階へと出た俺達を待ち構えていたのは、巨大な扉だった。高さが10m以上あるし、門の中央には10枚の花弁が描かれていて、うち1枚が黄土色に輝いている。観音開き式であるようで、材質は土でできており、かなりの重量がありそうだった。水の神殿で見たように、その扉からはなんだか威厳というか、荘厳さが感じられる。
「・・・ボスだな。」
「ボスだ。」
「ボスですね。」
俺はまだまだ先だと思っていたのだが、いつの間にか、かなりの階層を進んでいたようだ。50階までは二日で1階増えると言われていたのに、そんなに早く進んだのだろうか?
俺達三人は、ボスだという確証を持って扉の前で茫然としている。なんというか、心の準備がまだできていない。
「うー。緊張してきました。」
「俺はワクワクしてきたぜ!」
グラスとウラガはとても前向きで、戦闘へと気持ちを高ぶらせている。俺とは対照的だった。俺も覚悟を決めないといけない。いつかは戦わなければいけない、最終ボスなのだから。これが終わらなければ、進めない。
「よし!行くか!」
「「おー!」」
俺とウラガで、見ため重そうな扉を押していく。水の神殿同様、意外と軽い力で開いて行く扉の先には、広い空間が広がっていた。
感覚的には、一辺が500mくらいあるだろう。そして天井も20mはある。材質はただの土の様であり、岩は見当たらない。他にも特にこれと言った特徴の無いボス部屋だ。だが肝心の魔獣がいなかった。
俺達は不信に思いながら、門を潜って中央へと歩いて行こうとする。するとボス部屋の扉が、ギギギと音を立てながら閉まってしまった。
「あ。扉が。」
「グラス。前を向け。来るぞ。」
俺達は二度目なので、部屋の中央へと視線を向けたままだが、グラスは扉の方を向たのを感じたので、前を向くように指示する。グラスも、ハッ!と気付いたようで、部屋の中央の変化に視線を向けた。
扉が閉まったのと同時に、ダンジョン中央では、茶色い魔法の光が溢れだしていた。その魔法の光が地面へと吸い込まれるように消えたかと思うと、地面からズズズと巨大なモノリスが浮かびあがってきたのだ。
出てきたモノリスは、横が3m、高さ10m、幅1mはあろうかという、かなり巨大な魔獣だ。材質も、一見茶色でできていているので、土かと思ったが、所々に岩も見受けられた。
「!飛んできます!」
グラスがそう言うと、ウラガが【土魔法】で強化した【大盾】を構えた。地面から浮かび上がったモノリスは、声を上げる事も無く、さっそく身体の左半分を分離して、俺達へと投げつけてきた。
「受け流す!気を付けろ!」
ウラガがそう言うと、【大盾】を斜めに構えて【受け流し】を使って威力を殺そうとした。そして、それは成功して、ウラガの盾に弾かれた岩が、俺達の後方にあった扉へと激突していく。
ウラガの盾にあたる度に、ゴン!ゴン!ととても鈍い音が聞こえてくる。俺は飛んできたモノリスの破片を確認すると、その大きさに驚いた。
これまでの階層で出てきたモノリスの破片は、1cm四方の小さなものだったのだが、今度は20cm四方で厚さも5cmはある土の塊だった。しかもタダの土の塊ではなく、可能な限り圧縮して硬さと重さを増した特別製の様だった。
「ぐっ!攻撃が重てぇ。」
【受け流し】で力を逃がしているウラガでさえも、完全には力を殺せないようで、徐々にだが後方へと押されている。
「グラス!心臓はどこにあるか判るか!?」
「遠すぎて無理です!」
「俺の予想だけど、魔法結晶は巨大なはずなんだ。だから分裂にも限界があるはず!そこをつくぞ!」
「水の神殿だと、人の身体と同じくらいはあったもんな。だから、分裂していない右半分に、核に魔法結晶があるはずだな。それを切るぞ!」
「了解です!」
「とりあえず、俺が敵の注意を引く。グラスは【火魔法】で、モノリスの欠片を一気に潰してくれ!」
俺はそう言うと、“魔法の鞄”から砂を取り出した。その砂を【土魔法】で操作して、チェーンソーの様に振動させて、攻撃力を上げていく。キーーンという音を立てている砂ナイフを、ウラガの盾の外から遠隔操作で、モノリスへと投げつけた。
巨大モノリスは、自分の欠片を盾の様に動かして自分を守ろうとするのだが、そんな軟な盾を一瞬で貫通していく。
「イケる!」
俺は攻撃が通ると確信して、モノリスへも届くと信じていると、モノリスが驚きの行動に出た。それは、自分の欠片の中から岩でできた欠片を2枚操作して、俺の砂ナイフを横側から挟んで止めてしまったのだ。
サンドイッチの様に挟まれた俺のナイフを、【遠隔操作】でそこから出そうとしたが、ビクともしない。中で砂の形を変えようとするが、かなりの力で挟まれているので、もうどうしようも無かった。
「【火魔法】行きます!」
と、グラスは俺が作った敵の隙をつくように、ウラガの盾から【ステップ】で駆けだしていく。口には【火魔法】を貯め込んでいるようで、射程圏内に入った瞬間に口からもの凄い炎を噴き出した。
グラスも自分の攻撃に手ごたえを感じているようで、自信満々だが、次に起こった出来事に驚愕の顔を浮かべていた。
それは、自分の欠片をさらに分裂させて、薄い板を無数に形成して、モノリスとグラスの間に巨大な石の壁を何枚も形成したのだ。
しかも、壁一枚一枚の間に空間を設けているので、熱が伝わる事も無くて、グラスの業火で焼けたのは、最初の一枚だけだった。他の欠片は全く無傷で、もちろんモノリスへは攻撃が通じていない。
「どうやって攻撃すれば良いんだよ。」
鉄壁の防御を形成する巨大モノリスに対して、俺は頭を悩ませるのだった。
一応計算してこの階層なのですが、まぁそろそろボスでも良かったかなと思う今日この頃。
だって、話が進まないじゃない!飽きるじゃない!
テル君は、ボスに苦戦していますね。どうやって倒すのでしょう?私も分かりません。明日になったら、書けるでしょう。たぶん。
次回は、ボス戦の続きの話の予定。