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ウラガ。一緒に風呂に入るか?

地下33階の話。

33階へと登る階段の前で、俺達は寝ころんだまま修行をしている。


昨日31階と32階で延々と穴を掘ったおかげで、俺達は全身が筋肉痛になり、朝から動けなかったのだ。なので、午前いっぱいを使って魔法やスキルの修行を行っていた。


「グーー。」


修行中に一際盛大な腹の虫が鳴ったのは、ウラガだ。「へへへ。」と苦笑しながら腹をさすっている。


そう言えば、昨日の夜からまともな食事をとっていない。昨日の夕食で作ったはスープだけし、朝は作っていなかった。今の時刻は昼近く。そろそろ動けるようになってきた俺達は、筋肉痛で苦しいながらも料理を始める事にした。


「腹にまるやつで頼む。」


ウラガからそんな注文を受けるが、新鮮な食材はもう少なくなっている。冷蔵庫があると言っても、結構な日数ダンジョンにいるのだ。さすがに腐ってきているし、量も少ない。


「とりあえず、パンと干し肉」と野菜でサンドイッチを作った。スープは昨日の夜作った分を再び過熱して配る。この階層は他の階と違って密閉されているので、長時間火を使うのが怖かったのだが、階段付近はなぜか風が流れていたので、安心して火を使うことができた。


俺達はそれぞれ2つずつサンドイッチを頬張ほおばったった後、33階へとやってきた。


相変わらず、33階も目の前に広がるのは5m四方の四角い部屋だけだ。


俺は剣を地面に刺し、【地形把握】を使って、地下34階への階段の場所を探る。程なくして俺は階段の場所を見つけただが、その厄介な場所に顔を曇らせる結果となった。


「また上方向なのか?」


とウラガが声をかけてくる。32階の様にかなり急な階段を作ると思っているようだ。だがそれは間違いである。


「今度は下だ。しかも、真下にある。」


そう。次にある地下34階への階段は、ここから真下、5kmの距離にあるのだ。つまりこれからやるのは、下に向かっての穴掘りだ。


「しかも巨大な岩が所々にあるな。何度か横移動も必要だ。」


【地形把握】で確認すると、直径5mはあろう岩が点在しているのが分かる。今までは小さな岩だったので、遠距離から観測する事は難しかったが、今回はあまりにも巨大なので、見落とす事は無かった。


「そっか。まぁ、とりあえず掘って行くか。」


ウラガは全く気を落とす素振りも見せず、やるべき事をしようと、前向きな発言をしてくれる。俺はそれに感謝していた。そして俺達はいつも通りの方法で穴を掘り始めたが、直ぐにこれまでの階層との違いを認識する事になる。


まず一つは土が硬くて重いのだ。下方向なので、地面を切った後に、そのブロックを引き上げる作業があるのだが、今までの階層より1.5倍は重くなっている。ただでさえ筋肉通なのに、さらに腰への負担が半端ではない。下手をしたら、この年でぎっくり腰になりそうだ。


二つ目は岩の存在だ。俺達は今まで通り岩すら切って進もうとしたのだが、岩を圧縮する事が出来ないので、引き上げる事ができなかったのだ。そのために、わざわざ横へ移動してからまた掘り下って行かなければならない。


そして、3つ目が土砂の捨てる場所の問題だ。下へ下へと掘って行くので、必然的に捨てる場所がない。なので切りだした土砂は“魔法の袋”へ一端収納した後、わざわざ32階まで戻って捨てに行かなくてはならなかった。しかも、戻るためには【空間魔法】による転移が必要になるのだが、10mしか移動できないので、わざわざ足場を残す必要がある。さらに、転移には魔力を多量に使う上に、往復にも時間がかかる。


最後の4つ目は魔獣の存在だ。今まで通り蟻が湧いてくるのだが、今度の蟻は自分たちで穴を掘って移動してくるのだ。32階までは、その場を動かずに俺達が開けた穴から湧き出てきただけだったのに。そのせいで、少し厄介な事になった。


つまり、俺達は下へと進むので、必然的に頭上から蟻が降ってくることになるのだ。


「キャー。服に入った!!」


初めて蟻が降って来た時に、偶然にもグラスの首の後ろから、服の中へと蟻が入り込んでしまったのだ。


この蟻は、強靭な顎で俺達の皮膚を食い破るので、かなり危険だ。それを体験しているグラスは、即座に服を脱いで身体に入った蟻を振り払う。少女趣味の男が居たら、「なんて羨ましい蟻なのだ。」と思った事だろう。しかし俺は、14歳の女の子に欲情したりは決してしない。しないったらしない。


しかも、服を脱いだグラスは意外と発育が良いようだ。あと数年後が楽しみだ。と思った事は、誰にも秘密だ。


そんなよこしまな感想を他所へ追いやって、俺はウラガと一緒に上から降ってくる蟻の魔獣に対応した。


まず俺達は壁際へと避難して、ウラガが俺達をスッポリと覆うように、【大盾】の形状を変化させる。蟻の数は、階層が深くなるにつれて、さらに数を増やして、降ってきた蟻達は、今では膝上位まで埋め尽くされている。


銀色に輝く蟻達が降ってくる姿は、若干綺麗だと感じたが、足元でゾワゾワと蠢く姿を見ると、吐き気がするほど気持ち悪かった。


そこへ、俺とユキが【水魔法】と【氷魔法】を使って、蟻たちを氷漬けにして倒していく。氷漬けになった蟻の魔獣は、数分間はそのままだが、しばらくするとダンジョンに溶けるように、魔法結晶だけを残して消えていった。非常に不思議な光景なのだが、これが無ければ俺は蟻の死骸すら“魔法の袋”へと保管しなければならなかっただろう。そんなのは、絶対に御免だ。


一つ良い事があるとすれば、魔法結晶の回収が楽な事くらいだ。めちゃくちゃ小さい魔法結晶だが、数百個の魔法結晶が一気に手に入るのは、非常に楽だった。


蟻と土と岩に四苦八苦する事1時間。まだ1kmも掘り進めていないのだが、俺達は尋常ではない汗をかいていた。肉体労働をしているので、汗をかく事は普通なのだが、それとは別に、周りが非常に暑くなっているのだ。


地面を掘っていくと暑くなるとは、前世で聞いたこともあるが、ここは異世界で、しかも特殊なダンジョンだ。一般常識が通じるとは思えないし、そもそもこれまでの階層ですら、ここより深かったかもしれない。なのに今回に限って、とてつもなく暑い。


「あっちー。」


ウラガも相当暑かったようで、今では上半身裸である。ダンジョンの中で防具を脱ぐなど自殺行為なのだが、今のところ蟻しか出ていないので、盾さえ持っていれば事足りると判断したようだ。


グラスも顔を真っ赤にしながら、汗を垂らして掘り進めている。だがしかし、時々ウラガの方をチラチラみているのが、非常に気になる。非常に気になるが、俺は大人なので見て見ぬ振りをしてあげた。チッ!


さすがに俺も暑さに我慢ができなくなってきたので、グラスには悪いが対応をとらせてもらう。


「ユキ。涼しくしてくれるか?」

「キュキュー♪」


任せて!と言わんばかりに、その場で回転しながら鳴いたユキは、身体から白い魔法の光を出し始めた。そして俺達の周りをフヨフヨと飛び回ったかと思うと、一気に気温が下がっていく。体感的には15度くらいで、少し肌寒いと感じる温度だ。


裸だったウラガも、急に寒くなってしまったので、また服を着こんで防具をしっかりと装着した。グラスがなんだか不満そうに俺の方を見てくるのだが、俺は素知らぬ振りをしている。グラスさんは、意外とむっつりなのですね。


ユキによって下がった気温は、何もしなければ肌寒いのだが、おかげで穴掘りの肉体労働をしている間は心地よい環境になった。それからというもの、戦闘以外でユキは冷房担当として、温度を一定に保ってくれている。


俺も土砂を捨てに行くための転移に、結構な魔力を使うのだが、機会を見計らってユキへと魔力提供を続けた。前階層である31階と32階で、ユキには俺の余った魔力を渡しているので、ユキが魔力不足になる事はまず無いだろう。


職場環境も良くなった俺達は、それからも掘削作業を続けていく。大きな岩を避けて掘り進めたり、上や下から湧いてくる大量の蟻を倒したり、土砂を捨てに行ったり。俺達は、午前の遅れを取り戻そうと、必死になってダンジョンを進んでいく。


そのおかげで半日かかったが、ようやく34階へと続く、下への階段に辿り着いた。特段、問題も起こらなかったし、順調と言って良いだろう。


俺達は34階への階段付近で、今日はもう休むことにした。ずっと土に触れていたので、俺達の身体は泥だらけになっていた。いくらユキに温度を下げて貰っていたとしても、汗はかく。その大量にかいた汗で、服だけでなく下着の中までグショグショだ。


とりあえず、ウラガにお願いして【生活魔法】の“リフレッシュ”をかけてもらった。毎日魔法によって清潔にはしているのだが、時にはシャワーやお風呂に入りたくなってくる。


なので、俺は我慢ができなくなり、ウラガとグラスに頼んでお風呂を用意してもらった。


ウラガが【土魔法】でバスタブを。俺が【水魔法】で水を。そしてグラスが【火魔法】でお湯にする。階段付近は風が流れているので、酸欠の心配も無く、ガンガン燃やした。


そして、誰が一番最初に入るのか、ジャンケンで決めた。皆が最初に入りたがり、火花をバチバチと弾けるくらいの意気込みでジャンケンをする。結果、グラスが優勝。ウラガが二番。最後が俺だ。言いだしっぺなのに、最後だなんて、涙が出てきそうだ。


俺は順番が回ってくるまでの間に、夕食の用意をした。今日の夕食は、鳥の干し肉を大量に使った、鳥スペシャルだ。と言っても、バターで野菜と炒めた物と、スープに入れただけなのだが。筋肉を作るにはタンパク質!と言う事で、こんな献立になったのだ。


料理が意外と早く終わったので、お先にウラガと共に食べ始めた。だが、俺達は極度の疲労感から、食事中ですら、うつらうつらと船を漕ぎ始めてしまう。それでも、なんとか腹に入れようと、筋肉痛と疲労でふるえる手を動かす。


「なぁテル。ちょっと遅くないか?」

「グラスの事か?確かに遅いな。」


俺達はもう食事を終えかけているのに、未だにグラスが風呂から出てこない。ちなみに風呂場は土の壁で見えないようにしてあった。俺達は安全地帯に居るのだが、少し心配になってグラスへと声をかける事にした。もちろん、風呂場が見えない位置からである。


「おーい。グラスー。まだかー?」

「・・・」

「おーい。」

「・・・ゴホッゴホ!!」


何度か俺達が声をかけると、ようやく風呂場からき込む声が聞こえた。


「どうしたグラス!そっちに行っても良いか!?」

「ゴホッ!ダメです!ゴホ。なんでもありませんから。直ぐ出ます!」


グラスがそう言った通り、5分もしないうちにグラスが風呂場から出てきた。服装は、ダンジョン用ではなく、ラフな格好をしている。お風呂の効果なのだろうか、いつもより顔が赤くなっているし、足取りがフラフラだ。もしかしたら逆上のぼせたのかもしれない。


「ユキ。グラスの頭に乗ってやってくれ。」

「キュー♪」


お安いご用よ。と言っているのか分からないが、フヨフヨと飛んでいき、グラスの頭の上に座る。ユキは氷の精霊なので、その存在自体が冷たいのだ。逆上せた頭には気持ちいいだろう。


「大丈夫だったか?」

「はい。恥ずかしながら、お風呂で寝てしまいました。しかもテルさんの声で目覚めたのですが、そのままツルンとお湯の中に沈んでしまい、水を大量に飲んじゃいました。」

「あぁ。それであんなに咳き込んでたんだ。」

「お待たせしてすみません。」

「良いよ良いよ。余程、気持ち良かったんだね。」

「無事で何より!テルが飯作ってくれてるから、さっさと食って寝な。」


グラスが恥ずかしながらも、事の顛末を話したおかげで、俺達の心配も無くなった。ちなみに、冷めたお湯は、温め直したそうだ。


「ウラガ。一緒に風呂に入るか?」


グラスの話を聞いた俺は、ウラガがグラスの二の舞にならないようにと、そんな提案をしてみたのだが、ウラガからは断固拒否された。


人族の王都で、すでにお互いの裸は見ているので、そこに抵抗は無いようだが、さすがに狭い風呂に一緒に入るのはイヤらしい。なので、ウラガも一人で入ったのだが、ウラガも一向に風呂から出てこない。男同士なので俺が様子を見に行くと、結局グラス同様、風呂場で眠ってしまっていた。俺がウラガに声をかけると、驚いたように目を覚まして起きあがろうとするが、足を滑らして湯船に沈んでしまう。そして大量の水を飲んでむせていた。そしてユキに頼んで、今度はウラガの頭を冷やして貰った。


さすがお風呂。すでに二人も犠牲者を出している。俺はウラガが出た後に、グラスに再び追い炊きを頼んで、お湯を熱くしてもらった。と交代で風呂へと入ったのだが、そこはもう天国だった。俺は、第三の犠牲者にはならないと、心に決めて風呂に入ったのだが、一瞬で睡魔に抵抗出来なくなり、眠りに着いてしまった。


そして、二人同様におぼれてしまい、ユキに頭を冷やしてもらうことになった。まさか、三人とも同じになるなんて、と俺達は爆笑して、自分たちの恥ずかしい体験を笑い飛ばした。


ひとしきり笑った後は、俺達は早々に眠りに着いた。お風呂で温まったおかげで、直ぐに深い眠りへと落ちていくのであった。


地面を掘るのは大変なのです。現在でも人工的な穴で8.2km。マリアナ海溝で約11km。なので、普通だと5kmも生身の人間では掘れません。ダンジョンだから、異世界だから、可能なのでしょう。

テル君は、最後に漫才でいう天丼をしていますね。それだけお風呂の持つ

魔力は凄いのです。

次回は、地下34階以降の話の予定。

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