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33階への階段なんだが、ここから斜め上にあるみたいなんだ。

地下31階の話。と地下32階にちょっと触れます。

ウラガと交代して、俺一人で壁を掘って行く。魔力に自信のある俺だったが、30分もすれば、かなりの魔力が消えてしまった。俺は、少しだが魔力の回復したウラガに代わってもらい、“魔法の袋”に詰めた土砂を、後方へと吐き出していく。


【魔力回復2】と【魔力上昇2】をもつ俺とウラガだったが、結局、さらに1時間も掘り進めれば、あっという間に魔力が無くなってしまった。場所的には、まだ半分も来ていない。


「はぁはぁ。ちょっと違う方法で、掘らないと、ダメはぁはぁ。」

「そうだな。はぁはぁ。とりあえず、休憩させてくれ。」

「私は、周りの警戒を務めますね。」


とりあえず、俺とウラガは息を整えるために座り込んだ。空間的には狭いのだが、未だに魔獣が出てきていないので、安心して休める。


「なんで、魔獣出ないんだろうな?」

「出ない方が良いじゃないですか。」

「でも気になるだろ?今までのモグラみたいに、地中を掘って来れる奴もいるのに。」

「そんなの魔獣が出てから考えればイイだろ。」


ウラガも魔力が無くて、イライラしているようだ。普段は滅多に怒らないので、機嫌が悪いウラガは珍しい。なんだか空気が悪くなってきた。


なので、俺は直近の問題について考える。どうやって魔力を保存しながら進むかだ。いまの【土魔法】だけに依存した方法では、この先の階層では、到底通用しない。


「何か良い方法ないかなぁ?」

「やっぱり剣で切り崩すのが、いいのでは?」

「でも、剣で掘るのって難しくないか?俺の“帯電の剣”だと、直ぐに刃こぼれしちまうし。」

「そうだ!前のフロアで一杯手に入れた、土の魔法結晶を使えないか!?」

「お!いいなそれ!俺達の魔力は、魔法結晶を使うための極少量でいいもんな!」

「でも、今後も踏まえて、足りますかね?」

「・・・無理だな。でも、これを使って良い方法を考えよう。」


それから、あれこれと案を出すが現実的なものが少ない。【土魔法】で頑丈なスコップを作るとか。魔法結晶を取りに戻るとか。


俺達の魔力もそこそこ回復したので、出てきた案のなかで、最も可能性の高いものをやってみる事にした。もちろん土の魔法結晶を利用する。


「やるぞ。崩れてきたら、守ってくれよ。」

「任せろ。ドンとやれ!」


俺は前方の壁へと手を添えて、石を使って土魔法を実行する。まずは俺の腕が限界まで入る程度の穴を開けた。そして、その穴の先から面を意識しながら、土を圧縮していく。


土を圧縮する事で、穴の奥に隙間を作る事ができるのだ。圧縮すると言っても、剣の形にしか出来ないので、その隙間は歪なのだが、とりあえず実験なので良しとする。


そして、奥の壁一面にある程度の隙間ができたら、あとは“水の一振り”に魔力を込めて、岩を四角く切り取って行くだけだ。奥に空間があるので、四角く切ってもキチンとブロックとして取り出せるようになった。隙間が無ければ、ただ切れ込みを入れただけなので、取り出せはしない。


あとは、手分けしてそのブロックを後方へと捨てるだけだ。懸念していた、切った途端に崩落する事も無く、魔力もほとんど使わずに掘り進めることが出来るようになった。しかし、時間はそれまで以上にかかるようになってしまった。


ちなみに、穴を開けることなく【土魔法】で奥の土を遠隔で圧縮しようとしたが、なぜか上手くいかなかった。レベルが上がれば成功するかもしれないが、今は、穴を開けないと使えない。遠隔地での魔法の発動は、なかなか難しい。


それからは、ウラガが壁を圧縮する係。俺が四角く切りぬく係になった。面を圧縮するので、どうしても俺よりウラガの方が適任なのだ。俺は剣の形にしか圧縮できないからだ。チッ。


「あ。300m先に、何か居ます。」

「やっと魔獣のお出ましか。」


俺も【周辺把握】を使って確認すると、グラスが指し示す先は、ちょうど31階の半分の位置だった。だが、なんだか雰囲気がおかしい。まるで無数の虫がうごめいているかのようだ。


「うーん?なんか小さい?」

「テルさんもそう思いますか?なんか今までの敵より、感知が気持ち悪いんです。」

「とりあえず確認するしかないよ。」


と言う事で、俺達はせっせと壁を切り崩していく。そして15分後、ようやく問題の場所まで辿り着いた。


俺達は今まで通り、腕を通す用の穴を開けて様子を見る事にした。ちなみに今回は俺が穴を開けて、ウラガは盾役に回ってもらっている。なにか出てきても防いでもらうためだ。


「行くぞ。」

「おう。」

「はい。」


二人の返事を確認してから、俺は壁に手をついて、ゆっくりと穴を開けていく。そしてその穴が魔獣のいるであろう場所まで到達すると、その穴を通って大量のありが這い出てきた。


体長は3cmから5cm程。色は銀色。蟻にしては大きいし、色も変なのだが、明らかに蟻である。


「また蟻か?」

「にしては、弱そう。」


ずっと前に出てきた蟻は、強力な酸を吹きかけてくるかなり巨大な魔獣だった。なのに今回は、前世でも探せばいそうな程普通だ。グラスの感想も、弱そうという楽勝ムードだ。


だが問題は、その数だった。穴から出るは出るは、百匹以上は確実に出てきた。おかげで狭い道の足元は、すぐに蟻で覆われてしまう。


「とりあえず、潰すか。」


ということで、俺は“水の一振り”に魔力を込めず、普通の威力で突き刺した。


カキン!


俺達は予想外の音を耳にした。おれは俺達の予想に反して、“水の一振り”が蟻に刺さらずに、逆に剣の先が砕けて水とり、地面に染み込んでいったのだ。


「硬いなぁ。」


だがそれでも俺達は余裕であった。たかだか5cmもない蟻に、俺達がどうこうなるとは、思えなかったからだ。なので俺は“水の一振り”に魔力を流して、攻撃力を上げてもう一度蟻へと突き刺そうと振り上げた。だがその瞬間に、事件は起こった。


「きゃぁ!痛い!」


突然グラスが声を上げて、右足を浮かしていた。俺達は振り向いてグラスの事をよく観察すると、グラスの脹脛ふくらはぎの部分が、蟻に食いちぎられていたのだ。他にも、グラスの装備である“爪乙女”の脚装備である鉄製の部分も、蟻によって食い千切られ始めている。


「こいつら凄い顎の力だ!振り払え!」

「振り払えって!もう無理だぞ!」


珍しくウラガが弱音を吐くが、それもそのはずで、もう足元は蟻で埋め尽くされている。その蟻も、足を伝って身体へと登ろうとしているのだ。


「クソ!離れろ!」


俺達は懸命に振り払おうとするが、いたちごっこのように、直ぐに足から登ろうとする。俺は“水の一振り”に最大魔力を注いで、蟻を切り刻んでいくが、一向に減らない。


【回転切り】などの広範囲剣技もあるのだが、如何せん蟻が小さすぎるので、意味が全くない。そこで俺は、使いたく無かった手段に移る決意をする。


「ウラガ!“帯電の剣”の準備!俺が水を撒く!グラス!痺れるけど我慢だ!」

「手加減しないぞ!」

「分かりました!」


切り裂いた蟻を見てみると、身体の大部分は魔法結晶で、それを土でおおい、さらに薄い銀色でコーティングされていたのだ。銀色なので、おそらく表面は金属でできているのだろうと考えた俺は、電気を通しやすとウラガの“帯電の剣”を使わせる。


俺はユキと協力して、辺り一面が薄い水溜まりになる程の水を【水魔法】で作りだした。そこへウラガが“帯電の剣”を遠慮なく突き刺す。


「イッ!!」


“帯電の剣”から流れてきた電気によって、身体が悲鳴を上げる。声にならない声を上げて、歯を食いしばりながら数秒耐えた。足元の蟻たちへの効果もあるようで、水の上でビリビリと振るえている。


そしてウラガが剣を地面から抜くと、電気も流れなくなる。俺達はビリビリと身体が痺れているのを耐えながら、足元の蟻達へと攻撃を繰り出していく。本当はこれで倒せれば良かったのだが、蟻達はピクピクと身体を痙攣させているだけで、死んではいなかった。しかしおかげで、襲われる事は無い。


だが蟻たちの痺れも時間と共に回復して、また俺達の足へとへばりついて来た。俺達は短時間だが攻撃に専念していたにもかかわらず。蟻の数はまだ半分にも減っていない。


「くそ!テル!もう一度するか?」

「それより、私が焼きつくしましょうか!?」

「グラスは絶対ダメだ!ここは空間が狭いし、何より密閉空間!火なんて使ったら、一瞬で俺達も死ぬ!」

「う。」

「ウラガもちょっと待ってくれ。次は俺達がやる。」


グラスは、自分の考えが足りなかった事を反省している。ウラガは俺へと順番を回すかのように、大きくうなずいて同意してくれた。


「ユキ!凍らせるぞ!」

「キュー!!」


俺はユキに魔力を渡してから、再び周りに水を撒いた。先ほどの水はとっくに地面へと染み込んで消えている。そして薄っすらと水が張った地面に対して、ユキがその表面を滑る様に飛んでいく。


ユキの身体は、真っ白に輝いており流れるように移動する姿は、綺麗だとさえ感じた。そして、ユキが通った後には地面水が凍って、蟻たちは動かなくなっている。


ユキの実力なら、一面を一瞬で凍らせることも容易いのだが、そんな事をすれば俺達の足まで凍ってしまう。蟻を倒す程の冷気なので、俺達も巻き込まれれば、最悪足が凍って砕けるか、良くても凍傷だろう。そんな危ない事は出来ない。


なので、俺は心の中でユキへと指示を出して、態々(わざわざ)あんな面倒な凍らせ方をしてもらったのだ。


そして俺達は、自分の足に付着していた蟻だけを退治すれば良くなった。ウラガもグラスも落ち着きを取り戻したようで、適宜蟻を駆除していく。


「ふぅ。なんとか上手く行ったな。」

「あぁ。俺の“帯電”が効かないなんてな。」

「見かけは金属でも、中身は土だからなぁ。仕方がないさ。」


よくゲームなんかでも、土は雷に強いと相場が決まっているのだ。表面だけ金属の蟻には効果が薄かったようだ。


「グラス。ちょっと傷口見せてみな。」

「お願いします。ウラガさん。」


そう言って、ウラガはグラスの脹脛ふくらはぎへと手をかざした。ウラガの手が、白くて淡い光の粒子をまとうと、みるみるうちに、グラスの傷口を塞いで行き、食いちぎられた肉を再生していった。光魔法の回復力はかなりの様だ。


「やっぱり、肉の再生は魔力がいるな。あんまり多いと、対処出来ないぞ。」


そう言いながら、ウラガはグラスの治療跡を確認していた。傷口を塞ぐくらいなら魔力はそんなに必要ないが、えぐれた部分を再生するのは、しんどいらしい。


【魔力上昇2】をもつウラガが、あまり回数はできないと言うのだから、相当量の魔力を消費しているのだろう。


グラスはウラガに御礼を述べた後、調子を確認するように、足をトントンさせている。


俺は俺で、今回の功労者であるユキをでている。「有難う。」「さすがユキだな。」「頼りになる。」等々、ユキを褒めてやると、ユキも満更ではないようで、「キュー♪」と鳴きながら、俺の胸をグリグリと押してくる。カワイイやつだ。


ちなみに蟻から出てきた魔法結晶は、サイズは小で、品質も普通だった。出来るだけ回収するが、回収するだけで時間がかかり、途中で飽きてしまった。


そして俺達は、再び31階を掘り進めていく。その後も、何度か大量の蟻に遭遇したが、俺達は秘策で乗り切った。


それは穴を開けて、蟻が出てくる瞬間に俺達は壁際によって、ウラガの【大盾】を地面に突き刺して、足元を完全に守る。そして【大盾】の上から水をいて、後はユキが広範囲を凍られるのだ。


この方法を思いついてからは、俺たちは怪我をする事も無く、大量の蟻を一気に退治する事ができるようになった。だが水の少ない土のダンジョンにおいて、水を生成する俺の【水魔法】と、広範囲を強く凍らせるユキの【氷魔法】は魔力の消費が激しい。


まだ蟻の出てくる頻度が少ないので、魔力が枯渇する事は無いが、あまり連戦はしたくない。もしもの時は、水を撒く役目をウラガか、スライムのシズクに代わってもらおうか。土の魔法結晶がある限り、二人の魔力は防御にしか使わないのだから、余ってるよね?


ちなみに俺が水を撒いているが、一度は剣の形を形成して、それの魔力を解く事で水を撒いている。非常に面倒臭い。


「また階段は、上へ登るのか。」


そして俺達は約1時間30分かけて、残りの1.5kmを踏破した。時間にして3時間以上、穴を掘り続けた俺達は、すでに疲労困憊になっていた。特に腕や背中。足腰が辛い。そして、既にお馴染みとなった階段が上へと延びる事に関しては、もう疑問にも思わなくなった。


疲れた俺達は、早めの昼食をとりながら、長めの休憩で体力の回復を図って行くのだった。


それからなんやかんやで、2時間近く休んだ俺達は、体力だけでなく魔力もすっかり回復していた。そして俺達は32階へと階段を駆け上がって行く。


32階もやはり、目の前にあるのは5m四方の何もない空間だった。あるのは、土の壁だけ。


俺は【地形把握】を使って、階段がどこにあるのかを探るが、なんだか面倒な事に気が付いた。俺が眉間にしわを寄せていると、ウラガが「どうした?」と尋ねてくる。


「33階への階段なんだが、ここから斜め上にあるみたいなんだ。」


俺は【地形把握】で調べた結果を二人に伝えると、最初は二人とも?マークを浮かべていたが、理解した途端、めちゃくちゃ嫌そうな顔へと変わった。


横ならまだしも、斜め上となると労力はさらに高くなる。休憩したとは言っても、午前中に穴掘りの辛さを経験した俺達にとっては、苦行のなにものでもなかったのだ。



再び蟻です。もう純粋な土に関わる魔獣が思いつかない・・・。

なので、違う種類の蟻さんの登場です。

巨大ゴーレム。分裂中サイズのモノリスと蝙蝠、小型の蟻。

サイズは違えど、面倒くささはそれぞれですね。

テル君も、最初から良い敵の倒しかたを思いつく訳ではないようです。

あのビリビリは、敵を倒す実験としては失敗ですね。

次回は、地下32階の話の予定。

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