ウラガのお祝いだからな。奮発したよ。
地下30階の話です。
「二人とも。もうそろそろ行けるか?」
「あぁ。ちょっとびっくりしただけだから。」
「私ももう大丈夫ですよ。」
先ほどの激動の罠ラッシュのせいで、俺達は一時的にだが放心状態に陥っていた。それまでの罠は、グラスが【危険予知】で教えてくれるし、あったとしても、1個や二個なのだ。それなのに、今になってあれだけ連携してくるなんて。しかも威力がどれも高いし、最後の道が収束するのは、本当に驚いた。なんせ、魔獣でも逃げ出すのだから。
そんな罠ラッシュから、なんとか別の道へと飛び込んで、脱出した俺達は、少しだけ休んでいたのだ。そして、二人も落ちついたようなので、次へと進もうというわけだ。
ウラガに、道を塞いでいた土をどけてもらう。幸い、他の道から魔獣が移動してはいなかった。まぁ、事前に【周辺把握】を使って安全は確認していたんだけどね。
「ところで、あとどのくらいだ?」
「うーん。あと2kmってとこかな。順調に道を渡れば、5回くらいで31階への階段に着けるよ。」
「意外と早かったですね。」
「そうだな。」
毎度のことながら、スキルの恩恵によってこれだけ早く移動出来ているのだ。広範囲感型のスキルが無ければ、26階ですら一日が刈りだろう。
そんなのんきな話をしながら俺達は、次のエリアに繋がる道を待ちながら、移動してきた魔獣を倒している。
「ん!次の道で移動だ。」
「「りょーかい」」
「直ぐに魔獣がいるから注意な。」
そう軽く言いながら、ウラガとグラスが俺の肩へと手を置く。俺は土ナイフを飛ばして、すぐに【空間魔法】で転移出来るように身構えている。
そして、お目当ての道が繋がり始めたと思った瞬間に、繋がった道の先から岩砲弾が飛んできたのだ。俺は俺で、土ナイフを飛ばして、転移を開始し始めている。
「危ない!」
咄嗟にウラガが俺達をかばうようにして前に出る。そして、防具越しだとせても、ウラガは蝙蝠の放った岩砲弾をもろに食らって、吹き飛ばされた。つまり俺と身体が触れていない。
「ウラガ!!」
俺は直ぐにでも転移を中断しようとするが、もう手遅れであった。俺達はウラガを残して、グラスと二人で、蝙蝠のいる先の道へと転移が完了してしまった。
急いで振り返るが、もう道は分かたれておりウラガと離れ離れになってしまった。
「クソ!グラス。とにかく今は蝙蝠を倒すぞ!」
「ぁ、はい!」
グラスもウラガと離れた事で動揺しているが、とにかく今は魔獣へと意識を向けさせる。
盾役がいなくなったので、俺達は怪我を覚悟で突撃をかけた。“水の一振り”に魔力を込めて攻撃力を上げているし、【ステップ3】と【スラッシュ2】のおかげで、容易く魔獣を刈る事ができる。グラスも【火魔法】を付与しているおかげで、攻撃力が上がったようで、何度か蹴りや殴打を繰り返して魔獣を仕留めた。だが、【土魔法】による硬質化が無いせいで、いつもより攻撃回数は増えているし、反動が大きいようで、グラスは苦悶の表情を浮かべている。
結果的には、蝙蝠達を5分もかからず退治できた。零れた魔法結晶はグラスに回収を頼んで、俺は【スキル】でウラガを探していく。幸い、【周辺把握】でウラガと思しき感覚を得られた。しばらく観察しているがウラガは動く気配を見せなかった。
万が一はぐれた時様には、俺が行くから待っているように伝えてあったが、ウラガはそれを覚えていたようだ。
「グラス。移動するぞ。」
「ウラガさんを迎えにですよね!行きましょう!」
俺達は一つ前のエリアの道の一つへと移動した。道がランダムで動くエリアは決まっているのだが、エリアとエリアをつなぐ回数より、エリア内同士の方が格段に、繋がる回数が多いのだ。
俺達は、蝙蝠のいる道を選んで移動した。ウラガがいないのに、モノリス達と対決するのは、絶対に避けたかった。グラスの【火魔法】があるとはいえ、それも絶対ではない。分裂されれば、こちらが無傷では済まないからだ。
それから俺達は20分近く、ウラガのいる道と接触するのにかかってしまった。こういう時、ランダム性なのが、ひどく嫌になる。
なまじ【周辺把握】で道が繋がる状況を確認できるせいで、「あの道に居れば!」「さっき俺達と繋がった道じゃないか!」とか、ウラガと出会えないのが苛立たしかった。
そしてやっと見つけたウラガは、大量のモノリスと蝙蝠に襲われていた。壁を背にして、必死に【大盾】を使って耐えている。
「グラス!火魔法!」
「(コクコク)」
「ウラガ!シズク!水魔法!」
俺が指示する前に、グラスは火を吹く準備に入っていた。おそらく大丈夫であろうが、念のために、ウラガには【大盾】に【水属性】を付与させる。ついでにシズク二よって、さらに盾の内側に水の壁を張ってもらう。
あんまり出番はないが、スライムのシズクも【水神の加護】を持った、エリートスライム神獣なのだ。水魔魔法なら得意分野なのだ。
ウラガとシズクの準備が完了したのを見計らって、グラスが火炎を吹き出した。今までで最高の威力の火炎がウラガ目掛けて、いや、ウラガに群がる魔獣目掛けて放たれる。
ゴオオという音と共に、魔獣達は一瞬で火炎に焼かれて絶命する。周りの気温が一気に上昇して、周りの酸素も一気に無くなってしまった。
俺はそれを見越していたので、呼吸を止めておいた。そして、酸欠になったウラガとグラスの二人触れて、転移魔法を繰り返して別の道へと避難した。
「プハア。ウラガ!グラスを頼む。ユキ!やるぞ!」
「キュー!」
避難した先には、運悪くモノリスがいた。なので俺はユキと協力して、【水魔法】と【氷魔法】によって、一瞬でモノリス達を氷漬けにした。周りの壁までも白く凍っている。俺達のレベルも上がっているので、魔法の威力が向上しているようだ。
俺が敵を倒しているい間に深呼吸して、新鮮な空気を肺に入れたウラガとグラスは、なんとか立ち上がっていた。
「ウラガ!なんともないか!?」
「おう!ずっと盾張ってたからな!俺よりテルとグラスの方が、怪我してるじゃねえか。」
「ウラガさーーん!」
グラスはウラガと再会できたのが嬉しくて、抱きついている。ウラガもウラガで、よしよしと、グラスの頭を撫でている。そして、さりげなく【光魔法】でグラスを治療していく。
そして俺とは、拳を合わせて無事を祝った。その後、俺も【光魔法】で治療してもらった。
「二人とも、そろそろ移動して、さっさと30階をクリアしよう。」
「だな!30階に入ってから、危険がめちゃくちゃ増えたし、もう痛くないぜ。」
「そうですね。おいしいご飯も待ってますし!」
グラスは、ウラガが3つもスキルレベルが上がった事への、御馳走を覚えていたらしい。食への関心が高い、獣人らしいセリフだ。
それから俺達は、30階を進んでいく。先ほどの様な事が起こらないように、転移する前はウラガが盾で守ってくれている。罠の連続発生も無かったし、易々(やすやす)と31階への階段に到達できた。
十字路で敵に囲まれたり、罠の連続発生にあったり、ウラガと離れ離れになったりと、盛りだくさん30階だった。おかげで半日もかかってしまい、もうすぐ日が暮れようと言う時間になっている。
「とりあえず今日は休もうか。それとも31階、見に行くか?」
「いや。31階を見て、モヤモヤしながら寝たくないから、やめとこうぜ。」
「私は見ても良いかなぁ。時間もあるので、話のタネになりそうです。」
二人の意見が事なったので、俺の意見によって多数決が決まりそうだ。俺はウラガの意見に賛成した。折角のお祝いなので、手の込んだ料理を出したいし、俺もあれこれ考えながら眠りたくない。
ということで、今日のダンジョン攻略は終了となった。俺はさっそく、ウラガのお祝いメニューを作り始めた。
料理の内容は、鳥の丸焼き。ポテトサラダ。コンソメスープ。デザートにはプリンだ。
どれもこれも、準備に手間がかかるやつばかり。卵もそろそろ使い切りたかったし、ウラガが好きな肉料理は、インパクト重視で攻めた。コンソメスープは、旅の途中で煮詰めた濃縮スープを使っているので、今は手間がかからない。ポテトサラダは、作るのが面倒なマヨネーズを大量に使うのだが、マヨネーズ自体は事前に準備していたものなので、今はジャガイモとかを茹でるだけで済む。
「うおぉ!!なんじゃこれ!超うまい!!」
「鳥はハーブが効いてて良い香りですし、レモンソースなので、幾らでも食べれますね!ポテトサラダも、マヨネーズとジャガイモの相性の良さで、食べるのが止まりません。」
「ウラガのお祝いだからな。奮発したよ。」
ウラガもグラスも、それはもう大喜びしてくれた。鳥のインパクトもあり、目でも舌でも楽しんでくれたようだ。コツコツと準備しておいた甲斐があるというものだ。
グラスからは、王都で店を出すべきだと言われた。もう何回目か分からないが、よっぽど俺の料理が気に入ったらしい。まぁ、俺の料理と言っても、前世の住人が何百年もの時間の中で、作り上げたモノだ。だけど、俺の前世全体が褒められたような気がして、結構嬉しかったのもまた事実。
それから俺達はレベルアップしたウラガのスキルについて、色々と質問をした。使い勝手や、威力や効力の感想だ。なかなかの高感触の様で、ウラガも喜んでいた。
そして俺達は、翌日の事を考えて、いつも通りの時間で眠りにつくのだった。
フラグをきちんと回収しました。
やっぱり盾役と言うのは、戦闘する上で欠かせませんよね。ウラガのありがたみを感じられれば、幸いです。
テル君は、元々ガンガン行こうぜ的な性格なので、ウラガがいなくなると、特攻し易いようです。やめときなよ。
次回は31階以降の話の予定。