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武士の子  作者: 鏑木恵梨
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四、御家再興

 我々兄弟の長屋に駕篭が到着した。駕篭の主は江戸家老と名乗る、いかめしいじじいだった。じじいは口をもごもご動かしていたが、おそらくこんな事を言ったのだと思う。

「父の仇討、よくぞ果たした。九泉の父母も喜んでおろう」

「はい」

 我々兄弟、口をそろえて拝謝した。これも我ら兄弟で相談して決めたことばだ。

「第一は『仇討御免状』を下された殿のおかげである」

「第二は、我々兄弟に剣術を指南し、学問を授けてくれた師のおかげである」

「我々を励まし江戸に送り出してくれた藩の方々、江戸にて我々にご教授下さった下屋敷の方々のおかげである」

 世にも神妙な心がけである、後日殿より御沙汰があろうから、楽しみにしているように。家老のじじいは相変わらずもごもごと言って、帰っていった。


 後日。

 我々は殿の側にいた。小姓役にあがることになった。元服親は江戸家老である。

 御家再興は、言葉どおり果たされたのだった。

 殿は我々兄弟にこう言った。

「実は、母上があの者を気に入っているのでみだりに処分を下すことも出来ず困っていた。そこへそなたたち兄弟の話を耳にし、これなら公然と彼の者を追い出せる名目が出来たと喜んだのだ。本当に始末までしてくれるとは思わなかったが」

「父の仇を討つことが出来たのは、殿のおかげでございます。生涯、このことを忘れず忠義をつくします」

 殿はそうか、と顔色を晴れやかにしていた。

 我々兄弟は殿のおぼえめでたく、将来も期待された。江戸家老も国家老も一目置く存在となった。


 一年もすると、殿の帰藩がゆるされ、我々も殿に従って国に戻った。

 国元の家は新たに殿から賜った。現在の扶持に加え、今後我々兄弟が就くであろうお役目を考えると、かつてわれわれ一家が住んでいた家でも小さすぎるからだ。

 だが父母の遺品はまだ、あの貧乏長屋にある。仕方なく長屋に足を向けた。

 世話焼きばばあはまだ生きながらえていて、またしても我々兄弟に世話を焼いてきた。我々は小者をつれて来ていたのだが、その小者さえも指図をしていたくらいだ。小者をくるくるまわすと同時に、そのしわしわの口をひっきりなしに動かして見せた。

 ばばあの話によると、例のおてんば娘はどこから拾ってきたものか、子をはらんだそうだ。娘はだれの子かは頑としていわなかった。そして、言わぬままに、産褥熱で母子とも死んでしまった。

 我々は互いに首をかしげた。

「おれたちの子かな」

「どちらの子だろう」

「知るもんか」

 どちらにせよ、あのおてんば娘はいないのだ。

 我々は安心して、新しい屋敷に戻っていった。

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