厄日②
7年ぶりの更新!
如月町には曰く付きの建物が幾つかある。
夜な夜な薄気味悪い鳴き声が聞こえる、この廃ビルもその一つだ。
元々とある凄惨な事件が起き事故物件として買い手が付かなかったこの廃ビルに最近無断で住み始めた者がいる。
名は笠島 飛鳥、連続猟奇殺人犯である。
最近は殺人をしていないが一ヶ月で二十人を殺した事があり、彼女はその事を誇りに思っている。
生粋の殺人鬼だ。
三月第一月曜日早朝、飛鳥は最近の日課を行い廃ビルへ帰宅した。
飛鳥の最近の日課はとある異性に対する観察の事である。
観察対象は華道 俊哉、先々週に起こった事件により俊哉は猟奇殺人鬼の思い人になっていた。
俊哉自身は彼女と関わりがある事すら知らない。
この猟奇殺人鬼は片思いを煩っている為、最近は殺人をしていないのだった。
「………あぁ、愛おしい」
ついつい出てしまう言葉を飛鳥は止めようとしない。
力任せに引き千切られたネズミの頭部を彼女は愛おしそうに撫でながら思い人の事を考える。
引き千切られたて時間が過ぎていないのかネズミの頭部からは撫でられる度に血が滴り落ちていて、猟奇的な絵面だ。
「あの方に私の愛は届いているでしょうか?」
彼女は最近の悩みを吐露する。
そもそも、飛鳥の愛情表現は常軌を逸している。
ペアルックと同じ要領で彼女はネズミの胴体を俊哉に送りつけているのだ。
彼女の価値観では生物とは顔が命であり、胴体は顔を支える為にあるものだと考えている。
つまり、俊哉に送られている恋文(ネズミの胴体)の内容は『私を支えて』『私に仕えて』となる。
常人である俊哉は恋文の内容には気付いていない。
飛鳥は一方通行な片思いをしている。
早朝の日課の後、朝食を済ませた彼女に一本の電話が入る。
液晶には非通知と表示されているが、彼女は迷い無く電話を取った。
「はい、飛鳥です」
「私だ、用件は分かっているだろう、計画遂行を最大目標にしろ」
一言だけ告げて電話は切れた。
飛鳥は少しだけ後悔している、金払いはいい顧客なのだがコミュニケーションを取る気が全く無いのだ。
この廃ビルを紹介したのも顧客ではなく、仕事仲間からの勧めで住んでいる。
雇用形態など本当に形だけだ。
顧客が言う『計画』の内容もかなり雑な物で、三月中に華道 美香を殺せ、この指令だけだ。
彼女はこの仕事を半ば放棄している。
顧客に対する不満が大きいから………ではない。
殺害対象に問題があったのだ。
先々週に華道 美香の殺人を行った際に判明した対象の異常性。
華道 美香は常軌を逸した回復力を持っていた。
引きちぎった部位が瞬時に回復したのだ。
笠島 飛鳥は華道 美香を殺せない。