第一章 一日千秋(7)その2
私がぽかんとしている間に、図は完成したみたいです。その図は、画面の左端から始まっているようでした。一本の線のようなものが最初に引かれていて、その線が分岐するようにらせん状にいくつも伸びていました。
「私は、あまり絵が得意なほうではないので、こんな図ですいません。でも、これで簡単に理解してもらえると思います」
グミちゃんは、まだ熱をもった緑茶をすこしだけすすりました。ほんの少し、苦そうな顔をした後、また話を続けます。
「この図を応用する前に、少し世界のありかたについてお話します。この時代では、恐らくまだ世界線のことははっきりと分かっていませんよね。私たちの世界の時代でははっきりと確立されている、宇宙の法則があるんです。アミちゃんは、“並行宇宙”というものを御存じでしょうか?」
そんなもの、知るはずないじゃないですか!!
「その顔では、どうやら知らないみたいですね。この時代では、興味のあるマニアしか知りませんもんね。並行宇宙、というものは、簡単に言うと世界…いいえ、宇宙自体がいくつも存在する、という考え方です」
は?え?つまり、どういうことなんでしょうか?!
「例えを挙げましょう。先ほど私が使っていたボールペン。これを」
グミちゃんはそう言うと、そのボールペンを天井へ向け軽く投げ、そしてキャッチしました。
「少し乱暴な例えかもしれませんが、今私たちがいる世界、それは私がボールペンを投げた世界。ボールペンを投げなかった世界には、今の私たちはいません。こうして、たった今世界は分かれたわけです」
は、はあ。どうにか理解するしかないのでしょうか…。なんとなく言っていることは分かるのですが、どうもこう、腑に落ちないような、そんな感じです。
「このように、どんどんと世界は分かれたり、あるときは集約したりします。そして、たくさんの世界が無数に枝分かれしていくのです。」
グミちゃんは、再びお茶を飲みました。
「あの、すみません、この説明で世界線については理解してもらえたでしょうか…?」
「あ、うん、大体なんとか、ね」
彼女は彼女なりに、私のことを気遣ってくれます。…まだ会って一日そこらですが、多分見た目によらず優しい子なんでしょう。きっと親の育て方がよかったんでしょうね。
「では、本題に入りたいと思います。かなり長くなりますよ、多分。時間、大丈夫でしょうか?」
そう言われて、私は時計を見ます。もうすぐ10時半です。…うん、古典の予習は別にしなくていいです、どうせ授業中うたた寝しちゃいますし。
「うん、大丈夫。続けて」
私はそう返しました。正直、ここまでの話を聞いたら、全て聞かなければ、…―――いいえ、聞いてあげなければいけないような気がするのです。それに、今夜私が続きを気になって気になって眠れなくなります。