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第二章 狂瀾怒濤(6)その3

「何を話しているのかね?」

そんな時、誰かが私たちのいる部屋に訪れました。声のした方向を見ると、品の良さそうな少し白髪の混じったパッと見60歳ぐらいの男性が立っていました。

「あ、リーダー!戻られたんですね」

竹田川さんがリーダーと呼んだその人物は、私たちの方を見ると、軽く会釈をしてこう言いました。

「初めまして、かな。岸森君に守田君。別世界の存在は知ってはいて、実感もしていたもののいざ別世界の君たちを、しかも若い姿で見ると少々混乱するものだな」

リーダーさんが、少し微笑みます。そして続けます。

「私は、(くに)() (つよ)()。このregiusをまとめあげている。みなにはリーダーと呼ばれているよ」

「あ、えっと、俺は守田拓海って言います!よ、よろしくです!」

拓海は、リーダーだと聞いて、急いで立ち上がって挨拶しました。

「私は岸森亜美子って言います。同じく、よ、よろしくお願いします」

わたしも急いで立ち上がって挨拶します。リーダーさんはそんな私たちを制するように手を広げます。

「ははは、そんなにかしこまらなくっていいんだよ。組織の長だといっても、そんなに大層なものではないからね。私はあくまで、統率しているだけだよ。この組織は、みなの活動あってのものだからね」

「そんなことないです、リーダー!私たちは、本当にあなたたちに助けられているんですよ!」

そう竹田川さんは言います。

「相変わらず君は大げさだなあ。まあ、なんというか、気さくに接してくれ」

リーダーさんは握手をするように手を差し伸べてきます。まず拓海と握手をして、そして私と握手しました。

「特に、岸森君。君には、たくさんの協力と力添えを仰ぐことになるだろう」

そういって、リーダーさんは握手した手をもどして、私たちの方に向き直ります。

「ムーブから話は聞いたかね?」

「あ、えっと。はい、大体は」

多分私に聞かれているのだろうと思い、いままで拓海任せにしていた返答を私は頑張ることにします。

「そうか。なら、大体のことは把握しているね?」

「はい」

「…我々の組織は、君無しではやっていけないんだ」

「…そうなん、ですか」

…ん?なんか、なにか、私、大事なことに気づき忘れている、ような…?ほんの、初歩的な、すぐに気づかなきゃならないことをド忘れしている、ような…?なんでしょう、分からなきゃいけないのに、ぼんやりした頭では合点がいきません。ゆっくり考える間もなく、リーダーさんの話は続きます。

「そうなんだ。だから、さっそくだが、多分明日か明後日あたりから我々と一緒に活動してもらうことになるだろう」

「活動、って…?」

いよいよ本題ですか。

「ああ、活動っていっても、まずは日常生活に自然に君たちを溶け込ませることから始めるよ。朝の集団朝礼だったら、点呼はされないからきっと二人ぐらい紛れ込んでもばれないだろう。そこで、この世界の雰囲気をつかんでくれればいい。私たちが工場や農園に働きに行く前に、どさくさにまぎれてこの基地に戻る安全なルートを教えることにしよう」

「…は、はあ」

なんだか、本格的にすごいことになってきている実感が湧いてきましたね。平和ボケした頭ではついていけなさそうになりそうです。

「服は、我々と同じものを準備させてもらったよ。と言っても、新品じゃないのは勘弁しておくれ。配給じゃないと服はもらえないんだ。サイズが入らなくて着れなくなったのや、着古して着なくなったのがないか組織の数人に当たってみて、なんとか君たち一人ずつ、洗い替えも含めて二着ずつ用意することができたよ」

…グミちゃんが、服がぽんってでてきたのに驚いてたのはこういうことだったんですか。ここでは、新しい服ですらぜいたく品なんですね…。

「多分、そろそろ服を持ってあいつがやってくるはずだが…」

そうリーダーさんが言った瞬間、ドアがノックされました。

「失礼します」

そう言って入ってきた男は、どこか既視感のある男性でした。40歳の半ばぐらいでしょうか、ほんのりとダンディーな雰囲気の男性で、なんというか素敵な大人だなあと思いました。

「おふたりの服を持ってまいりました」

心地のよい声でそのダンディーな男性は言うと、リーダーさんに服を渡します。

「ああ、丁度いいところに。紹介しよう、彼は―――」

「守田拓海といいます。以後お見知りおきを」

…え?この人が、まさか別世界の、しかも歳が+αされた拓海ですか?!

「どええええい?!」

びっくりしたのは、拓海も同じのようです。

「ああ、この青年が別世界の君だよ、守田君」

リーダーさんは、守田さんに拓海を紹介します。

「…初めまして。別世界の私」

「………は、はじめまして。っていうか、俺の癖に雰囲気固くない……?」

「…私はずっとこうですが」

「…信じらんねー…」

「…私も信じられません」

「ですよねー」

「はい」

「…なんというか、ちょっと、俺あんたとサシで話してみたくなったぜ」

「…私もです」

二人は、そういうとじいっと見つめ合っていました。まるで、お互いの存在を不思議がり、そして理解し合おうとするように。

「おーおー、なんだか意気投合しているみたいじゃないか。やはり、世界が変われど同一人物だからかね?よいことだ、よいことだ」

リーダーさんはそういうと笑いながら、机に先ほど受け取った服を机に乗せました。

「こっちが、守田君の分。こっちが岸森君の分だよ」

そこで、さっきまで拓海とにらめっこしてた守田さんが、岸森というワードに反応して私の方を見ました。

「………亜美子か」

守田さんはそう言うと、私の方へやってきました。

「へ?私?」

「……見れば見るほど、似ている。亜美子の若いころ、そのままだ」

そう言いながら、守田さんは私の頭を撫でてきました。

「…へ、へ?!」

「…もう一度、会いたかった。ありがとう」

リーダーさんを除くみんなが割と呆然としていると、そこで拓海が割り込んで来ました。え、というか、もう一度?ん?私は、またさっきと同じ違和感を覚えました。な、なにか、とても大事なことに、絶対気づき忘れてます!えー、と

「ちょ、いきなり亜美子になにすんだよ!」

「…なにって、撫でていただけじゃないか」

「…それが問題なんだよ…!」

なんか拓海が小声で言ったような気がしますが、ぐるぐる考え込んでいたのでよく聞こえませんでしたね。

「まあまあ、なんだかみんな楽しそうじゃないか、いいことだ」

「よかったです、すぐに打ち解けてくれて」

リーダーさんと竹田川さんは、そういいながらニコニコしていました。打ち解けて…るん、ですかね?多分。


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