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第一章 一日千秋(7)その3

「この図を見て下さい」

グミちゃんにそう言われ、さっきグミちゃんが描いていた図を見ます。その、右はじの一本線の所をグミちゃんは指さしています。

「この一本線のところを、さっき私がボールペンを投げる前に私たちがいた世界、だとします」

はいはい。

「そして、螺旋状に分かれている世界の、今と変わらない一直線上にある世界。それが、今いる世界、です。そして、ボールペンを投げなかったかもしれない世界は、その下、だとします」

えーっと、はいはい。

「この二つの世界は比較的近い世界にあるので、あまり状況はかわりません。限りなく近い、そんな世界です」

は、はい。

「私が来た世界、それは、かなり遠い、遠い、世界です」

そ、そうなんですか?

「この簡単な図では説明しきれない程、遠い、世界です」

そ、そうなんですか。

「ここまで、理解できてますよね?」

「う、うん」

「では、私がいた世界の状況について、はなしますね」

そこで、グミちゃんは少し深呼吸をしました。

「私がいた世界、それは、この世界のこの国ように平和ではありませんでした」

「この世界の歴史、historyを、書物貯蔵庫…Libraryというもので、拝見させて頂きました。それで、私の元々いた世界と、この世界はどこで枝分かれしたのか調べてみました。すると、驚くことに、1950年代近辺から、少しづつ歴史が違ってくるのです」

「最初は、小さな変化でした。しかし、歴史は繋がっていきます。少しの違いから、やがて大きな分岐へと発展していきました。この世界と私のいた世界は、限りなく近くて限りなく遠いのです。」

「第二次世界大戦敗北国、だという事実は同じだったようで、最初は比較的近い歴史だと思い安心していたのですが、もうすぐ来る(きたる)歴史に、なんて遠い世界に来てしまっているのか、と驚きました」

「この国の隣の大国が、私のいた国では西側陣営だったのに、この世界では東側陣営に入っていたことです。そのせいか、私の生まれた国は、あまり豊かではありませんでした」

「私の世界では、1990年代までは、資本主義こそ人類発展の道であり、社会主義などは根絶すべき悪しき主義、などと大批判をうけていました。それもそうです、二つの大国が資本主義をリードしていたら、世界の人はそれが一番よいものだと、何も疑問を感じずにそれを受け入れてしまいます。特に、その大国のうち一つは、とても力を持った国でした。この世界でも、割とそのようです。…私のいた世界の力には及びませんがね。しかし、私は、私のいた国の資本主義は、本来の資本主義から離れていたように感じるのです」

…。えーっと、日本史得意でよかったですね!なんとか、話についていけていますよ、私!!

「なんだか、一つの考えを全世界民におしつけているようで、私からみるとそれは帝国主義のように感じられたのです」

あーなるほどですね。

「そして、2000年、大事件が起きました。そう、2000年問題が発生してしまったのです。この世界ではなんとか大問題にならずに済んでいるみたいですが、私のいた世界では、世界中が大混乱におとしいれられました。飛行機は誤作動し、電気系統は指示を受け付けなくなり、通信手段も断たれ、あの国がうちに攻撃しただのなんだの、相互の誤解、食い違い、そんなのが重なって、第三次世界戦争が勃発しました」

「それは、大規模な世界核戦争でした」

「私のおかあ…いいえ、母親から聞いた話ですが、彼女は幼い頃、核シェルターに何カ月も大勢の人と共同生活を送りながら籠り、すごく大変な目にあい、核から逃れたそうです」

「もちろん、核シェルターに入りきれずに、漏れた人たちもいたそうです。母は、小さい頃の記憶ながらも、その状況を鮮明に思い出せるようでした。感染症を持った人も、外に追い出されたようです」

「そんな体験をしながらも、彼女は強く、明るく、前向きに生きていました。そして、みんなに元気を与えていて…―――とても、とても………尊敬できる、そんな人、です」

やっぱり…グミちゃんのお母さん、とってもすごくいい人なんですね…この時代のこの世界にも、いるのでしょうか?一度、会ってみたい人ですね。

「そして私がいた世界。そこの2036年時点の状況を説明致します。核戦争は、2015年時点でやっと完全に終息して、各地域、生き残りのわずかな人々で小さなコミューンを作って生活し始めました。その頃は、私はまだ生まれていないので、途中まではすべて大人の方から聞いた話です」

「母がいたこの国では、社会主義体制をベースとした小規模な政府が作られ、核に汚染されていないこの国の真ん中あたりの地域を中心に、人々は暮らし始めました。最初こそ、政府の方針は、みんなで安定した生活を送るため、一致団結して頑張ろう、というものだったみたいです。初期の政府は、情報を完全にオープンにして、一般市民と共に歩んでくれていました。しかし、そこで、政府の一番偉い人…大統領が何者かによって暗殺されたようなのです」

「一般市民には、大統領は病死した、と伝えられたそうです。しかし、私たちの組織は、独自の調査により、政府の秘密文書を手に入れることができたのです」

ん?ちょっと待って、私たちの組織?秘密文書?

「ね、ねえ。グミちゃん、ちょっとここで質問いいかな?」

「え、…は、はい、どうぞ」

グミちゃんは、話をいきなり遮られて少し動揺しているみたいです。そんなに動揺することでしょうか?

「ねえ、組織ってなに?グミちゃんは、なにか組織に入ってるの?それに、秘密文書ってなんのことなの?」

「…そのことをお話しないと、先に進めないようですね。私は、反政府組織、レジスタントのようなものに所属しています。私がこの組織に入ることになった経緯と、その理由。そして、先ほどの話の続きをいたします」

グミちゃんは、少し話疲れてきたのか、軽く目をこすってます。もうこんな時間です、きっと眠さもあるのでしょう。何秒か短い間、彼女は眼をつぶり、そしてそっと開けて、私をまっすぐ見て話を再開しました。

「まず、私がその組織に入ることになった経緯から。この組織のことは、“Regius”と呼んでいます。レジアス、です。取り戻す、という意味のラテン語らしいです。経緯、と言っても、そこまで大げさなものではありません。世間に疑問を感じた、というのもありますが、ただ母がそこに所属していたから、母の信念に従いついていった、という理由が一番大きいです」

そうなん…ですか。

「母がなぜその“Regius”に所属していたかは、聞いたことがありません。そして、もう聞くことができません」

え…まさか。

「もしかして…グミちゃんのお母さん…」

「そうです。亡くなり、ました。つい、先日の出来事です。先日といっても、遠い未来の、遠い世界の、話しですが」

私は、言葉がでてきませんでした。グミちゃんは、うつむいてしまって、表情は見えませんが、微かに震えてます。こんなまだ中学生ぐらいの子が、母を亡くしたばかりだなんて、傷ついていないわけがありません。ましてや、理由はなんであれ、どうしてこの世界にそんな状態で来なければならなかったのでしょうか?まさか、彼女が所属している、というレジアス、という組織が関わっているのでしょうか?…―――もしそうなら、なぜ彼女に、わざわざこんな状態の彼女に、こんなことをさせているのでしょうか…?理由次第では、私はなんだか黙っているわけにはいかない気がします。

「グミちゃん…。秘密文書の事も気になるけど、それは後ででいい。そんなことより、さ」

私は尋ねます。

「…なんで、この世界に来たの?」

グミちゃんが、ゆっくりと顔をあげました。私と目が合います。しばらく、私をじっと見つめた後、彼女は口を開きました。

「…あなたの、手助けが、私たちに、必要なのです」

「私たち、って…その、レジアスっていう組織のこと?」

「そう、です。あなたの、その力が―――」

「ちょっと待って」

あのですね?どんなとんでもない理由かと覚悟していたら、なんですか?力?私に?

いえいえ、心当たりがありません。一ミリ一ミクロンとありません。

「あのね?私に、そーんな特別な力、無いと思うんだけど…?人違いとかじゃなくて?」

「はい。岸森亜美子さん。あなたは、貴女自身も気づいていない、とんでもない能力を秘めています」

えっと、一体どういうことなんですか…。

「訳が分からない、という顔をしていますね。無理もないでしょう。それは、特別な条件が付随しないと発動しませんから」

え、そうなの?

「えーっと…その、特別な条件、って…?」

「…私の、能力です」

「?!」

なんだか、全く話の流れが予想できなくなって参りましたね。ここからは、もう何が来ても驚きませんよ…!そう決心しながら、私はすっかり冷めてしまった緑茶の湯呑を手に取ります。

「えっと…で、グミちゃんの能力、って?」

「はい。時間移動です」

思わず、口に含んだ緑茶を吹きそうになりました。幸い、むせるだけで被害は収まりました。私は、激しくむせた後、むせ終わるのを待っていたかのように、グミちゃんは話を再開します。

「…まあ、私の能力は、後天的なものです。簡単に説明すると、私は五分の一ぐらいサイボーグなんです」

…へ?サイボーグって、あれでしょ、映画とかにでてくる…?

「混乱するのも、無理ありません。私は、動くタイムマシン試作品一号なんです。組織が作り上げました」

「えっと…えっと………。…そ、そうなんだ」

さ、さすが未来ですね、話のスケールが違いました。

「そして、あなたの能力。それは、どの世界線にたどり着くかを指定できる能力です」

「…はあ」

「その能力は、先天的なものです。…私の、母も、同じ能力を持っていました。そして、貴女も母と同じ能力を、持ってる。えっと、だから、あなたを探しにここまで来ました」

「ええっと…」

ここでちょっと私なりに整理するとですね。

グミちゃんのいる世界線とやらで、グミちゃんの母親が亡くなったんですね。で、その母親は、特殊な能力を持っている。そして、私もその母親と同じ能力をなぜか持っている。で、そのことが未来的なハイテクパワーできっと分かったんでしょうね。で、グミちゃんの能力で、過去まで遡って、ついでに世界線まで変えちゃって、ここまで来たんですね。ご苦労な事です。うん、ざっと解釈しちゃうとこうなるんですかね?なんだか、大切な事を忘れている気がするんですけどね!まあ、そのうち思いだすでしょう。そのとき、またグミちゃんに質問すればいいんです。

「…整理はつきましたか」

「う、うん。なんとかね」

「そしたら、アミちゃん。未来に、来てもらえますか?」

「…やっぱり、そんな風な話になっちゃう?」

「ええ、そうなってしまいますね。ちなみに、きちんと帰って来れると思いますのでご心配なく」

いつになくグミちゃんが強気に見えますね。これは、絶対ついていかないといけない感じの眼差しです。うーん。なんだか、私的にですよ、これは、もしかしたら下手したら私は今私のいる世界に帰ってこれないようなきがするんですよ。

私が色々考えていることを察したのか、グミちゃんは静かにこう付けたします。

「それに…―――あなたがいないと、私は元の世界線に帰れません」

「あの…それって、脅しなのかな…?」

「はい」

えええー…。これは、私がついていかないと悪い感じじゃないですか!

…怒っていても仕方ありません。こんなにむりやり連れて行かれそうになっているんです、向こうの世界線とやらの事情をちょっと突っ込んで聞いてみましょうか。

「あのさ、向こうの日本はどんな感じなの?治安とか、雰囲気とかさ」

「…この世界線に比べたら、かなり悪いです。夜間は厳重に鍵をかけた室内にいなければ命は保証されません。保安警察が見張っているからです。保安、なんてのは名前だけですからね。雰囲気は、と言われると、明らかにこの世界のように平和ボケなんてしていません。多分、まずこの世界のあなたが体験したことのない世界でしょうね」

えっとー…ますます行くのを躊躇してしまうような答えですね…。って、保安警察って?!

「あのさ、グミちゃん、保安警察って…?」

「政府の犬です」

うわあ、そんな言葉ほんとに使う人いたんですか!しかも即答ですか!

「彼らは、治安なんて考えていません。すべて、政府に言われた通りに動き、人を統制し、時には殺しているだけです。私たちの世界に、本当の警察なんて、いません」

今更なんですけど。どうやら、これは作り話の類ではないようですね。ただの作り話だったら、なんでも自分でどうにかできる設定で作っちゃう傾向にありますから。特に、グミちゃんぐらいの年の子はそういう妄想をしがちです。…私にも、覚えがあるんです…。世間的に言う、黒歴史というやつでしょうか。まあ、さておき、グミちゃんの話は、正直最初のほうはその類の妄想なのかと少し疑っていました。しかし、妄想だったら、どうしても自分を活躍させたがる傾向にあるんです、こういう時期の妄想って。それに、グミちゃんのどこか…うーん、なんというんでしょうか、こう、浮世離れっていうのとも違うんですけど、普通の中学生っぽくない雰囲気といいましょうか…そんな言葉にし難いオーラが、この話の信憑性を高めているんです。

ええい、ここまで来たら、私も女です。

「グミちゃん!!」

「ひゃいっ?!」

グミちゃんは、いきなり大声を出した私にびっくりしたみたいです。…かわいい!

「あの!私!覚悟を決めました!!」

「…へ?」

少し、呼吸を整えます。

「私ね、グミちゃんの世界線に行って、役に立ちたい!こんな私でも、役に立てるんだよね?折角能力があるなら使わなきゃもったいないよね!」

「…ほ、本当に、いいんですか…?…多分、すごくつらい場所だと思いますよ。それに、まだあなたに、私たちの組織の目的を、はっきり話せてません…」

あ、確かにそうですね。秘密文書の話から、その組織…“Regius”について、あまり詳しく聞いていませんね。

「えっと、その、じゃあ聞くけど、そのレジアスって組織の目的って…?」

「…―――はい。今の政府を破滅させ、新しい、民主的な国家を築き治すことです」


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