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序章 愛別離苦


―――――私は、移動する。何度でも、何度でも。


たとえ、この足が動かなくなっても。たとえ、この心臓が破けたとしても。


綺麗なままの貴女を見つけるまで。


でも、貴女はなんで、いつもいないの?私にとてもおいしいご飯を作ってくれたあなた。

なんで、いないの?なんで、私の側にいてくれないの?なんで、なんで。


私は、跳躍する。もっと別の場所へ、遠くへ、近くへ。


たとへ、帰れなくてもいい。命が尽きてもいい。貴女がいないと、私は帰ることができないのだから。


今にも折れてしまいそうな足を踏ん張り、立ち上がり、何回目が分からない跳躍を実行する。もう、これがさいごのそれかもしれない。


でも、私は行く。


あなたに、もういちど、なまえでよんでもらうために。


―――――――――――――――


「はあ、眠いなあ」

そしておなかが減ったなーと、私はぼんやり思いました。今日は、なんだかカレーが食べたい気分です。事実、私が毎日夕食を作るので、私が自由にきめちゃっていいんですけどね!

「たまねぎとーにんじんとー豚肉と~♪」

なんだか、カレーを作る日って、こう、無性にうきうきしませんか?みなさんのことは知りませんけど、少なくとも私はうきうきしちゃいます。これで、一緒に食べてくれる人がいたら、それはとっても幸せなんですけど。

「ママ、次いつ帰ってくるんだろ…カレー、食べきるのに何日かかるんだろ」

カレーって、ついつい大鍋に作りますよね。そっちが絶対美味しいんです。独り言が多いと思われるかも知れませんが、私は学校以外基本一人でいることが多いので、必要不可欠的な要素として独り言が増えちゃうんですよね。そして、私は今、割と真面目な判断を勝手に自分の中で迫られています。

「うーん、豚肉と牛肉、どっちがいいかな~?」

やっぱり、カレーは牛肉で作ったが美味しいんですよ。でもでも、豚肉のカレーだって、にんにくを入れたり、季節の野菜をいれちゃったりすることで、とっても美味しくなります。

「う~ん…どっちもいれちゃおっと」

そんな、まさに日本人らしい結論で、私は私の中で迫られていた決断に終止符を打ちました。

「今日は木曜の特売デーだあ!お肉!お肉!」

学校帰りで、自転車を手で引いているのにもかかわらず、思わずスキップをしてしまいます。もちろんへんなスキップになりましたけどね!


「んふふ、安かったから思わず買いだめしちゃった」

ほくほくな気分で私は帰路へつきます。お魚がとても安かったです。明日もカレーだとしても、明後日はサバの塩焼きの予定になりました。

「んふふのふ~!…て、あれ…、なに?」

私の数歩前に、黒いものが置いてありました。もう季節は冬の初めなので、辺りが薄暗く、よく見えなかったのですが、私は無性にそれが気になり。重い荷物を乗せた自転車をカラカラと手で押しながら、少しずつそれに近づきました。

「…ヒッ?!ひ、と、人なの、これ…?!」

近くで見ると、それは明らかに人でした。うつ伏せで、顔は分かりませんが、ボロボロになったジャンバースカートを着た、少女のようでした。中に来ているカッターシャツは、この肌寒い、セーターがいるような季節なのに、薄手の長袖一枚でした。

「ちょっと、ちょっと!あなた、大丈夫?!私、第一発見者はいやだよ!!」

自転車を自立させ、私は少女へ必死で呼びかけました。少女は起きません。私が、割と真面目に警察を呼ぼうとスマートフォンをとりだした、その瞬間―――

「お………。おなかすいた!!!!!」

いきなり少女が起き上ったのです。さながら私とおでことおでこでごっつんこ☆です。

「いった!!痛いじゃない、あなただれよ!!」

さっきの倒れっぷりが嘘のように、少女はまくしたてます。私は、ちょっとムッときて、反論します。

「あ、あなた、さっき倒れてなかった?!わ、私は岸森 亜美子きしもとあみこ!!高2よ!あなたこそ、なんでこんな場所で倒れてるの?おうちはどこ?」

やっぱり警察を呼ぼうか、と私は思いました。スマートフォン(以下スマホ)のパスコードを解除して、電話のアプリを開こうとした、その時でした。

「え…?あなた、ほんとに…ほんとに……。まさか。…」

そう言ったきり、えぐえぐと謎の少女は泣きだしてしまいました。私の中で、少女に謎認定がついた瞬間でした。

「よかった…ほんとに、よかった…」

ポカンとする私をよそに、少女は泣き続けます。

「だ、大丈夫?えっと、どうしよ…」

私が慌てていると、少女は、ふいにまた倒れてしまいました。

「え、っちょ?大丈夫?!………寝てるだけのようね」

どうやら、疲れていたのか、眠ってしまったようです。って、どうしましょう、この子。年は、多分私の少し下ぐらいだと思うんだけど…。

「…なんだか、警察にいっちゃいけない気がするんだよなあ…」

私の中の謎の第六感が、そう告げていました。この子は、迷子扱いで警察に引き渡してはいけない気がしたんです。それに、私の名前を聞いて泣きだしたことにもすこし好奇心…いいえ、理由を知りたいんです。

「仕方ない、…連れて帰りましょう」

よっせ、と私はその子をおぶるり、予想以上の軽さにびっくりしながら、自転車をカラカラと押し、家へ急ぐのでした。

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