僕のお気に入り3
僕は、全身の力を抜いて脱力したかのようにリクライニングソファに埋もれた。しばらく、そうしてるうちに、この席の一番のお気に入りポイントであるオブジェが目に飛び込んできた。それは、壁一面を埋め尽くすほどの大きさの水槽で、ブクブクと泡が立ち昇り、紫、赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青と七色の光が順番に変わっていくもので、ずっと見ていても全く飽きることが無いのである。非常に幻想的で、嫌なことなどすっかり忘れてしまうのである。他の席からも見えるのだが、この席からが一番見やすい。今日もいつもと変わらず、飽きることなくぼーっと眺めていた。
2時間近くたった頃、いつもの喫茶店を出て、同じビルの地下1階にある『JAZZ BAR 33』へと移動した。ここは、JAZZの生演奏が楽しめる店で、置くの方にあるステージ上にはグランドピアノとドラムセットが置いてある。店名にある33とは、席数が33ということだと聞いたことがあり、店内は黒と青を基調とした落ち着いた感じに仕上がっていて、猫カフェより少し広めに見える。3日に2回は来るほどこの店も気に入っている。ここで一杯引っかけてから家に戻るのがいつものパターンだ。何処に腰かけようかと辺りを見回すと、ここでも僕がいつも座る二人掛けの席が空いていたので、そこに落ち着く。二人掛けといっても、いつも一人でチビチビと飲んでいる。たまに、一緒に飲まないかと声を掛けられたりもするが、気が乗らないので、全部お断りしている。中には相当しつこい人も居て、座っている僕をBARの奥側にあるソファー席(一晩限りの出逢いを求める人の席らしい)まで引き摺っていき、無理矢理ディープキスされたこともある。その時は、店員のリュウさんが間に入ってくれてそれ以上のことはなかったが、そんなこともあってか、誰からの誘いも受ける気がしないのである。
「ここ、座ってもいいかな?」
うわっ!誰か来た。僕は、声を掛けられたことに驚き、俯いたまま身を竦ませた。他にも空いてる所たくさんあるのに、ここに座ろうなどと、いきなり慣れ慣れしい奴だなあ。とりあえず、お断りしないといけない。
「1人で飲みたいので・・・・・・」
相変わらず下を向いたまま、そっけなく答える。
「俺は、君と飲みたいんだけどな。」
「僕は、1人がいいのです。」
「今日さ、俺の誕生日だから、一緒に祝ってくれないかな?」
今日は、ツイテナイ日なのか?コイツの誕生日なんて僕には関係ないのに。
「ね、俺の顔を見てから、1人で飲むか、2人で飲むか、考えてよ。」
コイツ、そんなに自慢の顔なのか?しかたないな、拝んでやるか。僕は、大きなため息をひとつして、ゆっくりと顔を上げた。
「は・・・・・・」
僕は、『あ』の口をしたまま、その人の顔を見て固まってしまった。