僕のお気に入り2
食べ終わって一息つくと、コーヒーをおぼんに載せた店員がこちらへどうぞと案内してくれる。途中、レジに立ち寄り、食事代と食後のコーヒー代を支払った。店員は、レジの横に置いてあるおぼんに載せたコーヒーを片手で持ち、まどろみカフェに案内してくれた。
まどろみカフェとは、入場する前に1ドリンクの代金を前払いで払う。僕は、いつもブルーマウンテンブレンドを頼む。このドリンク1杯で2時間まで居ることができ、追加の注文は、猫カフェ店内にいる店員のところにいってオーダーする。食べ物は音が出るのでまどろみカフェ内では食べることが出来ない。静かにぼーっとして時を過ごしたい人の為のスペースなので、私語厳禁だ。本をめくる音や、携帯ゲーム機やノートパソコンのボタン音がたまにするくらいの店内は、ゆったりとしたテンポのJAZZが控えめな音で流れている。JAZZといえば、このビルの地下にはJAZZ BARがあるのだが、それは後々紹介することにしよう。
雰囲気が僕にあっていたのはもちろん、僕はここに来ると幸せな気分になる。というのは、今、僕がオーダーしたコーヒーのおぼんを持っている店員さんのことが、ちょっと気になっている。猫カフェに来て一番先に出会う店員さんは必ず女の子だが、食事したあとにまどろみカフェに案内してくれるのは、決まってこの男の店員さんなのだ。彼は、背が180センチ以上あり、細身で足がやたらと長く、速水〇〇みち似のいわゆるイケメンに属する整った顔立ちで、名前は、春川さんというらしい。というのも、胸に付けているネームプレートを見ただけなので、彼の下の名前は知らない。何だかわからないが、カフェに来て彼の姿を見ることができるだけで幸せなのである。
今日は、一番のお気に入りの席が開いていたようで、そこに案内してくれた。リクライニングチェアに座ると、テーブルの上にコーヒーが置かれる。ああ、もう少しで春川さんが向こうに行ってしまう。僕は眉をしかめたことに気がつき、慌ててポーカーフェイスに戻す。ほんのちょっとの憂鬱に襲われることが、何故か最近多くなった。
「ではごゆっくりしていってくださいね。」
春川さんは、白く輝く歯を見せて微笑んだ。
「ありがとう。」
僕は、寂しさを悟られないよう、今出来る精一杯の力を使って、にこやかに見えるような顔で返事をした。春川さんは、一礼をして立ち去った。