鳥?猫?鳥だなw
この話の主人公である高校生「山下豊」は、今日もただただ普通の一日をおくるはずだった。
普通の一日とは、朝起きて、高校に行って、帰ってきて勉強をする、全くもって普通にしたくない一日だ。
豊は、特に夢見る少年でもなく、希望も何もない。
現実的過ぎる男と言えるだろう。
まっ、それがこの少年の運命を大きく変える事になるわけだが、それは読み進めていってもらえればそのうち分かる事なので、此処ではこれ以上それにはふれない。
ごく普通の高校2年生、山下豊は、今日もいつもと同じように、学校へと向かっていた。
体調も景色も、いつもと何も変わらない。
違う事と言えば、昨日よりも少し気温が高くなっている事くらいか。
衣替えの季節はまだ先だけれど、今日は少し暑く感じているようだ。
「ちょっと暑い・・・」
豊はシャツの胸の辺りをつかんで、前後にあおいだ。
女性ではないので、こんなしぐさをされたところで、全く何も感じない。
私がこんなしぐさを一々説明する必要もないと思うが、最初だから描写にも少しだけ力を入れているだけだ。
豊は肩からかけていた鞄を一旦手にもつと、制服のジャケットを脱いだ。
これも女性ではないから、思うところは何もない。
鞄を再び肩にかけ直すと、その鞄を覆うように、ジャケットを鞄にかける。
少し風が吹いた。
「気持ちいい~」
今まで暑かったから、少し涼しい空気の流れは気持ちが良いみたいだ。
豊は笑顔で、再び学校への道を歩きだした。
通学には、家から駅まで約5分、そして電車で20分、降りてから学校までが15分の合計40分だ。
往復だと一日1時間20分で、豊にとってはこの時間が、一日の中で、唯一気を抜く事ができる時間だった。
それ以外は、朝から晩まで勉強勉強、気を抜けない。
なんて悲しい青春時代なのかと思わなくもないが、豊自身がそうしようとしているわけだから、私にはなんとも言えない。
豊は一応の目標があった。
夢と言うには現実的過ぎるし、希望と言うには些細すぎる、小さな目標。
とりあえず大学に行って、それなりの企業に就職する。
そして、貧乏でもそれなりに笑顔のある家庭を築いて、80歳くらいで老衰死する事。
その、なんとも微妙な目標の為に生きている豊にとっては、登下校の時間だけが、生きている感じのする時間だった。
学校は結構田舎にある。
だから景色を楽しむのも、豊の楽しみであった。
昨日今日では、特に変わりはないけれど、自然は少しの変化も豊に喜びを与えていた。
昨日は太陽が少し雲で隠されていたけれど、今日は雲が見あたらない。
とか、風も、昨日よりは緑の香りがする、気がする。
とか、その分甘い香りは押さえられているかな。
とか、そんな事を考えながら風を追いかけて空を見上げると、空は昨日よりも高く感じられた。
その高く感じた空を見上げていたら、目の前に、何か黒い物体を捕らえた。
「え?空に黒い物体?そんなわけないか。」
豊は少し驚いていたが、空に黒い物体が浮いているわけもなく、あっても鳥か飛行機か、別に大したものではないと思ったようだ。
だがどういうわけか、豊はなんとなくその黒い物体を見続けていた。
黒い物体は、だんだんと大きくなり、その形が豊の目にもわかるくらいまでになってきた。
「猫?」
豊から見たその物体は、猫のようだ。
しかし猫だとは言えない。
なんせ空を飛んでいるのだから。
背中には、羽のようなものが見える。
明らかに猫ではない。
「鳥だな。鳥。僕の知らない鳥だ。」
流石に頭の固い豊だ。
どう見ても猫に羽が生えているとしか思えない生き物を、鳥だと思いこんだ。
でもなんだろうか、一応写真を撮って、後で調べようとでも思ったのか
「携帯!この世に不思議な物はない。調べりゃわかるって話。」
胸の内ポケットに入れていた携帯電話を探しているようだ。
しかし胸に内ポケットがない。
それはそうだ。
さきほど内ポケットのあるジャケットは脱いでいたのだから。
豊は慌てて、鞄にかけてあるジャケットの内ポケットを探す。
慌てているとなかなかうまく見つからない。
よくあるよね、こんな事。
豊は尚も慌てていたが、ようやく内ポケットを見つけた。
手をつっこんで、携帯を取り出す。
素早く折り畳まれている携帯を開くと、空飛ぶ猫のような鳥へとカメラレンズを向けた。
「あれ?」
空を見上げた時、既にそこには空飛ぶ猫のような鳥は、姿を消していた。
「あーあ・・・でもま、鳥以外にあり得ないし、いっか。」
こんな時の為に、携帯にカメラ機能がついているのに、シャッターチャンスを逃してしまっては意味がないなんて思ったが、もう既にどうでもよくなっていた。
なんとなく見た携帯のデータエリアには、テスト撮影した自室の写真が2枚あるだけだった。
豊は携帯をたたむと、手に持ったまま、再び学校への道を歩き始めた。
「ニャー!」
ふいに後ろから、猫の鳴き声のようなものが聞こえた。
「え?マジで?さっきのはやっぱり猫だったの?」なんて事は一切思わない。
普通に、猫かな?と思って、豊は歩みを止めて振り返った。
そこにいたのは、さきほどの猫のような鳥にそっくりではあるけれど、羽の無い普通の三毛猫だった。
「羽、ねぇよな。当然だな。」
「にゃー」
しばらく豊はその猫を見ていた。
人を怖がっている様子がないから、もしかしたら飼い猫なのか、それとも野良だけど人にかわいがられているのか、豊はそんな事を考えていた。
あまりにカワイイ顔をした猫だったので、豊は手にあった携帯で、無意識のうちに写真に撮っていた。
すると驚いたのか、猫はシャッターの音がすると同時に、近くの草むらに逃げ込んだ。
「あっ!・・・って、やべぇ!」
豊は少し脅かしてしまった事を悪く思ったが、そろそろ遅刻しそうな時間である事に気がつき、すぐに猫の事は忘れて、慌てて携帯をズボンのポケットに突っ込んで、学校へむけて走り出した。
豊は結局、学校には遅刻してしまった。
といっても、朝のホームルーム中に教室に入ったので、勉強には影響が無かった。
担任の先生に、少し嫌みを言われたくらいで済んだ。
朝のホームルームが終わり、1時間目の授業までの間、いつもなら予習する時間にあてるのだけれど、豊はポケットに突っ込んだ携帯の写真が、少し気になった。
何故かさっきの猫の事が、頭からはなれなかったからだ。
豊は携帯を取り出して開いてみた。
「えっ!?」
豊は、携帯のディスプレイを見て、驚いた。
それと同時に、ディスプレイから目が離せなかった。
豊の様子に関心を向けるクラスメイトもいたけれど、このクラスには、豊と仲が良い友達はいなかったので、特に話しかける人はいなかった。
クラス替えをして間もない事が、豊には幸いした。
なんせ、何故驚いたかを聞かれたら、携帯のディスプレイに映るものを見られたら、豊には困る事態が起こっていたから。
先ほど猫を撮ったはずの写真。
そこにあったのは、カワイイ女の子の姿だった。
それも裸で・・・
何が起こったか一瞬理解できない。
人は考える時、右上だか左上を見ると言われているが、豊の視線の先は当然携帯のディスプレイだ。
邪念を払い、必死に考える豊。
友達がネットで見つけた画像を送ってきていて、それを誤って開いてしまったのかとか、携帯がウイルスに侵されたのかとか、色々考えた。
しかし、携帯の表示は、明らかに先ほど撮った写真であって、そのおかしな出来事を、豊は事実として昇華できずにいた。
豊は、とにかく常識人である。
幽霊や超常現象、UMAやUFOなど、全く信じていない。
この世で説明のつかないものは、全て否定する人間だ。
だが事実として、そこにおかしな写真がある。
豊は、その裸の女の子が可愛かった事もあり、授業が始まるまで、その写真を見続ける事しかできなかった。




