ウイルス?猫!ww
豊は結局、音子との出会いから、音子から色々説明された事までを、椎名に話した。
そして決め手とばかりに、意気揚々と携帯に撮影された、音子の裸の写真も見せた。
田舎道にポツンと座る姿は、無理やり撮ったわけでもなく、椎名が見ても不自然な写真だった。
そう、本当に猫のようだった。
ただ、その写真は削除するべきだと椎名は豊に要求したが、豊はこれは削除してはいけない気がして、結局消さずに残した。
豊と椎名は、その日はそこで別れて、後日、音子を含めて会う事を約束した。
豊が家に帰ると、待ってましたとばかりに、音子が豊に抱きついた。
豊は、もしかして何か情報が見つかったのかと思ったが、聞いても音子は、話をはぐらかすばかりだった。
「どうしたの音子。何か見つかったの?」
「ん~なんの事なのさ。豊が帰ってくるのが遅くて、私は寂しかったのさ。」
豊は、音子にそんな事を言われて、少し嬉しい気持ちにもなったが、様子がおかしいので素直には喜べない。
豊は音子の言動をよく観察してみた。
すると、どうも音子がこの世界に来た理由、人探しに関する話しになると、話をそらす。
そして豊を、ある特定方向には行かせないようにしているようだった。
豊に考えられる事は、一つであった。
「もしかして、パソコン壊しちゃったとか?」
豊がそう言うと、音子は明らかに動揺した。
「ドッキーン!なんの事なのさ。今日はパソコン触ってないのさ。」
自分で自分の動揺を「ドッキーン!」とか言って表現する人はなかなか貴重だ。
動揺を装う為に冗談でやる人は多いが、素でやっても意味がない。
要するに、音子はパソコンを壊してしまったって事だ。
「なにー!」
豊は冷静に音子の事を分析していたが、パソコンが壊れた事を確信すると、それはもう困ったとしか言いようがなかった。
今やパソコン無しで生活するなんて、豊には考えられない。
勉強の調べ物も、全てパソコンでやっている。
インターネットが普及して、インターネットに依存して、インターネットに命をかける、豊は今時の若者そのものだった。
いや、命をかけるってのは言いすぎでした。
そこまでではありません。
でも、パソコンが壊れては、人探しが困難になる事は確実だった。
「あ、悪かったのだ。壊すつもりはなかったのだ。」
豊がパソコンに触ると、音子は隠蔽を諦めて、素直に謝った。
豊は、別に音子を責めるつもりはなかった。
もともと、バカな音子にパソコンで探すように指示したのは、自分なのである。
それに、何もしないで部屋で待つのは、きっと寂しいだろうと豊は考えていたので、音子に対して少しの罪悪感もあった。
「想定内」そう思って、豊はパソコンを立ち上げてみた。
パソコンは、問題なく立ちあがった。
「なんだ、壊れてないじゃん。」
豊がそう言った瞬間、画面に猫の画像が無数に表示され始めた。
「猫の写真を見つけたから、他にもあるかなって思って、猫の写真を探していただけなのさ。そしたら突然こんな事になったのさ。」
この症状は、明らかにウイルスである。
どうやら猫の画像を探しているうちに、ヤバイサイトにアクセスしてしまったのだろう。
そんなに悪質なウイルスではなさそうだが、駆除しない限り、まともにパソコンを使う事はできない。
豊は、ウイルス対策ソフトを、インストールしていなかった。
理由は、特に変なサイトを見る事もないし、今まで長くパソコンを使っているが、ウイルスに侵された事が無かったから。
音子に使わせる前に、対策ソフトを入れておけば良かったと思ったが、今更である。
それに、音子が猫の画像を見ていたってところに、豊は心が、なんとも言えない気持ちになっていた。
人間だって、男なら可愛い女の子の写真を見て嬉しいし、女もきっと格好良い男の写真を見て喜んでいるのだろう。
猫だって、同じなんだと思うと、豊は嬉しくて暖かい気持ちになった。
しかし、このままパソコンを使えないままにしておくわけにはいかない。
人探しには欠かせないアイテムだ。
かといって、修理に出すにしても、先立つものがない。
なんせ今月は、女性用の服や下着やらを沢山買ったから。
流石に親にお金を要求するのも嫌だし、豊は明日、とりあえず三杯に相談してみる事に決めた。
その後豊は、今日の事を音子に話した。
昨日会った、探していた男性と一緒にいた椎名に、音子の事を話した事を。
そしてその男性が、椎名の兄である事を。
豊は、音子の事はなるべく隠しておかなければならないと思っていた。
未来からタイムトラベルしてきたとか、世界線を超えて来たとか、そんな話は普通ではないし、隠しておくのは当たり前の事だ。
いや、少なくとも豊の中では、隠しておくのが当たり前の事。
それをしなかった事が、豊にとっては音子に対しての罪悪感となっていたが、音子はそんな事全く気にしていなかった。
「話しちゃってごめんね。」
「謝る意味がわからないのさ。音子は猫だし、世界線を飛んできた事は事実なのさ。」
音子の言葉に豊はハッとした。
自分がどうしてあやまったのか、一瞬理解できなかった。
豊は考えた。
もちろん、こんな話が広まれば、音子の身の安全が損なわれる可能性がある。
だから自分は話さなかったのだろうか。
ただの思いこみ、概念、固定観念に自分がとらわれている事を、豊はなんとなく自覚した。
豊は、音子との出会いで、何かが変わり始めていた。




