第1話
叫んでも、どんなに叫んでもどうにもならない。数分で悟ったよ。
俺は気を取り直して状況を確認することにした。
手の大きさ、地面までの高さから身長を推測する。
「うん、大人。もしくは成長期終わってるな」
声の感じから訂正。
「おっさんだな。…多分、変化なし」
子供や赤ん坊からのスタートじゃなくてほっとした。ところで…身の回りチェック続行。
「服はTシャツにジーンズ。これも見おぼえあるな」
と思ったところで、俺がいつどんな風に死んだのか。どうしてこうなった…つまりこの世界に来たのか…そこんところが分からないことに気が付いた。
「なんでだ?」
首を傾げ、必死に記憶を手繰り寄せようとするが…思い出せない。
「だぁーっ!」
大声で喚いたところで状況に変化なし。
「仕方ない、頭切り替えろ。次」
足元は…と視線を落として気が付いた。
「あれ? スニーカーじゃないぞ」
いつも通りならスニーカーのはずなのに、なぜか革の短ブーツになっていた。
「……誰の靴か分からんが、多分、これが…今の俺の靴だろう」
はいているブーツを脱いで返せと言われたら困る。ってか、現状ここには誰もいないんだけど。
「で、所持品は……ナシ、と…」
ジーンズのポケットの中を探ってみたがこれまた見事に空っぽだった。
「…どーすんだよ、これ」
詰んだ。終わった。
スマホもないし財布もない。思わず頭を抱えてしゃがみこんだ。
「どーすんだよ。…これから……」
途方に暮れたところで思い出した。神界みたいなところでガチャしたことを。
「あれっ? どこへ行ったんだ?」
手にしていたはずのガチャカプセルはどこにもなかった。落とした覚えもなければ手放した覚えもない。のに消えている。立ち上がってその周辺に落ちていないか確かめてみたけど…落ちてなかった。
「と、いうことは…ステータスオープンっ」
お決まりの呪文…じゃなく、定番のアレを叫んでみた。
「うそ…だろ…」
半分笑いながらのまさかな、という思いがあっさりと叩き潰される。
「ライトノベルズを書いた人…もしかしてホントに…異世界帰りの奴かよ?」
ちょうど、車のナビゲーターのようなガラスパネルが目の前にある。周辺の明るさに応じて光度を変化させたようにガラスの色は透明から半透明へ。色がクリアから乳白色へと変わった。右上に浮かぶ電源ボタンのような丸い赤色が気になる。
恐る恐る赤〇に指先を伸ばしてみると、タッチパネルのように触る寸前に反応した。
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名前/ケンゴ 種別/人族
性別/男 年齢/25
ユニークスキル/SA
レアスキル/今いる場所 郷に入っては郷に従え
ノーマルスキル/
称号/転生者
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「どっから突っ込めばいいのか分んねぇ!」
思わずその場に腰を下ろした。ちょうどクローバー畑のような丈の短い草がびっしり生えているだけだから、草むらに何かが潜んでいる可能性はない。
「落ち着け俺。落ち着け俺。すぅーはーすぅーはー」
「えーと、まずは…」
上から順にいこう。
一段目。名前がケンゴとなっている。だが、俺にはそれが本当の名前かどうかが分からない。苗字があったはずだがそれは書いてないし、書いてあったところで名前同様それが自分の本当の名前かどうかすら分からない。
「ま、いいけど…」
俺はケンゴだということにした。別の名前に改名したいというわけでもない。それならそれで、まあいいかって感じだ。
種別が人族になっているということはだ、人族以外もこの世界にはいるということだ。
「うん、新しい出会いに乾杯!」
乾杯出来るといいな…ってことで次。
性別が男というのはいい。これで女と書いてあったら違和感バリバリだ。うん、次。
「歳は25か…」
覚えてないが、なんとなく…もっと年いっていた気がした。おっさんが、25に若返って転生したような気がする。
「ま、若くなっててありがとうということで…」
下手に赤ん坊や小学生からのスタートになってなくてマジよかった。良かった。
「ユニークスキルがSAってなんだ?」
これって、黄金ガチャで出た大きな方のカプセルの中身だろうな。
タッチパネルでSAの文字に触れようとすると、タップしなくても別画面が開いて詳細が出た。
「なんだこりゃ!」
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ユニークスキル/SA レベル1
はじめに/利用する前に読むべきこと
管理人について/使いこなしガイド(熟読を推奨)
設定について/詳しい説明を読む 設定する
レベルupについて/表示する 表示しない
閉じる/終了
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「取説かよ!」
ま、順番に読んでいくか。俺は買ってきたばかりの家電や商品などをいきなり使うタイプじゃない。特に新商品などは、必ず取扱説明書を読むタイプだ。
「ってか、SAってサービスエリアってことか?」
なんじゃそりゃ? とここで思うのも仕方がないだろう。
単純にSとAが二つ並んでいればスペシャルAとかシークレットAとか、スーパーAとか…とにかく特別、すごっ、いい、みたいな意味でチートっぽい予感がしないか?
「サービスエリアがユニークスキル? 確かにユニークだけど…ユニークすぎるだろうがっ!」
俺スゲー! とか、俺無双とか、俺最強とか……
「そういうんじゃない…のか? 普通は…普通はよぉ」
と、ここで俺は思い出した。思い出してしまった。女神様みたいな存在から言われていた言葉。
『はじめにお伝えしておきますが、ランダムなどではありません。その結果はあなたの生前の行いや経験、職業などが反映されています』
「これかーっ!」
と叫んだところで思い出した。怒涛のように思い出してしまったよ。
海の家。ホテル。ガソリンスタンド。ファミレス。コンビニ。工事現場の警備員に夜間のビル警備員。それぞれで働いた経験があった。そして最後に公園の清掃ボランティアもしていたことがある。
うん、そんな経験があった、気がする。
「経験や職業! 経験や職業っ! 思い当たることでいっぱいだ!」
不思議なことに。どんなふうに生きてどんな風に死んでいったのかもわからないくせに、どんな仕事をしていたのか…どんなことをしていた経験があるのかなぜか思い出せてしまった。
俺はサラリーマンではなかった。格闘家でもなかった。棋士でもなかった。海の家でバイトはしていたがサーファーではなかったし、ガソリンスタンドで働いていたが車マニアでもない。簡単な点検ぐらいならできるが、車の整備などできるほどの知識も経験もない。せいぜいが冬用タイヤの交換作業ぐらいだ。あ、ワイパー交換もできるな。
ファミレスで働いていたがホール係で調理経験はない。コンビニは忙しすぎて、すぐにやめてしまった気がする。
でっかいため息が出た。
「…………仕方ない、頭切り替えろ。次っ」
多分、高卒か中退ぐらいの学歴で稼ぎもいい方じゃなかった気がする。だけど、そこそこ人付き合いはうまくいっていて悪い人生ではなかった気がする。俺の人生、きっと悪くなかった気がするから……もういいや。
「えーと…」
【はじめに/利用する前に読むべきこと】をタップ。
このユニーク・スキルSAには多くのスキルツリーがあります。レベルが上がることによって出来ることが増えていきます。
このユニークスキルを使いこなすことができれば、あなたの人生が実りある豊かなものになるだけではなく、地域社会に大きく貢献できることになります。
このユニークスキルによって多くの人々が幸せに暮らしていけるよう、その発展を願っています。
「…………」
女神様からのメッセージか?
ろくすっぼ説明もなく、ガチャだけ回させてポイっと捨てられたかのように感じていたが…悪い人ではなかった…いや、悪い女神さまではなかった気がする。
むしろここは感謝しておくべきだろう。
ユニークスキルガチャを1回。レアスキルガチャも2回まわさせてくれた。
俺はクローバー畑で正座をすると合掌して「ありがとうございました。感謝しています」と祈っておいた。
多分仏教徒だっただろう俺には正式な祈りの作法なんて分からないが、気持ちは込めておいた。
「さて、頭切り替えて…次っ」
再び胡坐を組んで座ると【管理人について/使いこなしガイド(熟読を推奨)】をタップした。
◆管理人に出来ること
◇道に面した任意の場所にSAを設置出来る(勾配が急でなければ坂でも可)
ふむふむ。なるほど。設置するには道に面しているということが必須なんだな。
そりゃそうだ。田んぼのど真ん中にあったらそれはもうサービスエリアとは別物だろう。
◇SAの名前を決める(変更可能1回/24時間)。自動的に看板が設置される
名前かー。名前ねぇ…いや、そもそもこの世界には車はあるのか? んーパス。もうちょっと考えて後で決めよう。
◇SA利用(入場料の有無)や各施設の利用料金を設定可能(随時変更可)
ほう。向こうの世界だとそのへんの利用料はタダだったが、遊園地などへの入場料みたいな感じで中に入るだけでもお金をとってもいいのか。ってか、この世界のお金の単位とか…
「あ…」
知らないぞと思ったところで、情報が出てきた。頭の中に。
どっと知識が押し寄せてきたので詳細は後で整理するとして、簡単に言うと…単位はメレルとラサ。ラサの方は高額硬貨なので一般市民が基本的に使うのはメレル。それさえ知っていればいいみたいだ。
「次だ、次」
◇管理人はSAエリア内のすべてを無料で利用できる
おー。そりゃ良かった。
俺は無一文だ。胸を張って言える。
◇管理人事務所内にある操作パネル、あるいは携帯端末を使って各種設定が可能
ふむ…。これは後で実際に事務所とやらに入ってみれば分かるか。
◇SAエリア内照明の照度や点灯消灯時間、他環境設定も自由に設定可
なるほど。こっちも事務所内に行って試してみれば分かることか。
だけど…照明があるのか。ありがたい。
◇SA内にいる迷惑客の強制退去可。指定ワード変更可。(デフォルトは対象を目視して『退去』宣言)
おー。こういうパターンもあるかもしれないってことだな。コンビニでの迷惑客対策は大変だったから、これはかなりありがたい。
指定ワードが変更できるらしいが、別にこのままでもいいな。分かりやすいし。
◇SAはいつでも撤収できるが、事前に客をエリア外に誘導告知をする。出ない者は強制退去可。
ってことは、エリア内に誰かが残っていたら撤収できないんだな。しかし…撤収か。
◇管理人事務所のみの設置も可能(この場合はほぼどこでも自由。町中も可)
お? おぉー!
◇管理人事務所のみ隠しモード可(出入りすると客には突然消えたり出現したように見える)
おぉおー! すげぇ!
つまりあれだ。人目につかず隠れることができるってことだろ。事務所、早速設置してみたくなったな。すげぇわくわくしてきた。
ここに事務所を出すかどうか迷ったが、現在ここにいるのは俺一人きり。人もいないし鳥も飛んでいないし、虫すらいない。このまま取説を読み進めることにした。
◇客をゲスト指定可(入場料・施設利用の無料設定などのゲスト対応が可能)
ふむふむ…
◇SAエリアのデザイン設定(選択による)
ふむふむ…。これも事務所内移動後にチャレンジ! な案件だな。
◇自販機から無料購入した商品を客に直接販売、物々交換が可能
ん? どういうことだ?
自販機があるのはサービスエリアのサービスの一環として考えればおかしなことではない。ここが異世界だという時点でかなりおかしいが、とりあえずスルーして考えてみよう。
俺が自販機から無料購入した商品を、わざわざSA利用客に直接販売する? なんでだ?
または物々交換が可能? どうして?
「…分らん」
なんでそんな面倒なことをする必要があるのか分からんが…
「待てよ」
物々交換とは…つまり、俺の品物と別の誰かの品物を交換する、ということで……
「あっ!」
分かった。分かってしまった。
「そういうことか…」
つまりは、俺がスキルの能力で手に入れられる品物を、スキルでは手に入れられない商品と交換してもらうということだ。言い換えれば、俺にはそうすることでしか手に入れられないものがあるということだ。
「そうか…そうだよな。はじめのところで『スキルが上がればいろいろなことが…』って書いてあったよな」
現状。何ができて何ができないのか確認する必要がある。いや…だがまずはこの焦りを抑えて、先の説明も読み進めるべきだろう。
◇SAを設置した場所を地点登録出来る。登録済み地点があれば転移可能。
「………はぁ?」
俺は二度読み返した。間違いない。
『転移可能』、とそう書いてある。
「どういうこった!」
いや、転移の意味は分かる。分かるが…しかしだ…いいのか?
「サービスエリアが転移するだと?」
意味わからん。いや、意味は分かる。だが…しかし…なんでだ? この世界ではサービスエリアが転移するのは当たり前のことなのか?
羊がいい草を求めて移動する。放牧地を探すのとはわけが違うんだぞ。
「………ひょっとして…」
放牧と変わらんのか? 客が来なけりゃ売り上げにはならん。羊が食う草を求めて移動するように、俺は客を求めてさすらうのか?
「のか?」
「………………」
「………………………………」
ここで一息、深呼吸。
「次いこ、次」
◇従業員の外見や種別を好きに選んで設定できる
「………………」
どこを突っ込めばいいんだ?
ここでいう従業員とはなんだ? コンビニのバイトくんとは違うのか?
種別? 外見? 設定できる?
「これもパスだ。パス。後でもう一度考えよう」
◆管理人もできないこと
お、ようやくできることの説明が終わった。今度はできないことか。
◇道に面していない場所や街の中などにはSAを設置出来ない
ふむふむ。これは理解済みだよ。おっけー。
◇自販機や商品などの価格設定(決定の裁量ナシ。変更できない)
え? そうなのか?
決定の裁量ナシとは厳しいな。
◇自販機商品の入荷(自動追加。SAを撤収、再配置する必要あり。朝6時~入荷)
おや? そうなんだ?
自分で商品管理しなくてもいいとは…なんと素晴らしいんだ。 朝6時過ぎてからSAを撤収。再度設置してオープンさせれば商品補充されてるってことだろ。おっけーオッケー。
◇破損施設の修繕(一度SAを撤収、再配置する必要がある)
へぇー。
自動修繕してくれるんだ。こりゃ助かるな。
◇販売商品などの注文やリクエスト、変更はできない。
あー。これは仕方がないの…か?
もしかしたらレベルが上がることで自由になる可能性も…有りなのか無しなのか分からんが…ともかく理解した。
◇トイレ他、施設の清掃(汚れは自動清掃。一度SAを撤収する必要がある)
おー! トイレ掃除しなくていいのか。これも助かるぅ。
◇集金。(自動集金のため、入場料や自販機などの商品売上を集金できない)
「………………」
「………………………………これか」
そうか。これなんだな。先にあった物々交換や直接販売の抜け道は、これがあるから用意されていたのか。
つまりあれだ。俺はサービスエリアというユニークスキルでどんなにモノを売っても、サービスしても現金は手に入れられない。現物や現金が欲しけりゃ直接販売や物々交換をしろってことだな。
「…………オッケー……」
オッケーするしかねぇだろ。
ふうっとため息をついて気持ちを入れ替える。管理人にできないことの説明が終わったぞ。
【設定について/詳しく説明する 設定する】のうち【詳しく説明する】をタップ…しないぜ。
「……………」
これは管理人事務所に移動してからにしよう。その方がいい気がする。断じて説明を読むのに疲れてきたという…そんな理由じゃない。
【レベルupについて/表示する 表示しない】
「…………」
【表示する】を選択。…………しない。
どちらもしない。
レベルアップの条件。知りたいか知りたくないか。
そりゃ知りたい。だが、知ったことで一喜一憂する気力がないんだ。そう、疲れたんだよ、俺は。
最後に【閉じる/終了】をタップ。
取説に変わっていたステータスボードが消えた。
俺はごろりとクローバー畑に寝っ転がった。
「あー空気が美味い」




