第8話 付いたものと、付かなかったもの
朝、委員会室の画面には、すでに更新が入っていた。
例外記録:付与。
対象は、申告を止めていた生徒。
条件は、規定通り。
遅延日数、他項目の確認、委員長の承認。
すべてが揃っている。
「処理、終わってる」
誰かが言った。
感情は含まれていない。
私は、履歴を開いた。
付与時刻。
担当。
理由コード。
記録としては、完全だ。
午前中、その生徒は普通に登校してきた。
席に着き、授業を受け、ノートを取る。
周囲と話すこともある。
変わった様子は、ない。
昼休み、過剰申告の生徒が委員会室に来た。
「昨日の、もう少し書いた方がいいですか?」
画面には、すでに十分すぎる文章がある。
「問題ありません」
同じ答えを、今日も使う。
生徒は、少し安心したように頷いた。
その安心が、どこから来たものかは分からない。
午後、例外が付いた生徒が、廊下で立ち止まっていた。
掲示板を見ている。
公式のものだ。
そこに、例外についての説明はない。
あるのは、行事予定と注意事項だけ。
私と目が合った。
何か言いたそうだったが、何も言わなかった。
声をかける理由は、ない。
放課後、委員会室で再確認を行う。
例外は、解除されていない。
解除条件は、まだ満たされていない。
「本人、知ってるのかな」
誰かが呟いた。
委員長は、首を振った。
「通知は行ってない」
それで終わりだ。
例外は、
本人のためのものではない。
制度のためのものだ。
帰宅後、自分の記録を見る。
今日の申告は、問題なく送信されている。
過剰申告の生徒の文章を、もう一度だけ読む。
そこには、不安が丁寧に並んでいる。
例外が付いた生徒の欄を見る。
そこには、何もない。
どちらが危険か、
どちらが安全か。
その判断は、
どこにも記録されていない。
私は端末を閉じた。
付いたものは消えない。
付かなかったものも、残らない。
それだけだ。
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