第7話 書きすぎる人と、書かない人
最初に異変が現れたのは、数値だった。
朝の委員会室で一覧を開くと、
ある生徒の自己申告欄が、異様に長い。
行動、移動、会話、沈黙。
すべてが細かく書かれている。
時間も、場所も、感情に近い言葉まで含まれていた。
規定違反ではない。
自己申告に上限はない。
「多いね」
誰かが言った。
それ以上の評価はなかった。
一方で、別の欄が、完全に空白だった。
一日だけではない。
二日目。
三日目に入っている。
名前を見るまでもなく、分かる。
掲示板で噂されていた生徒だ。
午前中、過剰申告の生徒が委員会室に来た。
相談という形だった。
「これで、足りてますか?」
端末の画面には、
昨日一日の詳細が並んでいる。
私は、規定文を思い出す。
――自己申告は、本人の裁量に任される。
「問題ありません」
それだけ伝える。
「全部書いた方が、安全ですよね」
私は、答えなかった。
答える義務はない。
午後、申告停止の生徒が来た。
こちらは、用件が違う。
「書かなくても、いいんですよね」
質問というより、確認だった。
「規定では、一定期間までは」
そこまで言って、言葉を止めた。
続きは、制度が言うべきことだ。
生徒は、少しだけ笑った。
「じゃあ、しばらく様子見ます」
それも、規定内だ。
その日の終わり、
二人の記録が並ぶ。
一方は、過剰なほど埋まっている。
一方は、完全に空いている。
どちらも、規定違反ではない。
どちらも、制度の想定内だ。
だが、例外記録の欄だけが違う。
空白の生徒には、
明日、例外付与の条件が揃う。
過剰申告の生徒には、
何も起こらない。
委員長が画面を見て言った。
「明日だね」
それが、誰のことかは言わなかった。
私は、自分の申告欄を開く。
いつもの一文を入力する。
──特に問題なし。
送信。
二人の間に立っているような気がしたが、
私は、どちらにも触れていない。
書きすぎることも、
書かないことも、
制度の中では、同じ距離にある。
衝突しているのは、人ではない。
解釈だ。
そしてそれは、
記録されない。
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