第6話 制度の外で鳴る音
最初に気づいたのは、昼休みだった。
誰かの端末から、短い通知音が連続して鳴った。
画面を覗き込んだ生徒が、小さく笑う。
「また出てる」
何のことかは分からない。
だが、声は抑えられていた。
午後の授業が終わる頃には、
その話題は、教室のあちこちに散っていた。
名前は出ない。
具体的な内容も出ない。
ただ、「見た?」という確認だけが交わされる。
委員会室に入ると、空気が少し違った。
誰も口にしないが、全員が端末を伏せ気味に置いている。
作業を始める前、委員の一人が言った。
「掲示板、知ってる?」
公式のものではない。
学校が管理していない、匿名の投稿サイトだ。
「最近、記録のこと書かれてる」
それだけで、話は止まった。
詳細を聞く人はいない。
私は、作業を終えてから、自分の端末で検索した。
学校名は伏せられている。
だが、内容は明らかに内部のものだった。
《例外って、結局何なんだよ》
《あれ付いたら終わり?》
《消えないってマジ?》
どれも断片的だ。
正確な情報はない。
だが、不安だけが共有されている。
コメント欄には、推測が並ぶ。
《見張られてる》
《申告しないと危ない》
《前に消えたやつ、例外だったらしい》
真偽は分からない。
分かる必要もない。
私は画面を閉じた。
委員会室に戻ると、
委員長が一言だけ言った。
「外の話は、記録しない」
それは規定にも、マニュアルにもない言葉だった。
だが、誰も異論を挟まなかった。
放課後、廊下ですれ違った生徒が、
一瞬だけ襟元に触れる。
チョーカー型の外部媒体を使っている下級生だ。
それを確認するような仕草。
不安は、数値にならない。
だから、記録されない。
帰宅後、私は自分の申告画面を開いた。
今日の欄は、まだ空白だ。
掲示板の言葉が、頭をよぎる。
《書かないと、危ない》
私は、いつもの文を入力した。
──特に問題なし。
送信。
記録は、即座に反映される。
例外も、警告もない。
端末を伏せて、息を吐く。
制度は、何も言ってこない。
音を立てているのは、
いつも制度の外だ。
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