第3話 例外という名前の空白
三日目の朝、端末に通知が一件届いた。
自動ではない。
委員会内部の確認依頼だ。
未申告が続いた場合、規定上は「確認対象」となる。
例外記録へ移行するかどうかを、人が判断する段階だ。
委員会室には、すでに数人集まっていた。
全員、端末を見ている。
会話は少ない。
「まだ、来てないね」
昨日と同じ言葉だった。
ただ、意味は少しだけ違う。
私は該当データを開いた。
行動ログは正常。
移動も、接触も、物品使用も、基準値の範囲内。
異常はない。
例外に該当する数値もない。
唯一、空いているのは自己申告だけだ。
委員の一人が言う。
「例外、付ける?」
質問というより、確認だった。
付けることも、付けないこともできる。
例外記録とは、何かが起きた証ではない。
起きたかもしれない、という余白を残すための印だ。
私は画面を見たまま、少し考えた。
考える理由も、本当はない。
規定では、
・未申告三日
・他項目に異常なし
この場合、即時例外化は不要とされている。
「まだ、要らないと思います」
そう答えると、誰も反論しなかった。
決定は、静かに通る。
昼過ぎ、当人が委員会室に来た。
用件は別だった。
端末の反応が遅い、という相談だ。
私はマニュアル通りの確認を行い、問題は見つからなかった。
通信も、デバイスも、正常。
「ありがとうございます」
それだけ言って、当人は去っていった。
申告については、触れなかった。
触れる義務はない。
夕方、再度ログを確認する。
状況は変わらない。
私は例外記録の項目を開いた。
空欄のままの申告欄を、しばらく見ていた。
例外を付ければ、
その瞬間から、これは「記録されなかった何か」になる。
付けなければ、
ただ「まだ書かれていないまま」の状態が続く。
私は、どちらも選ばなかった。
端末を閉じる直前、
自分の自己申告欄に視線を落とす。
今日一日、特に問題はない。
何も起きていない。
それでも、
何かを書かなかった気がした。
そのまま保存する。
記録上は、完全だ。
ただ、自分の中に、少しだけ空白が残った。
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