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第2話 申告されなかった一件


朝、委員会用端末を起動すると、昨日の印がそのまま残っていた。

空欄は埋まっていない。


時間は進んでいる。

授業も、移動も、他の項目は更新されている。

ただ一つ、自己申告の欄だけが、昨日のままだ。


遅れているだけだろう、と考えることもできた。

実際、そういう例は何度もある。

提出忘れ。

入力ミス。

あるいは、ただの気分。


私は新しい印を付けなかった。

処理を進めるには、まだ早い。


教室では、いつも通り授業が始まっていた。

例の生徒も、席に座っている。

体調が悪そうにも見えないし、周囲と話していないわけでもない。


休み時間、誰かがその生徒に声をかける。

笑い声がして、話は終わる。

特別な空気はない。


昼休み、委員会室で別の委員が言った。


「昨日の、まだ来てないよね」


誰の名前かは出なかった。

出す必要がない。


「まだ」と言っただけで、それ以上は続かなかった。

誰かが理由を推測することもない。


午後、追加の記録が届く。

移動ログは問題なし。

接触ログも平均的だ。

一部の数値が、昨日より少し増えている。


それでも、自己申告は無い。


私はその項目を開き、履歴を確認した。

過去の申告は、すべて揃っている。

遅れたこともない。


珍しい、とは思った。

だが、異常だとは判断しない。


委員会の規定では、未申告は三日経過後に確認対象になる。

それまでは、例外扱いにもならない。


放課後、当人が委員会室の前を通り過ぎるのが見えた。

目が合った気がしたが、声はかけなかった。


声をかける理由は、ない。


帰宅後、端末を確認する。

自分自身の記録は、すべて埋まっている。

行動も、移動も、申告も。


画面を閉じる直前、もう一度だけ例の項目を開いた。

空欄は、変わらない。


私は端末を伏せた。


記録されなかったのは、行動ではない。

申告されなかった、という事実だけだ。


それ以上の意味を付けるのは、委員会の仕事ではない。


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