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後日談 記録外


戻った方が、楽だと思った。


そう判断した瞬間があったわけじゃない。

気づいたら、そうしていただけだ。


構内に入ったとき、

端末が反応したのが分かった。


振動。

小さな音。


――ああ、まだ動いている。


それだけで、少し安心した。


誰にも見つからない時間は、

長くも短くもなかった。


怖かったかと聞かれたら、

たぶん、違う。


不安だったかと聞かれても、

うまく答えられない。


考えようとすると、

言葉になる前に形が崩れた。


だから、記録しなかった。


教室の席は、そのままだった。

誰も何も言わない。


視線はあったけれど、

触れてこなかった。


委員会室に呼ばれたとき、

質問は想像より少なかった。


体調。

問題なし。


理由。

特になし。


それで終わった。


端末に入力するとき、

少しだけ迷った。


書こうと思えば、書けたと思う。


怖かった。

逃げたかった。

何かを見た。


たぶん、どれも正しい。


でも、

どれも今の自分には必要なかった。


書かない方が、

形が残る気がした。


「特に問題なし」


送信すると、

それで全部処理された。


誰かが困ることも、

制度が揺らぐこともない。


放課後、廊下で目が合った。

記録委員会の人。


何か言われると思った。

言ってほしいとも思った。


でも、

何も起きなかった。


それでよかった。


私は、戻ってきた。

世界は、何も変わらない。


語らなかった理由は、

私の中に残っている。


使わなかった言葉のまま。


※本作の世界観や制度設定については、

外部で最低限の補遺をまとめています。

物語単体でも成立する構成になっています。

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