第12話 付けなかった記録
委員会室の棚には、古い端末が一台だけ残っている。
今は使われていない型だ。
処分待ち、と書かれた紙が貼られている。
私は、そこに触れた。
理由はない。
ただ、目に入った。
起動すると、警告が出る。
更新対象外。
閲覧のみ可。
過去のログが表示される。
一年前。
同じ形式の一覧。
同じ並び。
その中に、
一つだけ、見覚えのある空白があった。
自己申告:未提出。
日数:二日。
名前を見る。
当時、私が最初に担当した生徒だ。
問題は、何もなかった。
移動も、接触も、行動も。
数値は、きれいだった。
委員長は言った。
「まだ様子見でいい」
私は頷いた。
三日目の朝、申告は提出された。
遅延は、解消。
例外は、付かなかった。
それで終わったはずだった。
だが、履歴を辿ると、
その後の記録が、短い。
卒業。
転校。
理由:家庭都合。
特別な印は、何もない。
私は、その空白を見ていた。
例外が付かなかった、という事実だけが残っている。
もし、あのとき付けていたら。
もし、規定通り三日待っていたら。
結果は、変わらなかったかもしれない。
変わったかもしれない。
どちらも、記録されていない。
端末を閉じる。
今の生徒の顔が、重なる。
例外が付いた生徒。
申告をしなかった生徒。
同じ遅れ。
違う処理。
制度は、一貫している。
判断したのは、人だ。
私は、自分の端末を開く。
今日の申告欄。
書くことは、ある。
書ける言葉も、ある。
だが、私はいつもの文を入力する。
──特に問題なし。
送信。
過去に、
付けなかった例外がある。
今、
付けた例外がある。
どちらも、正しかった。
そう記録されている。
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