殿下。察してください。― 転生令嬢とその兄の話―
「お兄ちゃん、私に婚約者つくって!」
いきなり部屋に飛び込んできた妹に、アルトは読んでいた書類から静かに顔をあげた。
「……お兄ちゃんじゃなくてお兄さまと呼びなさい。なぜ突然婚約者?ノルテはまだ婚約者はいらないって言っていただろう?」
眼鏡の縁を軽く持ち上げ、首を傾げて妹を見る。
「状況が変わったの!今日入学式だったでしょう?」
アルトはその目をゆっくり細めた。
「そうだね。入学おめでとう」
「うん、ありがとう!そうだけど、そうじゃなくて!!」
「まず落ち着いて。一体どうしたんだい?」
「多分……、多分ね、私。学園で、逆ざまぁされるヒロインなの」
「……」
逆ざまぁ?ヒロイン?
……また何を言い出したんだ?私の妹は。
アルトは妹が誕生した時の事を、今でも鮮明に覚えている。
友人たちの弟妹が産まれた時の話では、赤ちゃんはちょっとサルっぽいと聞いていたのに。
自分の妹は輝く金髪に、少したれ目の新緑を想わせる大きな瞳、新雪のような真っ白い肌。
まるで天使かと思うような、可愛らしい赤ちゃんだった。
それが。
ノルテ一歳。
やっと発音が安定してきた頃、鏡を覗いて何やら叫んでいるのを発見する。
「え!!あたち、びちょうじょ!?」
「かち、かくてー?」
「いちぇかい、ちーと、きちゃあーーーーー!!」
床にペタリと座りながら両手をあげて喜ぶ妹を見て、思った。
――ちょっとだけ変かもしれない……。
そのノルテが。
「物語が始まっちゃったの!私、入学式で転んで、第二王子に助けられて……!」
かなり焦っている。
妹が言うには――
ここは、乙女ゲームを舞台にしたライトノベルの世界で、ノルテはその物語における『ヒロイン』だという。入学式で転んだ彼女に攻略対象者が手を差し伸べるところから始まり、幾つものイベントを経て、彼らとの距離を縮め……。
その結果、妬んだ令嬢たちと軋轢が生まれ、学園内でいじめが発生する。
そして学園創立記念のパーティーで、攻略対象者たちは令嬢らを断罪する――のだが。
その直後、婚約者である令嬢の告発により、いじめの実態が暴かれる。
それがすべてヒロインの自作自演だったと。
結果ヒロイン本人は修道院へ、ヒロインの家は監督責任を問われ、多額の賠償金支払いで没落してしまう。
それが、この物語で用意された“ヒロインの結末”だという。
――そして、その物語は、すでに始まってしまっている、らしい。
「今の内に婚約者作っておけば、逆ざまぁ回避できるんじゃないかと思って」
「どうだろうね?逆に婚約者がいるのに、近寄ってとか言われそうだけど?」
「そんな!」
「それよりも、何で入学式で転んだんだい?」
「……履きなれない靴より、履き慣れている方が良いかと思って。いつもので行ったんだけど」
アルトはまだ興奮しているノルテの為にお茶を用意する。
「かかとが取れて……校門の所で転んじゃったの!そしたら横から手を差し伸べてくれた人がいて」
「うん?(外れた?かかとが?)」
「誰か優しい人が手を貸してくれたと思って。令嬢として、しっかり笑顔でお礼を言ったんだけど」
「転んでいる時点で、令嬢としてはあまり褒められないけれどね」
笑いながらそっとノルテの前にお茶を差し出す。
「その人が第二王子で。さらに攻略対象者が勢ぞろいで!それで思い出したの!」
「それはまた……」
「どうしよう!?」
う~~ん。
ノルテの妄想にしてはちょっと内容が具体的すぎる……。
この子は小さい頃から謎の思い込みで行動する癖があった。
絵本を読んで、この世界に魔法があると思い込み、必死に何やら叫びながらポーズをとっていたり。
『お菓子革命おこす!』と(妹なりに「新しいお菓子を作って世界を変える」つもりで)叫んで作った数々のお菓子は、見た目も味も……思い出したくない物体だった。
その度に、妹は嘆きながら『なんでチートがないの〜!!』と叫んではいたが。
「とりあえず、対象者たちを極力避けたらどうかな?イベントが発生する場所にも、近寄らないように」
妹でも十分できそうな策を提案してみる。
本当にそのライトノベルの話がそのまま進むのか、甚だ疑問ではあるのだが。
「分かった!頑張ってみる!!」
だが、しかし。
「お兄ちゃん……」
相変わらず“お兄ちゃん”呼びが抜けない妹が、疲れ切った様子で部屋を訪れた。
「殿下たちが毎日クラスに来るよ……」
「毎日?」
「お昼も学食のすみっこで食べてたら、見つかって。囲まれて食べるハメになっちゃった⋯」
ガックリと項垂れる妹。
「だから、最近は休憩時間の度に女子トイレに逃げてる」
……授業が終わる度に、毎回トイレへ駆け出していく貴族令嬢がいるだろうか?
「それと、昼食は裏庭の隅とか、使われていない小屋とか。毎回場所変えてる」
――使われていない小屋?貴族令嬢が?逆に危ないような。
「ノルテ。昼食場所はもう少し考えよう。先生に『昼食時間も静かに勉強したいから、教室以外の場所でどこか空き教室ありませんか』って相談してみて」
その時は力強く頷いていたノルテだったのだが。
二か月もした頃、真っ青な顔で帰ってきた。
「お兄ちゃん……」
「今度はどうしたんだい?」
あまりの悲愴っぷりに思わず眉を下げる。
「今日先生に、放課後生徒会の手伝いをしないかって言われた」
「生徒会?ああ。殿下が生徒会長なのか。それも例のイベントなのかい?」
「うん。でも好感度あがってないと起きないはずだったんだけど。先生を通してくるなんて……」
「じゃあ、私との約束で門限があるから無理と断ってみたら?」
教師は『アルト・リースレイ』の名前を出した途端、「そうか、あいつの妹だったのか⋯」と何かマズイ物を飲み込んだような変な顔をしたそうだ。そして門限を理由に、断ってくれることになった。
その後も事あるごとに色々なアドバイスを伝え、妹を見守り……
そして――
「お兄ちゃん!クラスの皆が、殿下たちから逃げるの手伝ってくれるって!」
これだけ追跡をかわしていても、ノルテが彼らにつき纏っているという歪んだ噂が広がっていたのだが。
委員長が疑問に思って妹に尋ねてくれたらしい。
教室で待っていれば殿下に確実に会えるのに、毎回あえて避けているように見える――
『何かを一人で抱え込んでいないか?』と。
その優しい言葉に、妹は思わず泣いてしまい……
そこで入学式からのあらましを全て、皆の前でポツポツと話したそうだ。
最初は『まさか殿下が?』と半信半疑だったクラスメイトたちも、ノルテに付き合って行動している内に、そのしつこさに、異常さに気づく。
「「思っていた以上に、やばい……」」
そこで、殿下たちの動きをクラスの男子が監視に行き、どのルートからこちらへ向かっているか、手旗信号で伝えてくれるようになったらしい。
おかげで闇雲に逃げ回らずとも、そのルートを回避して移動できるようになったと、ノルテは感謝していた。
そう喜んでいた妹が。
ドレスをお茶で汚した状態で帰宅した。
酷く落ち込んで――
「ノルテ?何があったんだい?」
「……」
午後のマナー授業で、数々のテーブルセットへ女子生徒全員が案内されて。
それぞれ身分に応じた席へと着く中、何故かノルテだけが高位貴族用のテーブルに通されたと。
しかも彼女の隣には、殿下の婚約者である令嬢が座っていたという。
そこで、その令嬢から声をかけられ――
「お兄ちゃん、どうしたら良いのか分からないよ……」
ドレスを着替えた妹が、ポタポタと涙をこぼす。
アルトはそっと頭を何度も撫でて、静かに目を細めた。
すぐそこに、学園の100周年創立記念パーティーが迫っていた。
学園の大広間は、創立記念を祝うために華やかに飾りつけられ、生徒だけでなく多くの父兄も招かれていた。
広間に静かな緊張が満ちる中、第二王子はゆっくりと視線を自身の婚約者、ルクレツィアへと向けた。
「ルクレツィア・ヴァルドネーリ嬢、この場を借りて確認したい。一学年の、ノルテ・リースレイ嬢について。我々が彼女を気にかけていることに気づき、周囲に圧力をかけ……その結果、彼女は数か月間クラスで孤立していたと報告がある。事実か」
ルクレツィアは扇を翳し、一瞬だけ目を細めた。
「次に、彼女が学食を利用できないように妨げたと。実際リースレイ嬢は一度しか学食を利用していない。さらに、生徒会の活動に加わってもらおうと勧誘した件についても、彼女に何らかの理由をつけて断るよう迫り、リースレイ嬢が許諾できないよう妨げたと」
ルクレツィアの顔色は変わらない。むしろ何だか哀れみを浮かべてさえいる。
「そして、マナー授業の際。お茶をかけられ、リースレイ嬢は動揺しながら退席したと報告がある」
淡々とした口調のまま、王子は婚約者の令嬢の目をまっすぐに見つめる。
「何か誤解があるなら、申し開きがあるなら聞こう」
第二王子の堂々とした問に、重なるように返答があった。
「誤解といえば誤解ですわね」
「何というか……そこまで見事に都合のいい解釈されるとは……」
「ち、違います!全部勘違いです!」
ルクレツィアのそばにはアルトと、アルトにエスコートされたノルテが立っていた。
「リースレイ嬢!可哀そうに。このような卑劣な行為を受けるなど⋯」
「我々がついています。あなたを傷つけた者を許しません!」
口々にノルテに声をかける第二王子以下、攻略対象者たち。
思わず…
「何故このような残念な思考になるんだい?」
アルトはそっと天井を仰いだ。
私たちがドン引きしていた為か、ルクレツィアがつと一歩前に出た。
「殿下、その報告書は、わたくしが何かやった所を……現場を見ていた者が書いたのですか?」
「……いや。そうではない」
「ノルテさんの状況を見て、“そうではないか”と推測された、という理解でよろしいでしょうか?」
「そうだ。学内の噂や状況から、そう判断した」
「左様でございましたか。(ここまでお馬鹿だったかしら)……いえ、承知いたしました」
ルクレツィアは優雅に一礼すると、ひらりと扇を広げる。
何か一瞬、聞こえたような気がしたが、言いたいことは終わった──とでも言うかのように、私たちの方に視線を流した。
その視線を受け止めると、
「殿下。財務省、参事官を務めておりますアルト・リースレイでございます。発言をしても?」
「貴殿のことは噂で聞いている。財務省きっての若手ホープだとか。リースレイ嬢の兄上であったか」
「有難うございます。妹についてですが──」
「うむ」
「クラスで孤立していたのも、学食を一度しか利用しなかったのも、妹自身の選択です」
私たちの後ろが少しだけ騒めいたが気にしない。
「……どういうことだ?」
「その前に、何故この妹に、殿下方はそれほどまでに目をかけていらっしゃるのでしょうか?」
「それは……。入学式の日、私の前に現れたリースレイ嬢がまるで妖精のようで……」
若干頬を染めながら、視線をそらしつつ答えを返す第二王子。
「もう一度会ってもっと話したいと。最初は良かった。だが次第に全く会えなくなって」
取り巻き達も頷く。
「会えなかった理由について、思い至ることはありませんでしたか?」
「それこそ、私の婚約者が妨害をしていたからだろう」
王子の視線が婚約者を捉える。
「違います。身分上、殿下方から声をかけられてしまったら承らざるを得ません。ですから妹は声がかからないように距離をとりました。妹は毎日訪れる殿下方の目に留まらないように、教室にも最小限の時間だけしかいなかった。であれば、もちろん親しい友人を作ることも難しい。当然孤立する。学食も一度ご一緒した事から利用していませんでした」
「それは……!」
「さらに、生徒会の手伝いについても、私の名前を出して断っておりますが?」
「……それは方便ではなく?」
「いえ。門限は事実です」
「……だが、お茶の件が……!」
「あれは、妹が緊張のあまり、自分でお茶をこぼしてしまったのです。逆にヴァルドネーリ嬢には、色々と噂のある中で迷惑をかけているのに、優しく気遣ってもらったと。これ以上どうしたら良いのか分からない、申し訳ないと妹は涙をこぼしておりました」
「そうなのか?」
「はい。つまり先ほどご指摘いただいた内容は、全て妹自らの意志による行動。恐れながら殿下方の誤解でございます」
第二王子たちの顔色が悪くなっていく。
「だが……だが、」
諦めるつもりがないのか、ノルテを見つめる第二王子の視線が熱くなった。
「そんなはずはない……!リースレイ嬢、お願いだ。真実を言って欲しい!必ずあなたを守る!」
「超絶に話が通じませんね。先ほどお伝えした通り、妹はあなた方を徹底的に避けていたんですよ?」
「違う!私たちは、心が通じ合っている!リースレイ嬢のあの眩いばかりの笑顔!私に向けられたあの笑顔こそ真実だ!」
会場が静まり返った。
婚約者のルクレツィアが居る前で、ノルテに手を伸ばす第二王子に冷たい視線が注がれる。
「まるで、妹も殿下に惚れているように聞こえますが?」
アルトの言葉に頬を染める第二王子。
「そうだ……初めて出会ったあの時、私を見るリースレイ嬢の目が、まさにそれを物語っていた!」
「初めて出会った瞬間に、妹が殿下に惚れたと?」
アルトが首を傾げて問うと、肯定するように、第二王子は誇らしげに顔を上げ胸を張った。
「そうなのかい?ノルテ?」
ノルテはアルトの腕を両手でしっかりと握り締めながら、勢いよく首を横に振る。
ひたすら、これでもか、と。しつこいぐらいに。
そこへ成り行きを見守っていたルクレツィアが、
「まあ、殿下は一応、顔立ちは申し分ないので…自信がおありなんでしょう」と小声で呟く。
そこでアルトは可笑しそうに軽く笑った。
「ノルテは産まれてからずっと私と一緒に暮らしています」
そう言って、かけていた眼鏡を静かに外した。長い睫毛が影を落とす。
「私が言うのも烏滸がましいのですが……毎日私の顔を見ているノルテが、殿下に一目ぼれしたと?」
ゆっくりと前髪へ指を伸ばし、さらりとした淡く光る金髪が後ろへと払われた。
その下の翡翠色の瞳が優しげに細められると、まるで空気を撫でるように周囲へ視線を流す。
その仕草に会場の女性陣から、熱い溜息がこぼれた。
「何て美しい……」
「リースレイさま……すてき」
「かっこいい……」
その何とも言えない圧倒的な美形の色気に、第二王子以下、取り巻き達は息を呑んでいる。
「参考までに少し尋ねてみましょうか」
そう言ってアルトは会場内を見渡した。
「お集まりの淑女の皆さま、この場限りの余興として……私と殿下どちらがより好みでいらっしゃるか、宜しければお答えください」
「!」
「殿下、だと思う方は是非、お持ちの扇を閉じて殿下に主張されるのをお勧めします」
会場内の女性陣が少しだけ騒めく。
「対して、僭越ながら私だと思われる方は、きっとお恥ずかしいでしょうから、お手元の扇は開いたままお顔を御隠し下さい」
見渡しながら極上の笑みを仄かにこぼす。
――数秒の沈黙。
「では、どうぞ」
パチン
第二王子が会場を見渡すと、顔が見えた令嬢はたった3人だった。
もちろんノルテは全力で顔を隠している。
何ならルクレツィアも隠していた。
「え?」
「殿下……。『妹の一目ぼれ』というのは、残念ながら無理があります」
アルトの止めのような微笑みに、第二王子はカッと顔を上気させ、ノルテに詰め寄った。
「そんなバカな!!」
今まさにノルテの白い腕をつかもうと、手を伸ばしたその時、
「きゃあッ」
ノルテの悲鳴にあわせて、アルトが一歩踏み込み、その動きを遮った。
「殿下いけません」
「邪魔をするな!!」
尚も諦めない第二王子に、アルトは溜息を一つこぼすと、
「殿下、妹は殿下のせいで『蕁麻疹』がでております」
「じんましん?」
聞きなれない言葉に「?」を浮かべながら、アルトの影にいるノルテに視線を移す。
そこには──
ノルテのドレスから覗く、細い腕に赤く盛り上がった皮膚……。
虫に刺されたような赤いふくらみが地図上に広がっていた。
「これは!?」
初めて見るその症状に、思わず後ずさる第二王子。
「殿下方がストレス過ぎて、妹はこのような疾患を抱えるようになりました」
「え?」
「お分かりいただけますか?殿下方との関わりをきっかけに悪化するのですよ。これは過度なストレス、つまり嫌なことが続いた結果として現れる症状です」
会いたくない人と、顔を合わせるかもと怯える苦痛
気を遣い続けて、全然休まらない毎日
「この症状は、殿下方の存在が引き起こしたものです」
アルトの言葉に冷や汗を流す第二王子たち。
「妹は殿下に全く心を寄せてはおりません。そのあたり、お察しいただければ幸いです」
そう言ってアルトは見る者を黙らせる、至高の微笑を向けた。
「では、殿下とは婚約解消になったと?」
創立記念パーティーから暫くたった頃、リースレイ邸にルクレツィアが訪れていた。
「ええ。あのような冤罪に加えて、かなり一方的な思い込みをするような方とは、断じて信頼関係は築けないと。父が」
「まあ。そうでしょうね」
アルトはお茶をゆっくりと口に運んだ。
「ノルテさん……ごめんなさいね」
ルクレツィアが眉を下げてノルテを見つめる。
「もっと早く気づいていたら、ああいう状態にならずに済んだのに……」
「そんな……ルクレツィアさま!大丈夫なんです!死ぬまで二度と会わなければ!」
清々しい顔でなかなかキツイ事を言っている妹を、チラリと横目で見て、
「まあ。遠方の国に全員留学となりましたから。こちらとしては安心しました」
そう。創立記念パーティーの騒ぎは、参加していた父兄たちから瞬く間に話が広がり、王家としてもこのまま第二王子を放置する訳にもいかず……。
結果、全員丸ごと海を越えて留学となっていた。かなり厳しい規則のある学園らしい。
ノルテが卒業するまでの間は帰国も許されないと聞いて、一安心だ。
「それに!今は委員長とか皆と楽しく過ごせてるので!」
そう言って、満開の花が咲き誇るように、幸せそうに笑う。
「ノルテは、婚約者欲しいって言っていたけど?あれはどうする?」
「あ!」
「まだ欲しいなら探すけれど?」
顔を覗き込むと、視線をさまよわせている妹がいた。
その分かりやすい態度に思わず忍び笑いをしていると、
「あの、その、ちょっと待って欲しいかな」
「ん?」
「今、気になる人、いるの……」
「委員長かな?」
「!!」
本当にこの妹は分かりやすい。
真っ赤になって、「何で!?」と目で訴えている。
「ノルテさんのクラスの?」
ルクレツィアがこちらを見ながら首を傾げる。
「たしか辺境の子爵家の三男で、卒業後は王宮への仕官を目指しているという、優秀な方だとか?」
「それなら、婚約者候補として検討している家もあるだろうな」
「え!ど、どうしよう……!」
目に見えてノルテが焦っている。
私は可笑しさを堪えながら、いつものように一つ、妹にアドバイスを送った。
アルトはゆっくりとお茶を飲みながら、ルクレツィアと楽しそうに会話するノルテを見つめる。
見る者の心に一瞬で住み着き、その触れた者の心をほどく、淡い奇跡のような光を放つ妹の微笑み。
それこそがノルテの『異世界チート』──な気もするが……。
今回みたいに、思い込みで執着が度を越している相手は本当に大変だ。
まだ暫くは私が必要かな。
ノルテの騎士が見つかるまでは……。
お読み頂き、ありがとうございました。
今回は、ヒロイン自作自演で逆ざまぁの断罪を回避するために、穏便に対処しまくってたら「自分でやってましたよ?」に着地してしまうお話を描いてみました。
妹は転生者で、これであっているのかと不安な毎日の中、絶対に会いたくない攻略対象者たちとの追いかけっこを、一人学園内で頑張って続けていました。結果ストレスフルに。
兄は最初半信半疑でも、最後はしっかり妹を守るお兄ちゃんで、決してナルシストな訳ではないのですが、話が分からない相手の場合は、自尊心をポキッとしてしまう、財務省では影の魔王と呼ばれております。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。




