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「いらっしゃいませ勇者殿」
村の門をくぐると、紳士風の服を着た男性が出迎えてくれた。
「ど、ども……」
「では御案内します」
その男はただそれだけを言って、四人の前を歩き出した。道中、観光スポットやご当地グルメ的なものからいかがわしい歓楽街まで、バスガイドのように説明をしながら街を通った。
最終的に、きっとこの村で一番デカい建物であろう聖堂に着いた。
男は巨大な門を片手で開けると、何も言わずに頭を下げた。
「きっと入れって事……だよな?」
(真昼間だからだと思うけど、中が何も見えねえな)
「怖っっ!やだよ俺!」
ノヴァは自分の両腕を掴み、らしくなくブルブルと震えていた。
「私も怖〜〜〜〜い♡」
「よし行こう」
ノヴァが急にスタスタと歩き始めた。
四人が恐る恐る中に入ると、背後の巨門がキキッと音が鳴り、閉ざされた。中は、昼間だと言うのに真夜中のように暗く静けさが息苦しいほどに蔓延していた。
目の前に見えるのは、この大きさに似合わないがそれでもなお大きな一つの窓。その窓には細かなステンドグラスが斑に配置されている。その無数の点と点からなる光だけが暗闇に光を与えていた。
その時シュッと言う音と共に一つの赤く燃える大きな光が現れた。
「よくぞお越し下さいました。勇者様」
暗闇のせいだろう。一瞬全員があの炎が話しかけてきていると思った。だかすぐその光の背後にいる人影に気が付いた。
その光と人がゆっくりと近づいてきた。炎の光が周囲をゆらゆらと照らし、両脇に並べられている木製の長椅子やその間を隔てるように敷かれた赤いカーペット。それらをみて四人は初めてここが教会であると目で理解した。そんなこんなしているうちに軽い足音と共に炎が上下に揺れ近づいてきて、ついには足元まで迫った。
四人が見下ろすと………
ヒュッ
今この瞬間何かが起こった。
三人が共通して聞こえたのは何か大きなものが高速で動いた時に聞こえるような風を切る音と微弱に聞こえた、火が風に煽られ消える時の音だった。
薄暗い中、ほんの少し慣れた目で横にいるそれぞれの顔を見合わせた。
ノヴァ、アイニス、シグマ、カル……カルマは!
気がつくと足元にいた人もいなくなっている。
すると奥の方でまたシュッと音がした。
再びほのかな光がさっきと同じ場所に現れた。
三人は目が慣れてきて信じがたいシルエットを見た。そのシルエットはまるで小さな人が取ってつけたような巨大な手でまた一人の人間を鷲掴みにしているようだった。
「か……カルマー!!」
「おい!どうなってんだ!!」
「大丈夫大丈夫心配しすぎてだって!生きてるにょー」
握られたカルマの影が手を左右に揺らした。
「黙れ」
その時からまた同じ方向から小さくて冷たい、でも子供のような可愛らしさを兼ね備えた声が聞こえてきた。それと同時にカルマから「ぐぅぇっ」という聞き間違いかもしれないがうめき声が聞こえた。
「ピックファイア!」
アイニスは杖を振り、点高く吊られた昔ながらの蝋燭がいくつも突き刺さされたシャンデリアに光を灯した。
一気に光が辺りを照らし、少し目が眩んだがすぐに、ハッキリとした像が奥の方で見えた。
髪は肩まで伸びる金髪、紫色のローブを身につけ、見るからに金属製の白銀色の靴をはく子供だった。
左手は地面に垂れ下がるローブの中に隠れ見えないが唯一右手だけは見えていた。靴と同じ白銀色の、手袋がつけられていた。その手は180cm以上はあるであろうカルマの肩からふくらはぎまでを握り込む程巨大で、大の大人一人を軽々と宙に浮かせている。
巨大な手袋には、太い動脈ののような窪みの彫りが施されていて、神々しい金色が滲み出ていた。
その異様な光景に三人が見入っていた。
「勇者様………私はあなた方に危害を加える気はございません」
体育館の床に打ち付けられるバスケットボールのように壁から天井からと声が跳ね返りながら、声はここにいる全員が聞こえる最低ラインで発せられた。
「私は国王から命を受け、貴方の勇者の勲章を返却していただきたいのです……勿論!ただでとは言いません!この村には三十人ほどまだ生娘が残留しております。他にも………」
そう言っておもむろに教団の上にかかる赤い布を取った。するとその下からキラキラと遠目から見てもわかるほどの純金の硬貨や、色とりどりの宝石が教壇の上に山のように積み上げられているのが見えた。
「おおお!!スッゲェ!マンション買えんじゃん!
おーい!見てよこれ!マンション買えるよみんな!!マンショ………グゥぁっぺあぁあ!!」
カルマがまた強めのニギニギをされながら会話が戻った。
「どうですか勇者様?これで勲章を返却いただけませんでしょうか?あ!!なるほど、そういうことでしたか……うちの村には6から12まで幅広く品出しをさせていただいています。今年8になったアイラというのが今絶賛でしてね………」
カルマの目頭に薄く血管が浮き上がった。
パンプアップとはこのことだろう、カルマの腕が空気を入れた浮き輪のように太く盛り上がった。
カルマの息が徐々に早く荒くなっていき、体を縛る金属の塊をガチガチと押し広げていった。
それと同時に頭頂部から少しずつ髪色が眩しい異様な銀色に変化し、そのまま参照していくように肌を紫色へと変化していることにはカルマ自身も気づいていなかった。
カルマの腕力が少しずつ強大になっていることに、彼は驚きを隠せない様子だった。彼はより強く拳を握ろうとカルマの方に体を向けたその瞬間、何かの影が降ってきた。
「鎚器!槓振りああ!」
「死鎌鼬!」
ノヴァは滝の流れのように巨大な鎚器を少年に振り下ろし、アイニスは扉の目の前で杖の照準を合わせ、今までにない程の大きさの斬撃を飛ばし、周囲の椅子や地面をズタズタに引き裂いていった。
「はぁー………何をなさるんですかお二人とも……
――愚者の左手」
すると左手の手袋が徐に、沸騰した水のように表面を波打った。ノヴァの刃が少年の髪一本に触れるというその瞬間、全ての光を飲み込むような漆黒に包まれた
巨大な金属製の手袋がノヴァの渾身の攻撃を受け止めた。その手袋からはメラメラと黒い炎が立ち昇り少年自身の服も黒炎の火花が燃え移り、身につけるローブやカソックが燃えて瞬時に灰となった。
また、ノヴァの鎚器をその指先でつまみ、ノヴァごと、お菓子のゴミをポイ捨てするように投げ飛ばし、手のひらを大きく開き、腕の角度を変え、そのままアイニスの魔法を握り潰してしまった。
「何にが不満なのでしょうか?全く理解できません。あと、私はずっと貴方に話しかけているんですよ!勇者様!」
そう言ってアイニスの隣に立つシグマを巨大な指で指した。
「お、おれ!?」




