26
「いやさーあの勇者どうすんのホント」
「噂じゃ、カルロスに勝って勇者になったんだとか……」
「そなの?」
「それに、バロリックにいた元警官なんでしょ」
「なんだと………」
円卓にの席に座る一人の男が、低い声を上げた。まるで今までずっとそこで苔むしていた岩が切れ目から声を発して出したかのように見えた。
「あっそういえばアンタの息子さん、あん時に死んだんでしたっけ?」
一人の男が、軽々しく放った言葉によって一瞬にして場の空気を物理的に重くした。
「………………」
地震のような揺れがこの部屋を襲い、天井から若干のすすが舞い落ち、どこからともなくネズミ達やらGやらが這い出て、扉の方へと走っていった。
「じょ……冗談ですってホント」
「でっ!………どうするんですか?あの勇者。野放しにする気はないんでしょ?」
「こっちに取り込むか、無理なら………まあそこら辺はおまかせします」
「でもすごいな……あの歳でカルロスに勝てるってなかなかだぞ」
「シチュエーションによっちゃあ子供でも勝てるぞ
それにカルロスだろ?まあ……うん…ん?…アイツ強くなかったっけか?」
「勇者は、魔教使いだ」
「!」「!」「!」「!」
「それも南の魔王の幹部ときている」
「ちょっ……ちょっと待って下さいって。魔教使い?………今時いないですよそんな奴」
「魔教使い………ですか?俺も見た事ねえや」
「南となると……カルロスに向かわせませんか?二回目なら負ける訳もない」
「メビウス君達もそっちにいってるはずなんで向かわせましょう」
「カルロスを勇者のところへ、魔王のところにはメビウスを向かわせましょう」
(まずい事になったな)
この席にまだ何も喋らない老人がいた。
この老人は南家の現当主であり、ノヴァの祖父でもある。
「アンタはどう思うよ………ジェンさん」
「お、おう。……ワシは別にほっとあてもいいと思うけどな。別に罪を犯したわけじゃないし。魔教だっていうがどうして分かるんだ?証拠がないだろ」
「確かに!それもそうだな……」
(大丈夫のはずだ仮にもその勇者は転生者を倒している、それにノヴァも一緒だ。きっと……きっと大丈夫だ)
一方彼らは…………
「誰よ!私の服取ったの!!」
寝ぼける男達は知らんという表情で首を横に振って見せるがその後ろには、昨夜使った消し炭の中に何かしらのフリルの燃えかすがあったとさ。
皆が朝の身支度をしていると、アイニスがまた発狂する声が聞こえてきた。
皆んな牛乳の入ったコップを片手に眠い目を擦りながら声の方はゆっくりと歩いた。
そこには草むらの中で俯きながらしゃがみこむアイニスがいた。
「何してんの?ダンゴムシの真似?」
ノヴァは丸まった背中を撫でた。
「どうせあれだろ、小便してたら石にはねて目に入ったとかだろ?」
相変わらずを態度で、シグマが意地悪を言うのを見て笑いを抑えているカルマ君。
だがアイニスからの応答はない。
カルマは「は〜」とため息をついて、何も言わずにアイニスをおぶった。
「どうしたのかなーアイニスちゃん。泣いてるのかなーー?」
カルマはまるで二歳児を慰める母のような語り口調でキャンプの場所へと歩いていった。
なんやら聞いてみると、小便してたら飛び散ったのが目に入った上、足にムカデが這い上がってきていて、驚いて腰が抜けて動けなかったのだと言う。
それをシグマに突かれてとうとう泣いてしまっていた。
「はあ〜あーシグマ君はそう言うところあるからなー!!気をつけなっほっとに」
「ええーー!こんなん事故だろ!」
「ノヴァ、この子あやしといて」
そう言ってノヴァにアイニスをおぶらせ、自分は薪にマッチで火をつけた。
「俺はこれから二、三日はお前達を助けてやれないんだから仲良くしとけってマジ」
「俺はもうそう言う性分なの!」
「んな事ねえだろ。兄貴にそんな嘘通じると思ってんの?まあさ、わかるよ。あれだろ思春期特有の好きな子に意地悪しちゃう的なね!奴だろ!分かってんだからお兄ちゃん」
「思春期って……!そんな小学生みたいなことしねえよ!ノヴァじゃあるめえし」
「誰が小学生じゃい!!」
シグマの背後からドロップキックが飛んできて、背骨に大ダメージを与えた。効果はバツグンだ!
「いやおまえは小学生だろ」
うずくまるシグマをカルマが担ぎ、アイニスはノヴァに担がれ、キャンプを出発した。
「にしても、昨日のやつ何?なんであいつまた来たん?めんどくせえは」
「まぁ転生者だし、しょうがないよ。ほらアイツら……特に召来者は思い込み激しいじゃん!!」
「でも多分アイツ純正だよ?それでアレって………………ねえ?」
その時道を一人の女性とすれ違った。
変な仮面を被って、黒装束に身を包んだ変わった格好をしている。顔に仮面……と言うよりかは紙?紙に顔がズーーンとした悲しそうな顔が三本の線のみで描かれている。
カルマは一瞬ピクッと動いたように見えたが、平然と歩き続けた。
近くの村へ着き、消耗品を少し買い、すぐに関所を通って次の街は向かった。
その道中、見覚えのある女性とすれ違った。
その瞬間またカルマはピクッと動いたように見えた。
だがまた平然と歩き続けた。
痺れを切らしたノヴァはカルマに聞いた。
「さっきからどうしたんだよ?たまにフリーズしたみたいにピクッ!ってなってるけど?何?発作?」
「お前気づいてないの?さっきからおんなじ女がすれ違っては居合ってきてるんだよ。ほんと困っちゃうよね」
「え!?」
「え!?じゃないよほら前よく見ててみ」
小声でカルマにそう伝えると、確かに見覚えのある女性が歩いてきた。
カルマは何食わぬ顔で歩き続ける。女との距離が段々と近くなっていく。そしてとうとう横から見たら二人が重なって見えるぐらいの距離になった。
その瞬間、ノヴァがカルマとの試合で見せた、あのどデカい斧で、カルマの顔面を狙った刃を防いだ。
(カルマはシグマを背負ってる上、今戦えない。それに俺もアイニスをおぶっている!どうする………)
お互いの刃が擦り切れんばかりに、お互いを鳴らし合い、あまつさえ力が均衡している。
(この女……!)
相手は自分の断么を小刀で受けているのだ。背中に人を乗せているとはいえ、この状況……
マズイ!!
「おーい!」
その時横からカルマの声と共に小石のようなものを投げつけられた。反射的にそれをノヴァは手に掴んだが、開いたその手の中には、白い錠剤があった。
(これってあんな時の聖錠………)
その瞬間、断么により力が伝わってきた。
(コイツ……押されている!!)
ノヴァはパクっと口にそれを放り込んだ。
「起きろっ!アイニーース!!」
「ファっ?!」
幸いアイニスは魔法を使える。取り敢えず戦えないカルマをどこか逃がして、そこからコイツを俺とアイニスで倒す。だからまずはカルマを………
(って!もういない!………まぁでも手間が省けたぜ)
「アイニス!立って、コイツを!!」
そう言ってアイニスを背中から引き剥がした。
「なに!?どう言うこと!」
「いいから魔法を………」(いない!?)
目の前にいた女が視界から消えた。どう言うことだ?逃げたのか?それとも…………はっ!カルマ……
無意識に振り向いたその時、頭上で串刺すように小刀を持つ女がいた。あの瞬間高く跳躍し、一瞬にして視界から消えた。高く登った太陽の光の中に身を隠し、自由落下で落ちてきていたのだ。
「鎌鼬……!」
女は手で頭を側面の衝撃から守るように腕を縦にし、間一髪直撃を避けた。女は草むらに倒れ込んだが、瞬時に立ち上がって、今度は一直線にアイニスへと走り出した。
その間、アイニスは二度エアブレイドを放っていたが一度目は短刀で受け流され、二度目は刹那の狂いも許されないであろう繊細な動きで避けられてしまった。
女が短刀の刃先をアイニスに突き立てる瞬間、女は背後から忍び寄るように現れた異様な気配を察知し、振り向いた。するとそこには、金棒のような武器が振り下ろされてきていた。
「混一色ァァァァ!!」
女は刀の棟をもう片方の手で押さえ、その巨器を受け止めた。女の足から血に大きなヒビが入り、周辺一帯を大きく深い地割れを作り出した。
(これでも受け止めんのかよ!)
女はさっきのアイニスの攻撃で片腕を負傷していると言うのに軽々と部下を受け止めて見せている。
アイニスはノヴァの武器を見て、一旦草むらに身を潜めた。あんな大きな武器を振り回すのだ。仲間がいてはやりずらいこと、この上ないだろうと思ったのだ。
だがそれに気づかないほどアホな相手ではなかった。
女は尚のことアイニスを狙い続けた。
「ッェエーーーー!!なんでこっちくんのよ〜〜ー」
(あーあー取り乱しちゃってま〜)
遠くの木の上からカルマとシグマが3人を見ていた。
「大丈夫なの?あれ?」
「ノヴァがいるし、それにアイニスも弱いやつじゃない。連携が取れてないだけで単体で十分強い二人だから、流石に負けないとは思うけど……」
最後の『ど』を強調して言った。
そう言ってカルマは枝の上に立ち上がって、シグマに何かを指示した。
「オラああ!」
ノヴァが渾身の一撃を放って尚、短刀一本で受け止められる。それどころかその手つきが段々軽くなっているような気がする。
手が塞がった、女にアイニスがエアローグローブを使っても片手でいなされるか、避けられらちが空かない。
ノヴァは一瞬神器一体を使おうか悩んだがカルマの今までの行動から察するに、それを使った瞬間カルマが飛んできて戦いを強制的に終わらせるだろうと考えた。
この戦いで求められているのはいかに傷つけずに無力化するかだ。
正直、アイニスの攻撃を何度か受けているため、女の左手はかなり負傷している。今更そんなこと言ってらんない気もするが、一番の問題はこのままだとアイニスが痺れを切らして「死鎌鼬」を使い出すことだ。
その前に俺が終わらせないと…………
混一色をより一層早い速度で女に向かって振ったが当たり前のように女は軽々と交わした。その時………
「思器…如月」
その声と共に蒸気を湧き出させながら異様な形をした刃がいつからか女の手に握られている剣の柄からヌッと現れた。
(アレは!コタロウが使っていた……)
その時に一つの事が脳に突如出現した。
「アイニス!引けーー!!」
「え?!」
「メビウスがお前の仲間にやられたんだ。子供を殺す趣味はない。勇者を今すぐに呼べば命は取らないでやる。勇者を呼べ」
女が冷たい声で簡潔に要求を述べた。
「おいおい大丈夫かよ?!あに……」
横に立っていたはずのカルマがいないことに気がついた。すると座っていた、木の枝が弾け飛んだように無くなっていることに気がついた
「おいおい!」
カルマが爆発的な速度で木々の枝を抉るように現場まで駆け抜けたことが目の前の光景を見れば容易に想像ができた。
「マジかよ」
遠くから何やら音楽が聞こえきていることにアイニスが気がついた。
「何か聞こえてこない……」
「そんなこと言ってないで!アイニスは下がれ!!
早く!!」
「春声…………」
その瞬間、カルマは女が立っていた方を反射的に見た
だが案の定そこに彼女の姿はない。
その時、ゾッとするデジャブのような感覚に囚われたノヴァは頭を守る形で混一色を持ち上げて急いで頭上を見上げた。
だがそこには誰もいなかった。
ノヴァの体は肺から空気を押し出して、小さく「はあ」と言う声を喉から出させた。
だが、体内が異様に暑くなっていくのを感じた。冷や汗が背中から泉のように出ている気がするほど発汗。
視点を落とすと、それと一緒にある音が聞こえた。
シャーー
雨音というと聞こえがいい。
「あ………あ……」
口から何か液体が出ている。唾液よりも温かい。味が後からついてくる、これは………
「子供を傷つけるのはやっぱり苦手だ……」
ノヴァの手から混一色が落ち、ふらつくノヴァ。
「早く勇者を読んだ方がいいよ。」
女はアイニスの背後に周り、その手に持つ異様な剣をアイニスの喉元に突き立てた。
「ハア………ハア……ハア」
アイニスが死ぬ
オッサンを呼ばないと
俺が死ぬ 俺が負けた
痛い
死ぬかも
カルマに治してもらわないと
仲間が殺される
血が出てる
カルマを呼べ!! 畜生!
痛い痛い痛い
兄さん達のとこに……
俺がのせいで
武器を取らないと
まだ負けてない!!
フラフラする 俺がやらないと
ノヴァの混一色が徐に収縮した。あの巨大な武器が一気に指輪の形状をした鉄の塊に収縮したのだ。
(ああ……もう無理か)
ノヴァは天を仰いだ。涙をこぼれないように眩しさを堪えて空を見上げた。
(青いんだなー……空って)
「死ぬ前のお別れをさせてあげるつもりだったのに。このままじゃ辛いでしょ?大丈夫、今殺してあげるからね。」
アイニスを残し、消えたその女は風のようにゆるりゆるりとノヴァの背後に回った。
「大丈夫、怖くないよ」
凄まじい速度で空を切り裂き、ノヴァの首を刎ねようと自我を持って動いているように刀が振られた。
その刹那、ノヴァの目の前には走馬灯が万華鏡のように何面にもなって映し出された。
(ああ……思い帰してみると俺って……短い人生送ってたんだな。じいちゃんごめん………約束、守れそうにないは。)
ノヴァが静かに瞼を閉じようとした時、目の中に弾けるような光が飛び込んできた。
それをみた瞬間ノヴァの脳みそは、生きる伸びてアイニスを守る事を選んだ。




